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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第三章
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これから先のこと

 その後、一通り建物を見回って俺達は外に出る。


「食事でも行くか? 丁度頃合いだろ」

「あ、そうだね」

「ちなみにお店とかアゼルに聞いているか?」

「さすがにアゼルも領主の息子だし、食事処の情報は皆無だったね」


 まあ彼が大通りのレストランで食事をするとは思えないので仕方がないか。


「路地裏にある隠れた名店を見つけるというのもなくはないが……知識ゼロの町だし無茶だな。おとなしく大通りの店で済ませるか」

「そうだね」


 リリーが同意したので俺は歩き出す。店構えくらいは気をつけるべきかな……と思いながら、今後のことに思いを馳せる。

 美術館を見て回って、正直デートという感じではなかった。さすがにお試しなどと称して行動している以上はキャッハウフフ的な展開になるとは到底思えなかったけど……俺としては気分転換という意味合いを考えて、リリーをできるなら喜ばせたいところ。


 ただ、彼女の好みというのは……なんというか、クレアと訓練して勝ったら興奮するようなタイプである。町のどこかを訪れて喜ぶという姿があんまり想像できないんだけど……皇族でも、破天荒な人だったし、どういうことをすれば喜ぶのかわからない、という点も扱いにくい印象を持たれていた理由になる。


 皇位の継承権がかなり遠い、親戚クラスの人物と顔を合わせたこともあるのだが……その人は女性で、リリーとさして変わらぬ妙齢の女性。彼女の趣味は植物の栽培で、屋敷にある庭園で満開の花が咲き誇る光景を見てニコニコしていた人だったのだが……リリーと同年齢かつ貴族の女性というのは、お嬢様として育てられたが故の趣味というのを持っているし、必然的に好きな物だって育ちによってある程度は絞られる。中には高価な装飾品をコレクションするとか、かなり派手な生活をしている皇族もいたんだけど……これも装飾品というアイテムを差し出せば喜んでくれるわけで、扱いは容易いと解釈できる。


 一方でリリーはどうか。花を見ても別になんとも思わない。アクセサリーなんてむしろ剣を振るのに邪魔となる。食べる物についても頓着がほとんどない。そもそも野宿すら普通にするし、場合によっては自分で魚を釣って食べるくらいなのである。むしろ高級料理店とかより、鹿でも狩って食べる方がマナーとか煩わしいものがなくて良い、というところまでありそう。


 うーん、改めて思うんだけど、これは扱いに困るなあ……宮廷では日々騎士とかと剣の修行に明け暮れていたのだが、それで満足するため皇女らしさはゼロだったけど、まあ扱いそのものは楽だった。でも今回はその手を用いることはできない……戦いから離れ気分転換させようという話なのだ。これでは本末転倒である。

 俺は何気なくリリーを見た。彼女もこちらを見ていてふいに目が合ってしまったのだが、


「レイト、どうしたの?」

「いや……」


 誤魔化そうかと思ったが、俺は一つ疑問を投げることにした。


「……楽しいか?」

「え? うん、楽しい楽しい」


 絶対嘘だぞ、これ。別に無理に感想を述べている風ではないし、俺と一緒に行動することで楽しいと感じている面もあるにはあるみたいだけど……心の底から楽しい、と呼べるレベルではないと。

 ふむ、ならば俺はどうすべきかな……頭をかきながらひとまず食事をするかと考え、目についた店に入る。雰囲気としてはそれなり……席について注文を済ませた後、


「町中については、問題はないみたいだね」

「そこはゴルエンが尽力しているから、だろうな。さすがに『闇の王』が現われたから全施設封鎖……では、納得しないだろうし警備を厚くするしかないよな」

「ロックの狙いはそうして警備を分散させる……とか、そういう可能性はあるかな?」

「ないこともないだろうけど……問題はロックがそれをして何をするか、だよな。現状相手が動いている気配はないし、目論見通りだとしても動かれるような真似はしていない……大丈夫だと思うけどな」


 懸念がないわけではないけど、現状では決着の時まで問題なく事を進めることができそうな雰囲気ではある。


「……レイト、美術館で話をしたけど」


 と、リリーが俺へ話し出す。


「今後の旅について。私はこの旅を通して『闇の王』を打倒……というより、『闇の王』をこの世界へ顕現させようとする存在を捕まえることができれば、それで終わりだと思ってる。レイトはどう?」

「俺も同意見だ。『前回』のような展開にさせない……それができれば、旅の目的は果たされたと考えていいだろう」

「そうだね。なら旅の装備なども考えないといけないかな。場合によっては色んな場所を巡るかもしれないし」


 ……ルーガ山脈の時も準備をしたが、俺達はそもそも平地での旅を前提とした装備で動いている。まあ登山する格好で街道を歩くのもおかしいので、今後も都度装備を変えつつ旅を続けることになるだろう。


「場合によっては……この竜の都から、さらに奥へ進む可能性もあるかな?」

「奥、か」


 この都がある山脈には、竜以外の種族も暮らしている。ただ、その種族は人間と関わることはなく……竜族ともほとんど交流しないような種族であり、『前回』だってどういう顛末を辿ったのかは不明だ。

 その種族は……妖精。見た目は様々ではあるのだが、元の世界において物語で描かれていた小さな妖精などもいるらしい。らしい、というのは俺自身見たことがないので。


 気まぐれで妖精が人里に下りてくることもあるらしいのだが、そういうケースは稀で基本的には多種族と関係なく隔絶とした者達……そちらに『闇の王』の影響があるかどうか不明だけど、まあ行ってみてもいいかな? ただ、そうなると現状の装備では心許ないのは確かだ。


「……さらに山を進むなら、相応の物を買わないといけないけど、ゴルエンが用意してくれるだろ」

「確かにそうだね。私達が考える必要はないかな」

「野宿とかの可能性を考慮しないといけないかもしれないな」

「あ、それは私も思った。ただそうなると、結構重装備になるよね」

「荷物持ちは誰がやるんだ?」

「さすがに誰かに集中させるってわけにもいかないでしょ。各自分担して、かなあ」


 ……ここで俺は一つ閃く。まあうん、そうだな。もしかすると興奮する彼女の姿を見ることができるかもしれない。

 やがて料理が運ばれてくる。スープに口を付けると味はなかなか。たださすがに宮廷料理には及ばないか……当然か。


「食事の後はどうしようか?」


 リリーが話を振ってくる。そこで俺は、


「俺には候補があるんだけど……そこへ行くってことでどうだ?」

「レイトには何かあるの?」

「ああ」

「なら、それに従おうかな。お手並み拝見といくよ」


 リリーとしては、こうやって一緒に歩きながらデートプランを考えているのかもしれない……俺もそのつもりだったが、少し路線を変更しよう。

 具体的には、リリーをどうやって喜ばせるか……そこに集中する。具体的な方法も思いついた。


 頭の中で算段を立てつつ、食事を進める……少しだけデートらしくなってきたかな? などと思ったりもした。


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