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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第三章
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白と黒

 俺達は次の部屋を訪れる。絵画などが飾られている場所で、作者を見るとどうやら全て竜族のようだった。


「綺麗な絵だけど……イファルダ帝国に竜族の絵とか出回ることはないのか?」

「ゼロとは言わないけど、高値で売れるかどうかは知らない。同胞に売った方が高かったら、当然竜族同士で売買いするだけだろうし」

「それもそうか……」


 俺の目の前に存在するのは風景画。それは人間が描くようなものと感性などは変わっていないように見える……正直絵のことは知識とかもないけど、素人から見ても非情に綺麗で、綿密に書き込まれているのはわかる。


「リリーは、芸術とかの話はしなかったよな」


 なんとなく話題を振ってみると、彼女は肩をすくめる。


「そうだね。教育の一環で知識だけは習得してるけどね」

「あー、もしかして勉強によって色々学んだ結果、嫌気が差してあんまり関心がなくなったとか?」

「そういう面もある……あ、レイト。面白い絵があるよ」


 彼女は部屋の奥を指差す。そこには絵の中でもっとも大きい……雲の隙間からから差し込む太陽の光。その下で巨大な白と黒の竜が威嚇し合っている絵だった。


「……世界が破滅と絶望に包まれる時、天から二つの竜が襲来し、我らは選択に迫られるであろう……だったか?」

「お、正解。そう、これは終末伝説の内容を絵にしたもの、かな?」


 二つの竜の見た目は、色が違うこと以外はほぼ同じだった。違う点としては黒い竜……つまり破壊をもたらす竜については、本来二つしかないはずの目が四つになっている。これは絵の脚色か、あるいは伝説の内容的に正しいものなのか。


「伝説はあくまで伝説だし、これを信じている竜族はいないだろうけど」

「『前回』はこの伝説より遙かにヤバい存在がこの都を蹂躙したけどな」

「そうだね……」


 元の世界に終末にまつわる物語とかあったけど、それらが実際に起こったことはなかった。目の前にある絵が参考にしている伝説もまた、それらと同じものだろう。

 ただ、元の世界と明確な違いはある。この絵によって描かれている二体の竜……竜という存在が現実にいる以上、こうした竜が現われる可能性は、否定できないか。


「次の部屋に行く?」


 リリーが問い掛ける。それに対し俺は、


「いや、もう少しだけ……部屋の絵を見てみたい」

「わかった」


 他の絵は竜の絵ほど大きくないのでインパクトはないが……竜の都の全景を描いた物を始め、多種多様な物が展示されていた。この絵が評価されここにあるのもそうだと思うが……この美術館は、竜族の歴史を伝えているような気がした。


 やがて、一通り絵を見回った後に俺達は次の部屋へ。次は壺などの調度品。絵画以上にわからないなあ。


「お父様だったら、価値がわかるかもしれないけど」

「え、陛下ってこういう物を収拾しているのか?」

「そうだね……あ、確か竜族から買い求めた物とかを所持していた気がする」

「当然ながらリリーは興味ないよな。ちなみに、リリーが皇帝に即位して以降、そうした品物はどうなったんだ?」

「崩御されたわけではないし、お父様は健在だったから隠居と共に城にあった調度品は移されただけだよ。場合によっては博物館とか作られていたかもしれないね」

「そのくらいのコレクションはあったってことか」

「財政を傾けるほどではなかったと思うけど。ま、趣味の範囲かな。さすがに国庫を無理矢理開いてどうにか、とかはなかったけど」


 リリーの父親……今の世界だと現皇帝なわけだが、比較的穏やかな政治が続いている。外敵が基本魔物などしかいないこともその要因だけど……穏やかさが災いして、『闇の王』との戦いで初動につまづいたということもある。


 つまり敵の脅威を推し量ることができず、戦いの序盤ではかなりの犠牲を生み出してしまった……そういった要因もあり、前線では士気が大幅に低下。剣を手に取り戦うリリーの兄達も参戦する他なく、さらに犠牲が膨らんだ。そうした出来事も要因となり、最終的には退位に繋がったが……だからといってリリーが即位するのもなあ。ただ、結果的にその試みは成功だった……実際、彼女の奮戦により『闇の王』の進撃を食い止めたのだから。


 あのまま皇帝が変わらなかったら、『前回』の戦いはもっと早期に敗北で決着がついていたはずだ。ただまあ、結果そのものが変わっていたわけではないだろうし、リリーとしては「結局同じだよ」と一蹴するだけだろうけど。


「……詳しくは聞かなかったけど」


 俺はリリーに話を振る。


「皇帝に即位した……あのタイミングというのは、理由があるのか?」

「国側……というか軍部としては、お父様が皇帝に居座り続けることで危機感を憶えていた。よって、軍を自由に動かしやすくなる……つまり私のこと。政治について右も左もわからない私なら、御しやすいと思ったんでしょ」

「あー、つまり軍部の進言ってことか?」

「それだけが原因ではないけど、発端はそうだった……らしい」

「らしい?」

「私が皇帝になってしばらくしてから、事情を聞いたから」


 へえ、なるほど。


「このままお父様主導で戦い続ければ、そう遠くない内に国が滅ぶ。だからこそ、軍部の考えが通りやすいように、私を引き合いに出した。もちろんお兄様達がいなくなってしまったこともあるから私に話が回ってきたわけだけど」

「なるほど……で、実際はどうなった?」

「私は上手く話し合って動いていたけどね。私の意見が通ることもあったし、相手側は驚いていたけど」


 ……まさか彼女に戦略的な考えがあるとは思えないよな。


「本当はもっと複雑に色々ときっかけがあるんだけど、ここでは割愛するよ」

「わかった……俺をそうした物事にあまり関わらせなかったのは、巻き込んだら悪いと思ったからか?」

「一応レイトは部外者だから、というのもある。機密情報だって話さないといけないわけだし」

「あ、それもそうか」


 彼女としては色々と話せない部分もあった、ってことか。


「今回はそんな事態、絶対なしにしたいよな。そもそも、王族問わず犠牲者をゼロにしたい」

「そうだね」


 美術品へ目を移しながら会話を進める。なんというか、この場にそぐわない内容であるようにも思えるのだが、話が進んでしまうので仕方がない。


「リリーとしては、帝都へ戻るより前に……敵の尻尾をつかまえたいんだろ?」

「できれば、この旅の間に決着はつけたい。ただそうすると、レイトが功績を上げる暇がなくなるけど」

「俺の立場的な問題の話か? そこは別に、仕事をし続ければ認められると思うから問題ないと思うけど」

「でも、私と肩を並べるだけの功績だよ?」


 一緒になるには、ってことだよな……。


「我ながら衝動的にレイトに言ってしまったけれど……確かに、皇族として角が立たない方策を考えるべきなのは事実」

「何か案はあるのか?」

「考えてはいるけどね」

「……例えば?」

「まずはお父様の記憶を戻す」

「……陛下の記憶を戻しただけでは解決しないと思うんだが」

「そしてお父様と一緒に考える」

「他力本願かよ」


 思わずツッコミを入れると、彼女は一片の曇りもなく頷くのであった。


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