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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第三章
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闇と竜

 奇襲攻撃である以上は、敵に察知されてからどれだけ迫れるかが勝負なわけだが……闇に触れた瞬間に反応があった。敵側はどうも、こちらを察知して揺らいでいる。

 思わぬ形で攻撃を仕掛けてきて驚愕している、ということか? だとするなら好都合。この場で一気に決着をつけることができる――


「レイト!」


 リリーの声。何が言いたいのかはすぐにわかった。それはロックの居所だ。

 俺達は気配の中心である部屋の扉を蹴破った。その奥にいたのは、黒髪の青年……正直地味な印象であり、俺達の出現により驚愕の表情を張り付かせている。


 ならば、今しかない――そう判断した俺は脇目も振らず剣を抜き放ち突撃した。幸い周囲に護衛らしき存在もいない。完全に一人であり、襲撃など完璧に予想していなかったらしい。

 ならば、今ここで――驚愕しているロックへ向け、杖を差し向ける。ルーガ山脈の時に使用した、騎士ゼルーファの技術。建物の中で派手な魔法よりも対象だけを叩きつぶす武術を用いる……それは電光石火の一撃。身動き一つできないその姿を見て、勝負あったと俺は直感した。


 杖がその肩に入る。結界などを行使することもなく、純粋に『闇の王』に関する魔力をまとわせているだけ。これなら斬撃は体を走り抜け、両断する勢いでロックの体を薙ぐはずだった。

 しかし杖を振り抜こうとした瞬間、抵抗が生まれた。それでも構わず俺は一閃し、ロックの体に斬撃が走ったのだが……すぐに悟る。失敗だ。


 即座に後退。途端、ロックの周囲に闇の魔力が生まれ、それが室内を充満し始めた。


「レイト、今のは……」

「斬った瞬間に強い抵抗があった。防御している様子はなかったが……」

『――ああ、そういうことか』


 ロックの口から言葉が迸った。しかしそれは人間が普通に発するものとは違う。

 それが地声なのかどうかもわからないのだが……明らかに、作られた声のような気がした。例えば機械音声のような……そういう無機質さを想像させるイントネーション。


『王が来ていることはわかっていた。しかし王自身は陽動であり、本命は貴様達というわけか』


 しかもその声は老獪さが混ざっている。ロックの見た目とはまったく異なるものであり、


「……その竜族の器を借りて、何かしているとか、そういうオチか?」


 尋ねてみるとロックはくっくと笑う。


『想像に任せよう……と言いたいところだが、何かしら考えついているようだな。まあいい、答えよう。問い掛けはおおよそ正解だ。ロックという名前の竜族は既にこの世にいない。より正確に言えば、この力を引き寄せた時点で自我は消滅した』


 つまり闇に耐えきれず、というわけか? 正直初めてのケースであり、こちらとしても驚くのだが。


『こいつは力を得ようとして、とある情報筋からこの力について聞いた。そして力を得たが……どうやら耐えきれなかった。不相応な力を持とうとした者の末路といったところか』

「そういう貴様は誰なんだ?」


 問い掛けに対しロック――便宜上そう呼ぶことにする――は再び笑う。


『何者か。正直、それを答えられる者はこの世に存在しないだろう。あえて言うならば……このロックが引き寄せた力が、自我を形成してしまったとでも言うべきか』


 多少、複雑な話になってきたな……とはいえやることは変わらない。目の前の標的を、倒すだけだ。

 杖を振る。先ほど以上の出力で刺突を放つ。魔力が螺旋を描き吸い込まれるようにロックへと突っ込んでいくのだが、


『無駄だ』


 首に直撃する。手応えは確かにある。だが、俺の技がロックに届いていない。手前に壁のようなものがあり、それを突破できない感覚だった。


『いずれ、竜族の王と戦おうとしていた身なのだ……それなりに備えがあるのは、自明の理だろう?』


 刹那、急速に魔力を収束させたかと思うと、それを今度は拡散させるような動きを見せた。一瞬の後、この場所はロックが放った魔力によりズタズタになり、家屋が無残に破壊される。それを認識した直後、俺は杖をかざしリリーやクレアをかばうように立つ。


 爆音と、建物を壊れゆく音が耳に響いた。瞬時に構成した結界の外では魔力が駆け抜け建物を無残に破壊し尽くしていく。言葉で表現するなら多頭の竜。多数の首がロックを中心に放たれ、周囲にあるもの全てを破壊し尽くし始める。


 魔力は通過しないが音については俺達の体を幾度となく打つ。建物が砕けたことにより異臭めいたものも鼻につき……その魔力による蹂躙が収まったのは、およそ一分後。魔力の放出が終わり、視界が晴れてくると……超然と立つロックの姿が。


『今のを防ぐとは、面白い人間だな』


 建物の外観は一変した。ロックのいた部屋は原形を留めないどころか完全に消失した。唯一床だけは残ったが、竜が幾度も駆け抜けたせいか、穴だらけになっていた。


 それは廊下なども同じで、結界を構成して防いだ空間を除いて無事である場所はどこにもなかった。幸い結界を貫通することはなくリリーとクレアは無事なのだが……と、周辺から声が聞こえる。どうやら怪我人が出たらしいのだが……暗視の魔法を強めて目を凝らすと、この建物にいた見張りらしき者が騎士に担がれている姿があった。


「……味方も巻き添えになったみたいだが?」

『そのようだな』


 なんてことのない口調。


「……理解に苦しむな。お前の組織にいる構成員から情報を手に入れたが……支持をしてもらうために演説を予定していたはずだろ?」

『こうなってしまっては、それも露と消えるか……まあ、他にやりようはある』


 ――想定以上に厄介な能力を抱えているな。


 俺はすかさず結界を解除し、再びロックへ斬り込んだ。ここで倒せないにしても、能力の多寡についてはできる限り見極めておきたい……!


『それでも前、か。勇者だな』


 そんな勝算と共にロックは俺の杖を三度受けた。感触は……やはり相手に届いている気配はない。

 けれど、おおよそ理解はできた。壁のようなものに隔てられているのとはどうやら違う。俺は魔力を固めて渾身の突きを繰り出したわけだが、どうやらその魔力が受け流されている。杖の先端に存在する魔力を解析し、その魔力を右へ左へと拡散させて体に届かないようにしている


 普通なら、そんなことはできない。というか俺の魔力を解析するなんて、幾度も攻撃を受ければ可能かもしれないが、一度目から――奇襲に成功して虚を衝いた状態でも発動していた。つまり解析などの必要性もない……ロック独自の特性と言うべきか。


 おそらくこれが『闇の王』から得た力なのだろう。防御力というよりは、相手の攻撃を全て回避するような能力である。これではリリーやクレアが仕掛けたとしても同じ結末を迎えるな。

 ただ、どうすればいいかの見当はついた。もっともそれをすぐ、この場でやるのは難しいが……と、ここで俺達を呼ぶ声が。


「大丈夫か!」


 ゴルエンの声だった。それにロックは反応。俺の杖を受けながら首の向きを変える。


「……主役がお出ましか」


 攻撃するか――そうなったらこちらも即座に移動して盾にならないと。そんな決断をしたのだが……ロックは何もしなかった。


「王へ伝えておけ。直に決戦の舞台を用意する。それまでに、たっぷりと準備をしておけと」


 次の瞬間、ロックの姿が消えた。跳躍したのだと認識して見上げると、闇夜に消えるその姿があった。


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