表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第三章
82/143

組織の状況

 俺達が案内されたのは、町中にある一軒家。塀に囲まれた敷地はそれなりに広く、他の建物と比べてもそれなりに立派な外観をしている。


「こちらだ」


 門の中へ誘導する男性。それに続くと背後にいた者が門を閉める。そこからは先導する男性だけが俺達を案内することとなり、中へ。

 室内は……とりあえず広めのエントランスがあった。そこに今度はメイドらしき女性が。


 案内役の男性が目配せすると、今度はメイドが俺達を案内することに。


「私はここまでだ。話し合いが上手くいくことを祈っている」


 男性が俺達を見送る。こちらは無言のままメイドに案内され……建物の奥へ。扉が開くと、書斎らしき場所。その奥では事務机のような物に手を置き、椅子に座る男性がいた。


「ようこそ」


 その声は、威厳の苦悩が入り混ざったもの。見た目は白髪の男性……年齢としては五十代くらいだろうか? 肩幅もあり少なくとも上半身は体格も良いので、剣とか持たせたら似合いそうな感じだな。


「最初に、名乗っておこうか。私の名はギルダ=ジェーデスト。君達も名は聞き及んでいるかもしれないが……『銀翼の竜』という組織の長だった者だ」

「……だった?」


 聞き返すとギルダは深々と頷いた。


「そうだ。最近になって私は長という称号を剥奪された」

「……裏切りにあったのか?」

「長の交代そのものは、組織内の取り決めによって行われた……が、問題はその過程だ。簡単に言うと現在の長……その者は強引に支持者を集め、組織の長となった」

「あなたのやり方が気に入らない方々を、無理矢理支持させたとか?」


 リリーの問い掛けにギルダは「違う」と否定した


「あれは、そうだな……洗脳という表現が近い」


 ……なるほど、おおよそだが見えてきた。

 ギルダの言説が本当であるとするなら、現在組織の長という地位についている存在こそ、今回の騒動を主導した者ということになりそうだ。ただ、


「そんな簡単に言ってしまっていいのか?」


 ゴルエンと関係があるからといって、人間の俺達にこれほどあっさりと告げるなんて――


「そちらから、王に告げてもらえるとありがたいのだ」


 ギルダは主張する。なるほど、俺達を伝言役にしたいと。

 組織の実状を理解してもらって、ゴルエンも巻き込もうというつもりなのかもしれないな。


「私達としては、まず誤解をとくという意味合いもある……簡単に言えば、君達を襲撃した一件は、現在長に就任している者の仕業だ」

「つまり、あなたとは関係がない、と」

「そうだ……私としてはあんなことをしでかした以上、ただでは済まないと思っている。そのことについて謝罪に加え、こうして説明を行っている」


 なるほどな……まあ事情そのものは理解できたのだが――


「……私達が『山の王』へ話すにしても」


 と、リリーが口を開く。


「ある程度事情を把握しないと何も言えないよ。現状では内輪もめしているくらいしかわからないし」

「うむ、王と直接話ができる領主の息子といる面々なのだ。ある程度の説明は行う……が、正直なところ、私達としても理解できない部分が多い」

「……何?」


 こちらが聞き返すとギルダは苦悶の表情を浮かべた。


「あれが、あの力が……一体何なのかわからない……現在組織の長を務める物の名はロック=バーラスという。二十代半ばの青年で、元々私達の組織に所属していた者ではあったのだが……ある時を境に、急激に力をつけた」


 ――なるほど、ここで『闇の王』が関わってくるみたいだな。


「どういう理屈なのかわからなかったのだが、彼は急進的な行動を取り始め、最終的に私を長の座から引きずり下ろした。それ自体も不可思議なことばかりではあったが……その後の行動も、組織を破滅させるようなことばかりだ」

「一つ、いいか?」


 俺はギルダへと疑問をぶつけることにする。


「長を選ぶとき、支持者を洗脳に近い状態だったと語ったな? それは今も継続しているのか?」

「ああ、おそらくではあるが。私と私の側近については難を逃れている。そこは間違いない」

「わかった……なら現在の長が今後、何かしでかすという情報はあるか? さらに事が大きくなる可能性があるなど」


 ギルダは沈黙する。何か知っているような雰囲気ではあるな。

 ふむ、ここは彼に協力関係を持つような動きをすればいいだろうか? 正直彼についても全面的に信用できたわけではないけど。


「……そうだな、これも王へ伝えてくれ。おそらく、ロックは支持者に加え、組織の構成員全員を集めて何かをしようとしている」


 そう語るギルダの目には、苦悶に近しいものが窺えた。


「今から数日後に、組織内で大規模な集会がある。都の外れにある廃墟を利用して度々私達は集会を開いているのだが……そこで、演説するらしい」

「演説?」

「本当にただ演説するだけとは到底思えん。考えられる可能性としては、組織の構成員を全員……私を含め、洗脳させるつもりかもしれん」


 そういうことか……おそらくだけど、ギルダとしてはその集会まで何かしら行動を起こしたかったはず。その中で俺達に目をつけたというわけか。

 俺達を通してゴルエンに情報を伝え、ロックを捕らえる……ギルダの望みとしては――


「こうして話をする以上、何かしら見返りを求めていると思うが」


 こちらの言葉にギルダは小さく頷き、


「組織の存続を。それ以外は望まん」

「わかった。ならその情報を『山の王』へ伝える……それでいいんだな?」

「ああ、頼む」


 すがるような声音だった。彼としては現状を嘆いているのだろう。

 おそらく組織の中にも荒事向きの構成員だっていたはずだが、それらを一切合切ロックに奪われた……かな。たぶんだけど現在進行形で組織の構成員をロックは洗脳し、その範囲を拡大させている。で、その総仕上げに集会で演説をする、とかそういう流れかな?


「……もう一つだけ、質問が」


 俺の言葉にギルダは待つ構えを示す。


「そのロックという竜族は、現在どこに?」

「組織内で保有している施設がいくつかある。その中でどこにいるかは……わからん」

「ではその場所を教えてもらうことは? あと、ロックという竜族について可能な限り身体的な情報を」

「……何をする気だ?」


 眉をひそめるギルダに対し、俺は冷静に、


「集会を開いた時点で、敵の目論見は九割方達成しているはず。ならその前に叩く方が被害も少ないのでは?」

「その意見はもっともだが……町中で騒動を行うことになる。場合によっては一般民に被害が出る」

「その辺りの考慮は『山の王』に任せます。とにかく、今は可能な限り情報が欲しい」


 こちらの言及にギルダは少し考え込む……犠牲を増やしたくはないという心情らしい。

 支持者以外の誰かが怪我でもすれば大騒ぎになるから、ってことか。これ以上組織の悪評を増やしたくないと……その考えは理解できるのだが、もし『闇の王』が関わっているとしたら、できるだけ早期に片付けたいところ。


 ギルダとしては、どう思うのか……彼はしばし沈黙し、思案する。俺とリリーはそれを待つ構えであり――やがて、


「……わかった。組織について、可能な限り情報を提供する」

「どうも。まずは『山の王』に事情を伝える。その後、情報提供をよろしく頼む」

「承った」


 ギルダは同意……さて、事態は大きく動き出すことになりそうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ