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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第三章
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興奮するもの

 俺の言葉にリリーは黙ってついてくることとなり、町中を進む。彼女としては俺の候補というのがどういう場所なのか予想はできないと思うので、サプライズにはなるかなあ。

 目的地の品物が売っている店については、すでに目星はつけてある。町を散策する時間はほとんどなかったのだが、これは必要になるだろう、ということで事前に調べておいたのだ。


 歩みを進めながら周囲を見回す。警備を行う兵士の姿が多いように見受けられるが、それ以外に何があるわけでもない……至って平和なものだ。


「彼らは当然……『闇の王』が顕現する直前まで、平和に暮らしていたわけだよな」

「いきなり蹂躙されたわけで、その恐怖は想像を絶するくらいだっただろうね」

「……そういえば、『闇の王』に関連する話で、あの闇の出所ってよくわかっていなかったよな」


 迫る闇に対し俺とリリーは戦いを余儀なくされたのだが、そいつがどこから出現したのかなど、わからないことも多い。

 そもそも『前回』は調べる暇すらなかったので、結局その辺りの詳細は解明できなかった。ただ一つ言えることとしては、


「この竜の都周辺……いや、リューデ山脈からスタートしたんじゃないかという話もあるな」

「この山脈周辺から被害が出始めていたからね。でもあくまで周辺だから、山のどこかだけでなく、周辺の平野とかも含まれている。範囲が大きいし『前回』と状況も違うから、探して見つかるかどうかはわからないけどね」


 二年前だからなあ。ただ『仮面の女』が色々と種を蒔いているのは事実だし、今回の一件はその一つかもしれない。

 ロックが『前回』の悲劇を生み出した存在だとしてもおかしくはないのだが……と、考える間に俺達は目指していた場所に到着した。


「この店は……?」

「入ったらわかるよ。ま、今回はあくまで下見でいいだろ」

「下見?」

「ああ」


 頷き、俺は先導する形で店の入口に立った。


「正直、デートという名目で入る場所としては微妙なところかもしれないが……興味を持つのは間違いないと思うぞ」






 で、結果なのだが、


「――おおおおおおっ!」


 はい、リリーは見事に興奮している。気に入ってもらえてなによりである。


 肝心の店についてなのだが……簡単に言えば、アウトドア用品を取り扱っている店である。元の世界で言うとそんな名称になるのだが、この店の名目としては旅装関係の品物を販売している店である。

 ただ、竜族の店ということで品揃えも結構異なる。まあ竜族用に作られた物ではあるので俺達がどこまで扱えるのかは不明なのだが――


「こ、これは……野営用のキッチングッズ!」


 こういう物にテンションが上がっているリリー。というか、竜族もキャンプとかに使うキッチングッズとか買うんだ……。


「レイト! 買おう! 今すぐ買おう!」

「どんだけテンションが上がってるんだよ! あのな、今回は下見だって言ってるだろ!?」

「お店に入った以上は何か買わないといけないでしょ!?」

「冷やかしで入ったケースもあるだろうに……待てって。何が必要なのかは旅を始める前に洗い出さないといけないし、目的地をしっかり定めていないと必要か不必要かわからないだろ? ゴルエンとかにもきちんと相談して――」

「いらっしゃい」


 男性の店員がこちらに近づいてくる。


「あ、お嬢さんお目が高い。ちなみにそれは限定品だぞ。在庫限りだから次に来た時はもうないかもしれないな」

「限定品!? 在庫限り!?」

「……そういう言葉に弱かったんだな、リリー」


 テンションが高くなっているのは良いのだが、この調子だと見事買わされてしまうぞ。


「待て待て、リリー。ここで衝動買いするのは――」

「今ならお安くしますよ?」

「レイト、安くするって!」

「お前どれだけ乗せられやすいんだよ!」


 思わずツッコんでしまった……そして店員は爆笑している。


「リリー、待てって。仮に買ったとしても使わなかったらかさばるだけだ。いいか、こういうのは衝動的にではなく、一度間を置いた方が……」

「私、これで料理するから!」

「どれだけ欲しくなったんだよ!?」


 食いつきがいいのはこの店に立ち寄ったことを提案した俺にとっては嬉しいけど、これはこれで逆に面倒いぞ。


「あのな……これからの旅でどれだけ使うかわからないんだ。まずは冷静に。冷静に。な?」

「……限定……」


 そんな上目遣いで見られても……。


「あー、さすがに買ってくれる保証がなければ、取り置きするという判断もできないな」


 と、店員はさらに煽るようなことを告げる。くっ、余計な真似を……!


「そして数日以内になくなる可能性はあるなあ。限定品とはいえそれなりに数はあった……が、意外にも竜族印の道具ということで好評だからな。ほら、イファルダ帝国との山道が封鎖されただろ? あれ以降、めっきり客足も遠のいてしまったけど……それほど経たずして解除されるだろ。もし人間のお客さんが立ち寄ったら、すぐに売れてしまうだろうなあ」

「そういうことだよ!? レイト!」

「お前……でもそれ、逆に言えば封鎖が解除されるまで余裕があるってことじゃないか?」

「もちろん同胞である竜族が買いにくる可能性はあるぞ」


 どういう理由でこんな品物を買うのだろう……と思ったが、俺にとって予想もつかない内容なのかもしれない。ともあれ、このままだと買う羽目になるぞ。


「なあリリー、今後山脈の中へ入り込む可能性はゼロじゃない。だが、野営用だけあってコンパクトにまとまってはいるが、かさばるのは間違いない。第一、今のザックへ入れるには少々面倒な品物だし」

「私が持つし! なんならザックも大きいの買うから!」

「何でそこまで情熱があるんだ!? これのどこが気に入ったんだ!?」


 俺達のやり取りに対し、店員はずっと笑っている……だが俺には見えている。その笑みの中にも、絶対に客を逃がさないと力強い眼光を放っているのだ。その姿、まさに肉食獣のごとし。


「重いとか不満を言わないから! 仲間には迷惑を掛けないし!」

「ペットをねだる子どもかお前は!? あのなあ、そうは言ったってどうせ――」

「いーや、絶対に言わないから! もし言ったら道中で誰かに譲るとかしても構わないから!」


 ……わからない。なぜここまで執拗に要求するのか本気で理解できない。


 いや、考えられるとするならリリーは生い立ちから考えてこんなセール品と出くわしたことがないからか。俺からすればなんてことのない一品なのだが、彼女にとってはもう二度とお目に掛かることができない宝物のように見えている。

 こういう品物って、ちょっと待てばさらに良い物とか出てくるんだよな……しかしここでそんな説明しても絶対聞き入れてくれないよな、この様子だと。


 買うのは別に問題はない……お金に余裕があるわけだし。ただ、個人的に思うのはここでうん、と頷いてしまったら乗せられてリリーはさらに何か買ってしまうかもしれない。

 それが一番まずいよなあ……と考える間に、リリーはさらに主張してくる。そこで俺は、


「……わかったよ」


 仕方がない、と思いながら折れることとなった。


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