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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第一章
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今後について

 次の町には歩いて夕刻くらいには辿り着くので、その間に俺とリリーは作戦会議を行うことにする。議題は今後『闇の王』を討ち果たすためにどうすべきか。


「現状俺の身分は『出自不明の冒険者』で、リリーは『破天荒な皇女様』だ。とてもじゃないが人を募ってどうにかするって話は無理」

「そうだね。現時点でそれなりに冒険者としては名が売れているから人を募ることはできるけど、あまり意味はないね……『闇の王』を倒すため共に戦った人達を仲間に入れるのも手だけど……どうしようか?」

「まずは『闇の王』について知らなければならない……現時点でわかっていることは二つ」


 俺は前回戦った情報を頭の中で整理し、リリーへ語る。


「一つはあらゆる生物や植物を例外なく飲み込みこと。取り込まれた存在は闇の中で塵と化し『闇の王』の養分になる。そしてもう一つは、核が存在しそこを狙えば打倒できるチャンスがあること」

「わかっていること、というより単なる攻略法だよね」

「そうとも言う。つまりほとんど情報がないってことだ。ただし、知識を得られる可能性はある」

「それは?」


 首を傾げるリリーに俺は解説を続ける。


「とある存在なら情報を持っているかもしれない……リリーも知っている。俗に『森の王』と呼ばれるエルフの王だ」


 ――この世界にはエルフやドワーフなど、元の世界において神話や物語の中だけで語られた種族が確かにいる。その筆頭にあげられるのがエルフ。長命で尖った耳を持ち、多大な魔力を有する存在だ。

 その中で、長と呼ばれる存在は複数いる。エルフは大陸各地に部族単位で暮らしており、それを長が率いるという形。その中で特に力を持った存在が『森の王』という異名を持っているエルフだ。


「最終決戦の際に残ったエルフの情報からすると、『森の王』はどうも『闇の王』について知っていたようだ。王は『闇の王』の出現を察知し、精鋭を率いて向かったみたいだが……結果、帰らなかった」

「負けたってことだね」

「おそらく。精鋭もいたし打倒できると思ったんだろうな……『森の王』が察知したことやどういう結果で負けたのか……記憶を戻し事情を話せば情報をくれるかもしれない。よって、まずは彼に会うことを目標にする」

「わかった……でも、王様だし簡単に会ってはくれないよね」


 問題はそこだ。リリーは皇女だけど帝国の威光がエルフ相手に通用するわけではないため、大まじめに「帝国の皇女なので会わせてくれ」と言っても聞いてくれない。

 むしろ身分を明かすことで帝国側が「何をやっている」と文句を言いに来る可能性だってあり得るくらいだ。よって、


「幸い、俺達は今後何が起こるのか知っている」


 俺は過去の記憶を思い起こしながら述べる。


「エルフ……というか『森の王』に関係する事件についても候補が一つある。そこで活躍すれば、十二分に王と会える可能性がある」


 つまりこれから起きることを利用して功を立て、信頼を得る……これが最善策だろう。


「うん、それなら納得できるけど……問題は、前回と同じ事件が起きるかどうか、だね」

「……ああ」


 その指摘に俺は頷く他ない。


「俺とリリーの出会いの時点で大きく違うからな。ただまあ、どのくらい差違があるのか確認する意味合いで動いてもいいだろ」

「ま、そうだね……と、レイト。話は変わるけど、一つ気になったことが」

「何だ?」


 彼女は何かを思い出すようにこめかみに指を当て、


「レイトがこの世界に来るきっかけをつくった人物について。老いた魔術師だっけ? その人はどうなっているんだろうね?」


 あー、言われてみれば。


「レイト、そう遠くないし確認してみる?」

「……ここからそれほど距離もあまりないから様子を見ることはできるな」


 俺がこの場にいる以上、そいつが俺を再び召喚するとかあり得ないわけだが――


「場所もわかっているし町へ向かう前に向かうか?」

「うん、いいよ。私も気になるし」


 というわけで予定を少し変更して、寄り道をすることになった。






 俺を召喚した人物についてわかることは皺の入った老人であることくらいで、素性についてもわからない。少し調べたこともあったけど結局不明なまま。

 今の俺なら相当な力を持っているし、力尽くで聞き出すなんてやり方もできるけど……そんなことを考えている間に到着。街道で話し合ってから移動開始して一時間くらい。そう遠くないといっても普通ならもっと時間は掛かるのだが……俺達の移動速度は魔力強化を用いるので常人と比べてずいぶんと早い。


「あまり能力は落ちていないみたいだな」


 俺は魔力がそのままなので肉体年齢が若くなっても問題ないけど、リリーは違う。けど、見た感じあまり変化がない。

 それに彼女は胸を張り、


「当然ね……と言いたいところだけど、パフォーマンスは結構落ちているわよ。ただ記憶が蘇ったせいで、戻る前より良くはなっているけど」

「全盛期の記憶を活かして、技術的な面で向上しているって感じか?」

「そう解釈してもいいかな」

「それは良かったが、一番の問題は攻撃面かな。そもそも『聖皇(せいおう)剣』がないわけだし」


 ――帝国において皇帝を継承する人物が使用する武器の名だ。剣を握った者の意思に従い形状を変化させる特性を持つ特殊な金属で加工されており、その能力も大陸随一と言われている。最終決戦において『闇の王』の核を打ち砕く際、俺の魔法と彼女が持っていた『聖皇剣』が切り札としたくらいだ。


「ま、その辺りはどうにかするよ……で、目的地に到着したけど」


 そこは森の隠れ家という雰囲気で、多数の樹木に覆われ外からは見えないような形で屋敷が存在していた。元々この森は深く、なおかつ魔物まで生息するので周辺の人も迂闊に近寄らなかった、いわくつきの土地。

 そんな所に居を構える人間がまともなはずもなく、実際俺は被害に遭ったわけだが――


「気配、ないな」

「そうね。というか、ずいぶんとボロボロじゃない?」


 リリーの指摘通り、屋敷はツタなどに覆われて見えにくいにしろ、崩壊が進んでいるように見受けられた。ただ人が住まないことによって荒れたのとは違う。これは、


「魔物の襲撃を受けた、という感じか」

「かもね」


 リリーも同意。入口付近に鉄柵があるのだけれど、それが見事に破壊されている。


「……ここにいた魔術師は、異世界から人間を召喚しようとした」


 そしてリリーは目の前の惨状を眺めながら推測を述べる。


「けど、それには失敗……さらに研究を進めようとしたけど、魔物の襲撃か実験失敗か……何かの理でにご破算。自分自身の命も尽きた」

「そんな感じだな……と、待て」


 俺はリリーに同意しながらも目を細め建物の入口を見据える。


「……中に何かいるな」

「え? 魔物?」

「ああ、ここからだと気配は小さいけど……」


 俺はゆっくりと足を踏み入れる。構造は俺が召喚された時と変わっていないが、さすがに探索したわけではないし何があるかわからない。慎重に動こう。

 明かりを作って中を見回す。荒廃した室内で、特に注目すべきなのは左。その廊下の壊れ具合がひどかった。


「あ、私も感じるようになった」


 ここでリリーも言及。


「ただ、なんというか……魔力に引き寄せられるっていうか……」

「もしかすると森の魔物はこの魔力に気付き、誘われたのかもしれない。そして門を破壊し、中へ侵入した」


 もっとも、そんなことをする理由は――俺はそちらに足を向ける。リリーも追随し、廊下を進む。

 程なくして到着したのは幅の広い下り階段。あちこち壁が壊され、魔物が下に進んでいるのがわかる。


 それと同時、俺は直感する……どうやらこの先に、厄介な存在がいる。


「魔力で魔物を誘い、そいつらを食う魔物がいるのかな。実際召喚された直後、魔物が共食いしている光景を見たことがある」

「なるほど……どうする?」

「放置しておくとまずいから、倒そう」


 決断し下へ進む。それと同時に俺は杖を強く握り締めた。


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