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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第一章
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皇女への返事

 怒濤の展開によって俺は二の句が継げない状況に追い込まれた……そうした中でどうにか思考する。


 えっと、その……唐突にそんなこと言われるとは思わなかったので、こっちはとにかく状況を整理し頭の中でまとめることしかできない。

 沈黙が再び生じ、風が体を撫でる。先ほどと異なるのは、無言となる原因がリリーではなく俺にあること。立場が変わり、原因を作った彼女は頭を下げたまま俺の返事を待っている。


 しかし、この状況どうしよう……必死に頭の中をまとめていると、リリーの頭が少しずつ上がってくる。

 表現するなら「さび付いたからくり人形」といったところか。ギギギ、という擬音が似合うぎこちなさで俺の顔を窺うように目線を合わせ、


「だ……駄目、なの?」


 ――そこでようやく俺は言葉をまとめあげ、口にする。


「まず、リリー……重要なことがある」

「重要?」

「ここで俺が受ける返事をしたとしても……一緒にはなれないぞ」


 指摘にリリーは目を丸くする。


「よく考えてみろよ。過去に戻ったということは、俺の功績なんかも全てリセットされているわけだ。以前の俺はそれこそ英雄扱いだし、リリーと並び立つ資格があると多くの人に思われていたけど、今の俺は違う」

「それはほら、他の人の記憶を戻すとか」

「全員やるとか無理だろ……」


 肩をがっくり落とす。


「とにかくだ、今の俺は『出身不明の冒険者』だ。いくら皇位継承をしなくても皇族である以上は、俺みたいな根無し草の人間がリリーと一緒になるとか、天地がひっくり返ってもあり得ないし、リリーが言ったように記憶を……というのも非現実的だ」

「どうして?」

「例えば王様の記憶を蘇らせたとしよう。そして俺達の仲が認められるとしても、他の人達が納得しないだろ……そうした相手に対し記憶をいちいち戻すとか、非現実的にも程がある。皇族の関係者は千では到底収まらない数がいるからな……で、結婚云々に理解を示さない人が現われたら、政争に発展する可能性が高いぞ。リリーだってそういうトラブルにしたくはないだろ?」

「う、うーん……それは、そうだけど」


 唸り始める。思いっきり告白した手前引っ込めることなどできないし、微妙な心境になるのは理解できるけど。


「そ、それじゃあ一つ訊かせて?」


 ならばと、リリーはもじもじとなりながら尋ねる。


「あの、皇族とか関係なく……返事は……その……」


 俺がどう考えているかを聞きたいらしい。だが、


「それを言う前に一ついいか?」

「う、うん。どうぞ」

「まず俺達は今から『闇の王』に対して動く。これは確定でいいよな?」

「そうだね。そこは同意する」

「で、そうなればいずれ王族と関わりを持つことになるだろう。どのみち放浪しているリリーが目立ち始めたら国側も対応に迫られるだろうし」

「だと思う」

「……お前、返事を聞いてその結果を俺が王族に認められるまで隠し通せるか?」


 何でこんなことを訊くかというと、リリーの口から「レイトはこう言っていた」などと言われた日には、大騒動に発展するからだ。


 前回皇族と最初に接触した際は、俺はリリーの素性を知らないという形にした。彼女が身分を偽っていたので、俺は彼女の関係者から事情を聞いて驚いた……みたいな演技をしたと思う。で、そこから皇族の信頼を勝ち取った。


 しかし今、例えばリリーが俺に告白をしてオッケーという返事をしたとしよう。そこから皇族としては「告白したくらいだから当然、身分も明かしているだろう」という解釈をする。そしてリリーは顔に死ぬほど出やすいタイプなので、たぶん告白についてはバレる。となれば当然「俺が身分を考慮した上でオッケーした」と考えるだろう。


 身分を知ったからさすがに返事はできないという形にしたら俺に対して何かある可能性は低いけど、受け入れたなんて状態になったら下手すると闇討ちとかに遭うぞ。能力的にそんなことされても平気だけど、そんな事件があったら俺は城にいられなくなるだろうし、皇族と信頼関係を結ぶのは夢のまた夢である。


 ――と、そういった主旨のことを説明すると、リリーは少し間を置いて、


「なんとなく話は理解できた」

「ああ。それで俺の質問に返事は?」

「無理。たぶんすぐバレるね!」


 両手を腰に当て、胸を張って笑い始める……自己分析がよくできて結構。


「うん、そうだな。というわけで返事はなしで」

「そんなあ!? このまま生殺し状態でいろっていうの!?」

「いや、俺に言われても……リリーだって頭の回転早いんだから、俺に言う前に一考したらそのくらいの判断できただろうに……」


 押し黙るリリー。とはいえ、このままでは非常にやりづらいのも事実。よって、


「答えについては必ず告げる。それは約束するよ。でもそれを告げるのは……戦いを全て終え、俺の存在が皇族にきっちり認められた後だ」


 ……リリーには申し訳ないけど、こんな形にしておくと彼女にとってもやる気が出る……と思う。なんだか心痛いけど。

 ただ今返事をしたら面倒なことになるのは確定だからな……とはいえ、フォローしておこう。


「……現時点で返答はできないけど、俺はリリーのことを信頼しているし、また仲間として大切に思っている。それだけは理解してもらえると」


 ここでリリーは俺の目をじっと見据えた……その、明確な答えは出せないけど、嫌いではないということが伝わってもらえれば――


「……わかった」


 やや沈黙を置いて、リリーは不承不承な雰囲気で返答した。


「レイトの主張したいことは理解できるから、それで納得してあげる」

「なぜ俺が責められるような形に……」


 思わず脱力。それにリリーは表情を改め、


「ま、いいよ。こっちとしては言えてスッキリしたし」


 それでいいのかお前は。内心ツッコミたかったけど、口には出さないでおく。

 ともあれひとまず話はまとまったので……、


「で、これからどうする?」

「仕事が終わった後で、報酬を受け取りたいから冒険者ギルドがある町に行きたい」


 リリーの要望に俺は頭を回転させ、


「ここから街道を進んだ先の町にはギルドがあったな。それじゃあそこへ向かいながら作戦会議をやろう」

「それでいいよ」


 軽く伸びをしながら返答。とりあえず告白云々については折り合いがついた様子。あの返答でいいのかと疑問は浮かぶが、彼女が納得したのならそれでいいか。

 よって俺達は改めて行動を開始する――思わぬ再会から予想など到底できなかった出来事の連続で、結果的に俺達は一緒に旅を始めることに。


 ともかく、形は成った――俺達は再び『闇の王』との戦いへ身を投じるべく動き始めることとなった。


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