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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第三章
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闇夜の攻撃

 作戦実行に移る時、日は沈み俺達は闇夜の中で行動を開始する。明かりなどを付けるのも最小限であり、俺達は暗視系の魔法を付与して歩みを進める。


「便利だなあ、この術式」


 そんなことをゴルエンは告げる……まあ普通魔装にこんな機能、ついていないからな。


「自分自身の魔力を消耗して使うタイプにしてあるから、魔力が枯渇しない限りは発動し続ける……解除はいつでもできるが、それをやると俺がかけ直さないといけないから、作戦終了まではそのままで頼むぞ」

「わかってるさ……さて、いよいよだな」


 ゴルエンが立ち止まる。その奥に……どうやら目的地である建物があった。

 暗視の魔法を使っているため、輪郭などもくっきり見えるのだが……確かにボロボロだ。修繕などロクにされていないような場所であり、こんな所に人が住んでいるとは思えない。


「確認だが、ロックはいるんだな?」


 問い掛けにゴルエンは首肯する。


「ああ、それは間違いない……手はず通り頼む」


 俺達はゴルエンを残して建物へ。といっても真正面から堂々というわけではない。道路からは見えないのだが、門の後ろぐらいに見張りがいるのだ。不用意に近づいたらそちらに気付かれて終わり、というわけだ。


 それはわかっているので俺達は裏手に回る。遮音の魔法を行使して裏手に回る。見張りに見つからないように慎重に……。


「ねえ、レイト」


 と、ふいに後ろを歩くリリーが口を開く。


「やっぱり遮音とかではなく、透明になれる魔法を作った方が良かったんじゃない?」

「今更かよ……前にも言ったが、できなかったと言っただろ?」


 より正確に言うとできなかったというより、作れるけど現実的に運用が難しいと言うべきか。

 透明になる魔法……あるいは気配を完全に遮断して見つからない魔法とか、まあ色々と種類はあるのだが、これをやろうとすると結構大変なのだ。


 俺が現在やっている遮音の魔法については、結界を張る要領で音を消すよう俺の周辺を覆うだけで済む。けれど透明になるというのは、そもそも範囲を指定できない。遮音魔法のように空間全体を覆うような魔法だと、空間そのものが丸ごと消えるようになり、簡単に言うと何の変哲のない場所に白いぽっかりとした穴のように見えてしまう。


 なので一定範囲を見えなくするって手法は厳しい……まあ、魔法理論の構築さえできてしまえば実現は可能だろうけど、そもそもこうした魔法を使うケースが『前回』にはなかったので、単純に俺の知識不足だと思う。


 一人を対象に魔法を掛けるのであれば、上手くやれば……と最初は思った。言わば付与魔法に近い形だが、この場合だと透明になることはできても音が消せない。俺は一度に二つ魔法を使えるけど、透明と遮音を同時にやるのはできなかった……いや、これもやろうと思えばできそうだけど、俺の想像力がまだそこまでの域に達していないのか上手くいかなかった。


 つまり俺の勉強不足である……ま、ここは今後の課題だな。ただじっくり検証しても実現できるとは限らないし、そんな時間があったら『闇の王』に対する攻撃魔法を一つでも作った方が有意義。なので、たぶんこうした魔法の開発はしないだろう。


「今は無い物ねだりしても仕方がない……見張りに気をつけて視線の中に入らなければ大丈夫だから、警戒してくれよ。ここでバレたら面倒だからな」


 幸い夜だし、敵側は明かりも持っているから動きも捕捉しやすい。よって、悟られないように立ち回ることはできる。

 やがて俺達は建物の中へ。裏口からなので間取りなどはわかりにくいのだが……うん、太い廊下を発見。外からロックがどこにいるかについては事前に聞いているので、そちらへ向かっていけば問題ないだろう。


 見張りに注意しつつ、俺達は進む。時折巡回する存在を発見できるが、それらをスルーして先へ進むことができている。この調子でいけばロックのいる部屋まで接近することはできるだろう。

 そうして歩む内に、俺は気付く。リリーやクレアも気付いたらしく険しい顔をした。その理由は……前方に『闇の王』の気配を感じ取ったためだ。


 やはり闇に関わっていたか……ギルダが恐怖していたのは間違いなくあの力のせいだな。


 改めて思うが、竜族に闇か……鬼に金棒とでも言うべきか。俺達でなければ対処不能になっていたことは間違いなく……これが『前回』も同じように起こっていたとすれば、皮肉な話だが『闇の王』そのものの蹂躙がなければ竜の都は壊滅的な打撃を受けていたことだろう。


 問題は『前回』ロックは何をしていたのか……竜族が闇を手にしたのならば世界を蹂躙するだけの力を得てもおかしくないように思えるのだが――いや、そこは竜族云々ではなく、何を望んだのかが重要か。ロックは「竜族を支配する」という願望を抱いているのだとすれば、闇から得られた力はそれほどでもないのだろうか……? まあ、結論を出すのは早計か。


 思考を目の前の状況に戻す。あの魔力に触れただけで、ロックには気付かれるだろう。今はまだ距離があるので問題はないはずだが……。


「やっぱりそう甘くはないみたいだね」


 リリーが小さく呟く。俺はそれに心の中で同意した。


 ――ゴルエンとしては、あるいは俺やリリーなどもそうだが、ロックを一気に打ち倒すのならば奇襲ではなく暗殺の方が望ましいと思うだろう。しかし、部屋の外から発するあの闇の魔力を見れば、不可能であることがわかる。だからこそ、奇襲だ。


「外は問題ないようね」


 クレアからのコメント。屋敷の外で敵に見つかった、などということには至っていない。ひとまず俺達の存在が認知されている可能性は低いだろう。


 もしどこかのタイミングで見つかってしまったら、逃げられるかもしれないわけだが、そこはゴルエンがどうにか立ち回る……自分という存在をあえて見せつけることで好機を生む……無謀なことではあるのだが、それでも相手の気を引く手段としては有用だ。


 外はまだ静かなので、トラブルは発生していない……その時だった。


「……ん?」


 声が……急に声が聞こえてきた。あ、これは、


「見つかったみたいだね」

「まあこればっかりは仕方がないさ……ん、ロックも動き出したな」


 敵が現われ警戒したか。ただその矛先は間違いなく外。俺達がいるとは察知していない様子。


「『闇の王』の魔力近くまで来たら一度止まる。その後、勢いと共にロックを倒す」


 その言葉にリリーとクレアは同時に頷き……やがて、濃密な気配がする研究場所手前まで来た。


「ここが限界か……外は騒がしいが、ゴルエンとかが油断を誘っているのかな」


 そちらに注意を向け続けてくれるとありがたいのだが……俺は一度リリーとクレアへ視線を移す。双方とも頷いていた。

 いつでもいい、ということだな。よって俺は一度呼吸を整えて、


「行くか……!」


 声を発すると同時、俺達は一斉に闇の魔力に触れ――その中心となる場所へ向け、走り始めた。


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