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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第三章
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とある提案

 丸一日ほど、だろうか。とにかくロックの能力を思い出しては色々と試行錯誤をする。その作業が一段落した時、俺は深いため息を吐いた。


「終わりましたか?」


 同じように作業をしているアゼルが問い掛けてくる。


「いや、まだ途中だけど……目処は立った。後半日ってところだな」

「時間が掛かっていますね」

「確実性を求めるなら、そのくらいやらないといけないな」


 とはいえ、時間を使っただけあって自信作ができた。次に相対した時、確実に倒す。

 そう心の中で呟いた時、俺は静かに息を吐いた。気付けばずいぶんと疲労している。さすがにこれ以上根を詰めすぎると肝心の決戦で失敗しかねないな。いくら自由自在に魔法を使えるからといって、疲労は判断力なども鈍らせるし大敵だ。


「少し休憩するよ」

「はい」


 とはいえ、どうしようか……散歩でもして気分転換でもしようかな。

 そんなことを決断した後、部屋を出て外へ向かおうとしたのだが……その途中でクレアと出会った。


「あ、クレア」

「ん、レイト。作業は終わったの?」

「一段落といったところかな。現時点で保有している情報で確実にロックを倒すとなったら……結構な作業が必要になるから」

「なるほど……なんというか、疲れているわね」


 彼女の指摘に俺は首肯。


「久方ぶりにこんな作業をしたからな」


 ――『前回』においてはそれこそ『闇の王』を倒すために試行錯誤を繰り返した。竜族を始めエルフなどから情報を聞き、様々な技法を開発した。もっとも百作っても現実的に活用されたのは一つか二つ、というくらいのものだったのだが、研鑽を積み、研究し続けなければ最終決戦より前に俺達は間違いなく滅んでいた……それほどの相手だった。

 その時の経験があるから、俺は一人でも作業をすることができたのだが……、


「そんな辛気くさい顔をしないの」


 と、俺へクレアは声を上げた。


「あれでしょう? レイトとしては失敗したし自分の責任だと感じているんでしょう? そりゃああの場でロックを倒せたのはレイトだけだったかもしれないけど、だからといって全部の責をレイトに、とはゴルエンだって考えていないはずよ」

「そうかもしれないけど、これがもし最終決戦であったなら……一度失敗した結果、世界は滅亡するわけだ。そう考えると『闇の王』との戦いで失敗は許されない……そう思わないか?」

「うーん、かもしれないけど……今はまだそこまで思い詰める必要はないのではないかしら」


 そうかなあ……ただ、今の段階でこんなに張り詰めていると身が持たない、というのはありそうだな。


「ま、レイトは真面目な人間だし、私が何を言っても首を傾げるだろうから、これ以上議論する気もないけど……まだ余裕はあるのだし、そこまで自分を追い込まなくてもいいんじゃないかしら?」

「……忠告は、ありがたく受け取っておくよ」

「そうしなさい。ところでその様子だと、気分転換かしら?」


 俺は小さく頷く。すると、


「なら、提案があるのだけれど」

「……提案?」

「そうそう。竜の都を訪れたのよ? 少しくらいそれらしいことをするべきではないかしら?」

「観光をしろってことか? でも」

「厳戒態勢ではないか、という話でしょう? もちろん普通の状態と比べると制限はあるけど、調べてみたところ公共施設でも開いている場所は多いのよ?」


 ……出入禁止というレベルには至っていないからな。


「とりあえず、クレアは訓練も飽きたから観光したい、ということか?」

「そうそう」

「一応決戦も近いし、遊ぶのもどうかとは思うけど……」

「えー、いいじゃない。一応ゴルエンにも確認したけど、ロックが見つかるまでは自由にしてていいって言っていたし」

「何でわざわざ確認とりに行ったんだよ……」


 本当に遊びたいらしい。俺としてはしっかり準備すべきだと思うのだが……彼女の言うことも一応利がないこともない。根を詰めて俺はリフレッシュが必要なくらいだし、戦いの準備を完全に終わらせるまでに肉体的にも精神的にも一度は回復しておくべきなのも確か。


「……クレアとしてはどういうプランなんだ?」


 彼女はニヤリとなった。乗っかってきたからだな。


「おーし、そういうことなら今から一時間後に宿の前に集合! いいわね!?」

「ずいぶんといきなりだな……」

「こういうのは思い立った時にやるべきだと思うのよ」


 その猪突猛進具合は真似できないなあ……と思いつつ、俺はこうなってしまっては止められないだろうと理解し、


「わかったよ……リリーはどうするんだ?」

「その辺りはこちらで連絡するから」


 ――なんだろう、俺は少しばかり引っ掛かった。


 返答する彼女からは、少しだけ思惑があるように見えたのだが……今の俺は探りを入れるのが面倒だったので、それじゃあ一時間後、と言って会話を打ち切る。

 そこから俺は適当に時間を潰して、出掛ける準備を行う。アゼルの方は「順調です」と告げ、俺みたいに疲労はしていない様子。


 この調子ならアゼルについては問題無さそうだな……出掛ける旨を告げると、


「先ほどクレアさんから聞きましたよ」

「……アゼルは同行しないのか?」

「今回はお断りしました。その代わりといってはなんですが、いくつかオススメのスポットを教えておきました」

「オススメか……どういう場所があるんだ?」

「美術館などは面白いですよ。竜族の歴史などに触れることもできますし」


 へえ、それはよさそうだな。


「閉まっている可能性はあるかな?」

「公共施設を始めとした建物は閉鎖されている様子はないので大丈夫でしょう」

「……ロックが来るという可能性はあるのかな?」

「ロックが何かをしでかさないか、ですか? 竜族の王になることが目的であるなら、無差別な攻撃は悪手でしょうし……『闇の王』によりそういう意思がねじ曲がっているにしても、敵は理性がある様子。迂闊に外に出たらまずいとわかっているでしょうから、今は出てこないでしょう」


 目的を遂行するために、潜んでいる……か。そもそも潜伏してそこからどういう行動を起こすのか。

 疑問はあるし、逃げる際のセリフからは確実に何かをやろうとしている。それを阻むべくゴルエン達は警戒網を巡らせてはいるのだが……。


「町中は警備が相当厳重になっていますが、店などは営業しています。そういう所を狙う動きも今の状況ならば捕捉するでしょう。だから大丈夫です。他ならぬ『山の王』の警戒ですし、ね」


 ……ま、そうだな。俺は「わかった」と応じ、部屋を出る。外へ出ると、俺の方が先らしく誰もいなかった。


 何気なく周囲を見回す。厳戒態勢ではあるが通りはそれなりに賑わっている。ゴルエンとしても「家から出るな」というお触れを出すのは難しいと判断したのだろう。

 さすがに『闇の王』の力を持つ存在がいたから、という理由を説明するのは難しいし、仕方のない話ではあるのだが……これによって問題が生じないことを祈るしかないな。


 町並みを眺めながら俺は待っていると、後ろで宿の扉が開いた。どうやら来たらしい……と、振り返り相手を確認すると、そこには予想外の展開が待っていた。


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