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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第三章
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申し出

「――念のため確認するが」


 と、先頭にいる男性が俺達へ向け話し掛けてきた。


「お前達は竜を倒してここに来た人間……だな?」


 いきなり大当たりである……いや、待てよ、これは――


「……クレア」

「わかったわ」


 彼女は察して元来た道を引き返そうとする。しかし、


「待て。こちらの問い掛けで状況を理解したようだが、まだ何もしていない」


 男性が告げる……俺はそれに対し疑いの眼差しを向ける。

 彼らは俺達が路地裏に入ったことで話し掛けてきた……というわけではなく、どうやら竜の都に入って時点で監視していた。で、現在アゼルが宿に一人……こちらの動向を監視していたのなら、彼が一人でいるのも把握しているわけだ。


「というより、あんな大通りの宿にいられたらこちらとしては干渉できない」

「……クレア、いいから行ってくれ」


 男性は眉根を寄せる。しかしクレアのことを止めるようなことはせず……俺とリリー、二人だけになった。


「そっちは俺達に何をしようとしたのかわからないが」


 クレアを見送った後、男性へ告げる。


「少なくとも、こちらを監視していたんだ。相応の警戒はとるってことさ」

「……まあいい。信じてもらえないという様子だが、こちらは話をしに来た。最初に襲撃したこと自体、まあ色々とこちらの不手際もあるわけで、それについてはきちんと謝罪をしたい」

「謝罪?」


 思わぬ言葉に俺は聞き返す。


「そんなことをして何になる?」

「こちらとしては思わぬ能力で居所を捕捉され、襲撃してしまった面がある。そこについて謝罪と、なおかつその上で話がしたい」


 ……思わぬ内容だな。ただ、ずっと監視をしていたことを踏まえると、安易に信じていいものか。


「少なくとも」


 と、リリーが口を開く。


「ずっと監視をしていた存在が謝罪、話、と聞いてすぐに信じると思う?」

「その意見はもっともだ。とはいえ、こちらとしてはあまり事を荒げたくはない」


 そう述べた後、男性は俺達を一瞥し、


「襲撃した者達は、しかるべき罪を背負ってもらうことになる……こちら側がきちんと伝えたいのは、敵意がないということだ」

「敵意がないか……ふむ、謝罪というけど」


 リリーは男性を見つめながら話をする。


「いくつか質問があるのだけど」

「ああ、構わない」

「まず、なぜこうして謝罪を? わざわざ人間の私達に対し話を向けるというのは、異例ではない?」

「そこに疑問を抱くのはもっともだ。回答としては……領主トゥリの子息に加え、その護衛……君達が城に入ったことを含め、きちんと話をした方がいいと考えたためだ」


 ……もしかして、組織の上層部でも紛糾しているのかな? 領主の息子がやって来て、襲撃してしまった。ゴルエンもさすがに重い腰を上げるだろう……だから何か処置をしようとしている。そしてこれ、確実に利用できるな。


「君達は我々がどういう存在なのかは、情報を得ているだろう? その上でこうして話を持ってきている」

「嫌味なことを言うけれど、私達が単なる冒険者だったなら、こうして話を持ちかけなかったよね?」

「そうだな。とはいえそれならそれで何もせず終わりだ」

「なるほど……私達に話し掛けるタイミングを窺っていて、路地裏に来たからこうして顔を出したと?」

「その様子だと、何かしら仕事を依頼されたのだろう? 『山の王』に」


 監視をしているなら、何の理由もなく路地裏に踏み込むのは何か意図がある、と察することはできるだろうしなあ。


「それがどういうものなのかは問わないが、私達組織の者からすれば、良い内容でないことは確かだろう」

「そうね……少なくとも私達が『山の王』寄りの人間であることは認識し、こうして話し掛けているんだよね?」

「そうだ」

「……情報を逆にとられるとは思っていないの?」

「争うことはしない。そちらは『山の王』の威光があるため、派手に暴れることだってできる、と解釈しているかもしれないが……きちんと話をすれば、考えを改めてもらえるはずだ」


 ふーむ、出会いは最悪だったわけだが、存外『銀翼の竜』という組織は紳士的だな。


「なら、そうだね……そちらのやり口がずいぶんと強引になっている、と話に聞いたけど」

「その辺りも説明しよう」


 ――もしかして、組織の中でも二分しているのか? 急進的な行動に反発する勢力と、それを支持する勢力に。

 色々と疑問を抱くのは確かだが、確実に言えるのはこれが情報を得る絶好の機会であることだけ……どういう形にしろ、収穫はある。組織内の事情をある程度持ち帰ればゴルエンにとっても有益だろう。


「わかった……で、レイト。どうしようか?」

「そうだな……話をするのは今から、なのか?」

「そうだ」

「先ほどの仲間達と一緒に、でいいのか?」

「どういう形でも構わない」


 条件としては悪くないな。ただアゼルはもし荒事になったら戦えないし、置いていくのが無難か。

 念のためにクレアを護衛に据えて……段取りを頭の中でまとめた後、


「わかった。なら今から話を聞くことにする。ただし、先に仲間に報告させてくれ」

「いいだろう」


 さて、鬼が出るか蛇が出るか……思わぬ形で話が進展したが、良くも悪くも情勢が動くことになりそうだな。

 俺とリリーは一度宿へ戻る。そこでクレアとアゼルへ事情を説明すると、


「組織内でも思惑がありそうですね」


 アゼルが感想を述べる。それに俺は肩をすくめ、


「内ゲバという可能性もゼロじゃないな……考えを改める、と言っているし彼らはゴルエンの所業を悪く語ってこちらを引き込むつもりなのかもしれないが」

「僕達が寝返ることはないですけどね……レイトさんはどうするつもりですか?」

「俺とリリーだけで話を聞いてこようとは思う。そいつが『闇の王』と関連があるってわかれば直ちに倒して終了だな」

「それなら話が一番早いけど」


 リリーが腕を組みながら発言。


「ま、そう甘くはないだろうね」

「罠に掛けるという可能性も否定できないが、俺とリリーなら食い破れるはず。というわけで、二人で行ってくる。クレアはアゼルと留守番をよろしく」

「任されたわ。私はただ戦うだけだし、事情がどうとか、争いがどうとかはそっちに任せる」


 面倒らしい。まあ無理もない。

 単なる政府と反乱組織の対立かと思ったら、組織内でも色々事情がありそうなわけだから……まあ、こうなったらこうなったらで一気に決着までもっていけるかもしれないし、良い方向に進んでいることを祈ろう。


「それじゃあリリー、行こう」

「うん」


 二人で宿を出る。先ほどの男性がこちらを認めると、路地へと案内する。


「そういえば、あんたは組織のどういう立場なんだ?」


 なんとなく尋ねると、


「私は下っ端の構成員に過ぎない。ただとある方に重用されているだけだ」

「組織の長、か?」

「少し違う。組織の上位層にいる存在であることは間違いないが……これ以上は会って自己紹介をすることになるだろうから」


 ふむ、大物と会うことになるのは間違いなさそうだ。

 その存在が敵か味方になるかは今のところ不明だが、俺達の目的はあくまで『闇の王』についてだ。そこだけは絶対に間違えてはいけない。


 例え闇の力を活用して役立てるとか言い出しても、絶対に取り合ってはいけない。そこだけは絶対に曲げず、そんな様子を見せたら即座に倒す……そんな決意を抱きつつ、俺とリリーは案内により路地を進み続けた。


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