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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第三章
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内面と信頼

 お試し、といっても俺の内心としては急造とはいえこういうシチュエーションが生まれた以上、色々と見て回りたいというのが本音だった。


 思えば『前回』だって、様々な場所へ行きはしたが観光らしいことをした記憶がほとんどない。一応帝都とかは見て回ったけど、騎士達から教えられた「帝都のオススメ観光スポット」の大半は回れなかった。

 その原因はリリーである。『前回』は一に修行二に修行。三四も修行で五も修行という状態であったため、俺としても観光するような暇がなかったのである。


 そもそもそんな暇がなかったと言われてしまえばそれまでなのだが……で、今回のケースである。『前回』の記憶の中で一緒にこうして町を歩いたことは……旅に必要な物を買うとか、そういうケースで同行はもちろん多々あったのだが、色気のある話ではなかったし。皇帝になってからは当然ながら出歩くなどという真似ができるはずもなく、今までこんな機会に恵まれることはなかったなあ……。


 歩き始めてから少しして、俺は町並みを見回す。歩こうかと提案したはいいけど、どこへ行くべきか。美術館などは開いているらしいので、ひとまずそこへ向かうとするか?

 買い物という選択肢は考えにくいし……見て回ることは可能だけど、何かを買うというのはまずないからな。装飾品の類いくらいは買うことも可能だけど、リリーはそういうの本来は嫌いだし。


 俺が購入した物とかなら身につけてくれるかなあ……などと思案していると、リリーがふいに、


「ねえ、レイト」

「ん、どうした?」

「とりあえず、そうだね……アゼルからもらった情報により、施設を見て回ろうか」

「そうだな。候補は?」

「アゼルがオススメしていた美術館で」


 俺も聞いていた場所か。こちらが頷くと、彼女は案内を始めた。

 その間、俺達は無言になる……何を話すべきか。デートらしい内容というのは、果たして何があるのか。


「……あのさ」


 で、こちらが何かを話し出す前に、リリーがまたも口を開いた。


「そっちから提案してきたのに、実は緊張しているとか?」

「……別にそういうわけじゃないけどな。話のネタを探しているだけで」

「どんな話題でもいいんじゃない? 戦いのことを忘れるため、とか言い訳して何も話せなくなるよりは」


 ――お試しなので、彼女としても肩肘張らずに動きたいってことかな。他にも色々と彼女なりに理由はありそうだけど。


「じゃあ、一つ」


 俺は先日の戦いを思い起こす。


「ロックのとの戦いだが……『闇の王』の力を用いて何をしようとしていたのかについてはこの際置いておこう。俺が気になっているのは、ヤツはどういう手段でゴルエンを打倒しようとしていたのか、だ」


 ゴルエンの能力は、それこそ愚直なまでの直接攻撃。竜族として多種族に力で負けることはできないとばかりに力を極めていた。無論、彼が用いる変化の能力もまた、恐ろしい力を持っていた。変化したことによる爪の一裂きは、鋼鉄を魔力で大幅に強化したものでさえ、紙のように斬ることができた。闇の眷属相手でもその力だけで、真っ向から対抗していた……本当に無茶苦茶な存在であった。


 ロックはあの脅威的な防御能力……というか受け流すという回避能力でそれに応じようとしていた。ただあの手法がゴルエンに通じるかというと……微妙なラインだな。そもそも魔力を伴っているとはいえ、ゴルエンの攻撃はそのほとんどが単純な物理攻撃だ。完全に防げるとは思えない。加え、


「防御はどうにかなるにしても、肝心のゴルエンを討つ手段がない……攻撃を防ぐばかりでは勝てないからな」

「その攻撃が何なのか、ってことか。確かに言われてみれば疑問だね」

「ロックの口ぶりからすると、ゴルエンの能力についてはある程度判断がついていた様子だった。ということは、回避能力とは別に何か手があったと考えるべきだろ」

「単純に強力な魔法、とかじゃ駄目なの?」

「いや、ロックは『闇の王』に願ったはずだ。どういう願いを告げたかはわからないが、確実に『ゴルエンを倒せるだけの力』を得られるよう願ったはず……情報を保有していたことを考えると、確実に倒せるだけの何かを持っている……と思うんだが」


 その攻撃が俺に通用するかはわからない。ただリリーやクレアならばひとたまりもない、というのは間違いない。


「それをできれば解明したいところだが……さすがに無理か」

「次の戦いの時、判断できればいいけどね」

「何かヒントになるものがあればなあ」


 と、そんな会話をする間に美術館へと到着した。通りの一角に存在する大きい建物。一見すると神殿のような建築物であり、アゼルから紹介していなければここが美術館だとは想像できなかっただろう。


「入るか。入館料くらいは払わないといけないだろうけど」

「おごろうか?」

「そもそも金の管理は一括でやってるじゃないか……どっちの財布から出ても関係ないだろ」


 料金を支払って中へ。入口を抜けると、多数の石像が出迎えてくれた。これはどうやら……歴代の『山の王』達か。


「壮観だね……人によっては王様を並べ立てて悪趣味だ、と言う人もいそうだけど」

「あんまりネガティブなこと言うなよ……」


 幸いながら俺達以外に誰もいないみたいだけど……しかし、声が響くなあ。靴音もカツンカツンと石床を打つ音がはっきりと聞こえる。


「帝都の方にだって、歴代の皇帝を奉った場所があったはずだろ?」

「あるけど……こんな見せびらかすような場所じゃないし、一般公開もされていないからね」

「あれ、公開されていないのか?」

「皇帝に即位する際に、訪れる儀式の場所……かな。実際に私も『前回』そこを訪れた」

「へえ、興味深いな。その話、今度聞かせてくれよ」

「何も面白みはないよ? 即位の儀式なんて、司祭が何やら小言を言って、私は祈りを捧げていたフリをしていただけだし」

「フリって……いや、そこはやる気だそうぜ。即位したわけだし」

「責任感だけはあったけどね。正直、なぜ私が――とは、思ったよ」


 ……経緯的には他の継承者が全て亡くなってしまったわけだからな。


 俺は皇帝となった彼女を支えることになったわけだが……彼女の双肩にのしかかる重さは想像を絶するほどだった。しかし皇帝となって以降……いや、皇帝となったからこそなのか、彼女は明るく振る舞った。日に日に絶望的な状況に陥っていく中で、彼女は笑い続けた。だからこそ、多くの人々が彼女の行動に胸を打たれ、ついていこうと思った。


 そこでなんとなく思う。皇帝になって以降も俺は傍にいたわけだけど……結ばれるようなことがないが故に、彼女なりに距離を置いていたのかもしれない。内面などに深く入り込むようなことはしない……そして俺の方も皇帝となったからこそ、どことなく彼女に遠慮する部分はあった、かもしれない。


 それはどうやらリリーも同じことを思ったらしい。ふいに、


「私達は双方、互いのことを知り尽くしている……かもしれないし、あまり知らないのかもしれない」

「俺の元の世界のこととか、少しは語ったけど詳しく説明したことなかったしなあ……ただ、過去のこととかプライベートのこととか、そういう話をすることで仲良くなろうって段階はとうに過ぎていたと思うんだよな。共に背中を預けていた……信頼するにはそれで十分、って」

「言い方は格好いいけどね―」


 間延びした口調で、リリーは小さく笑った。


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