奇襲作戦
俺達はその後、ゴルエンへ組織のことについて伝えるために建物を出た。その道中、リリーが話し掛けてくる。
「真偽の方は不明だけど……」
「俺達を罠に掛ける、という風にしてもここまで直接的な行動は起こさないだろ。いきなり一足飛びに王を狙いに行く……そんな暴挙、組織の構成員以外から支持を得られるとは思えないし」
「確かにね。ま、ロックのことを話す際に怯えた様子だったし、信じていいんじゃないかな」
「怯え……か。それは当然『闇の王』だよな」
「たぶんね」
まああんな無茶苦茶な存在を目の当たりにすれば、恐怖だってするか。
「とにかくゴルエンに報告をして、どういう判断をするかだな……とはいえ、俺達のやることは決まっている」
「演説日までにロックという竜族を捕まえることだね」
「追っていることがわかればおいそれと演説なんてしないと思うんだが……」
敵に動きを察知される前に勝負をつけたいところだけど、そう上手くいくかどうか……思案している間に俺とリリーはクレア達と合流。その足でゴルエンの所へ。
前回と同じく玉座へ通されると、相変わらず一人のゴルエンがいた。で、一連のことを報告すると、
「ほう、面白い……組織の元長、か」
「口ぶりからするとロックという竜族が『闇の王』の力を握っている可能性があるんだけど」
「話が本当だとすると、そうだな……うーん、演説する前に捕らえるとすれば市街戦になるな」
「さすがにゴルエンとしても反対か?」
「住民の安全が確保されていればいいが……場所にもよるな。人が寄りつかない場所であったなら、考えよう」
――そこからギルダから情報提供された場所などについて話し合う。とりあえず現状としてはそれぞれの場所に監視を付け、動向を窺うという形になった。
「もし戦闘する場合は、できる限り短期間かつ被害が出ないようにしないとなあ」
「なんだか悠長に語っているけど……それやるの、俺達なんだよな?」
「無論の事、配下にも手伝ってもらうぞ。ただ、レイト達に協力願うのは間違いないが」
「……相手は『闇の王』の力を所持している。敵が本気になったら、さすがにこちらも加減はできなくなるぞ」
「演説の際だったら、全力を出していいの?」
リリーの問い掛け。それにゴルエンは頷く。
「場所が場所だけに、関係の無い者には被害が出ないからな」
「でも、ギルダの話が本当だとすれば、支持者などは洗脳されている……つまり彼らを守らないといけないが」
「そこだな……現状、もし『闇の王』の力が顕現したら抑えつけることができるのはレイト達だけだ。この城にいる戦力……私を含め、誰も止めることができない」
断定だった。そして俺達は同意せざるを得ない。
「最善の方法としては演説を行う前に攻撃。奇襲し相手が力を発揮する前に片付ける。これが一番望ましい形になるな。とはいえ顕現した場合に備え、被害が出ないよう処置しなければならない」
「その役目は、騎士達が担うのか?」
「闇とは戦えない以上、必然的にそういう形になる……演説を行う場所でも似たような戦法になる。レイト達が挑み、騎士が守る」
「ということは……」
俺の言葉にゴルエンは少し険しい表情で頷いた。
「守る準備が整うまでは、手出しできない。市街地における戦闘なら、準備はいるが……敵に気付かれないように立ち回ることは、おそらくできる」
「奇襲で片付けるのが望ましいが、正直そう甘くないと思うぞ。これは俺達に自信がないというのではなく、不確定事項が多すぎるからな」
――イルバドについては一度魔物と戦っていたからある程度敵の力量もつかんでいた。ルーガ山脈の魔術師は『前回』に眷属と出会っていたため、どういう戦い方をすればいいかなど理解できたし、また分析する余裕もあった。
しかし奇襲作戦を採用する場合は、当然ながら相手の力量を察することができない状況で仕掛けなければならない。なおかつ敵を一撃で仕留めるのが望ましい……それを『闇の王』の力を所持する相手に行う。極めて難易度が高い。
「正直、奇襲作戦は通用する公算は低い」
と、俺の指摘に同意するようにゴルエンは話す。
「レイトの言う通り、不確定な要素が多い……そもそも情報がないからな。どういう力を得たのか把握できない以上、いくらレイトやリリーの技量があろうとも、一撃で倒すのは困難だろう」
「レイト、もしロックという竜族と相対したら……どういう風に攻撃する?」
リリーからの質問が来た。俺は一考し、
「うーん、能力を瞬間的にどこまで判断できるかが鍵だな……正直、時間を掛けたら勝てると思うんだよ。ただ抑え込む上に奇襲で倒さないといけないってことだから、難易度が無茶苦茶上がっているだけで。それと、逃げた場合はどうするんだ?」
「……仮に潜伏されたら」
と、ゴルエンが口を開く。
「こちらは表立って動けばいいだけの話だ。もしロックが隠れたならギルダと話を付け、洗脳されている者達を徐々に解いていく」
「地道な方法だが、それが無難だな……奇襲に失敗したらそういう流れか?」
「そうだな。現段階で公にすればロックを討つ機会がなくなるかもしれない。よって居所をつかみ、演説前に攻撃を一度仕掛けよう」
「居所の捜索は任せていいんだよな?」
「ああ、そこは必ず遂行する」
「……組織の人員が城内に紛れている可能性があるんだろ?」
「組織の長である以上、構成員のリストくらいは所持しているだろ。それと照らし合わせ、シロだと断定できた者達に行動させる」
まあ、それなら……ということは、
「もう一度ギルダと話を?」
「今度はこちらから動く。無論、王の配下だとわからぬように。レイト達のメッセンジャーの役目はこれで終了だ。後は作戦開始まで、英気を養っていてくれ」
ゴルエンの言葉で話し合いは終了。玉座の間を出た時、
「アゼル、魔装の調子はどうだ?」
尋ねてみると彼は難しい顔をした。
「調整はやっていますし、数日以内にとりあえず戦えるくらいにはなります。さすがに『闇の王』に対抗できるほどとはいきませんが……竜族と対峙しても引けを取らないくらいにはできるかと思います」
……もうその時点で相当なレベルなはずだが。ただ要求される技量が天まで届くくらいだからな。
「わかった。今回の作戦についてはどうする?」
「帯同はします。ただ奇襲そのものには参加せず、後方支援に徹します」
それが無難か。それにある程度魔装が使えるようになった彼の支援というのは心強い。
「なら、ゴルエンにその辺りのことを作戦が決まった段階で伝えておくか……他に何か気になることはあるか?」
「はい」
手を上げたのはクレア。
「宿にこもっていたら、さすがに腕も鈍るわ」
「……ならゴルエンに頼んで訓練場でも貸してもらうか? あ、そういう話ならさっきやっておけば……」
「明日でいいでしょ。今日は色々あったし」
リリーはそう述べた時、外に出た。
「クレア、明日からの訓練付き合って」
「無論よ。レイトはどうするの?」
「アゼルの魔装について、調整に付き合うかな……四人、前衛後衛で動くとしたら俺はアゼルと息を合わせなくてはいけないし」
「そうですね。よろしくお願いします」
そうした会話を行いながら俺達は宿へ戻る。待つだけの状況ではあるが……決戦が差し迫っていることは間違いなく、俺達は粛々と次の戦いに備えることとなった。