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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第三章
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大きな差異

 夜、俺達は休憩所にある一室で休むことに。宿泊施設を兼ねていることもあり、男女でそれぞれ部屋を借りることができた。


「明日は何事もなければ良いですね」


 そんな言葉がアゼルの口から漏れる。俺は小さく頷き、


「今回は俺の失態という面もあるから……怖がらせて悪かった。次からは注意する」


 眠ろうという段階になり、俺達は会話を重ねる。ずいぶんと打ち解けた様子。うん、これなら記憶を戻すことはできそうだ。

 これ以上時間が経てば作戦会議も開けなくなりそうだったので、決めようかと思い俺はアゼルへ呼び掛けた。


「一つ、明日の注意点を」

「はい、何でしょうか?」


 そのタイミングで目を合わせた。さて、成功するかな?

 ただ失敗してもこの状況なら怪しまれずに済むだろう……と、瞳の奥にある魔力へ触れた。


 パチリ――成功だと思った瞬間、アゼルの瞳が一瞬揺れる。何が起こったのか――それを理解し、処理するのに脳をフル回転させ始めている。

 とりあえず黙って事の推移を見守っていると、


「……これは」

「確認だが」


 俺はアゼルへ口を開く。


「戻った、でいいんだな?」

「……その様子だと、他の方にも同じように?」

「正解。リリーやクレアも通った道だ。俺を多少なりとも信頼していなければ発動できなかったから、出会ってすぐにはできなかったんだが」


 アゼルは呼吸を整える。次いで自分の手のひらを見据え、


「……戻った、という表現なんですか?」

「正直どうなのかわからない。時間が巻き戻っているのか、それとも他に要因があるのか……アゼル、一つ聞いていいか? 最終決戦の時、アゼルはどうしていた?」


 その問いに彼は突如はっとなった。


「僕は……闇に完全にリリー様達が飲み込まれてしまい、戦線を維持できなくなって後退しました」

「退却したのか……でも、そこから逆転はできなかっただろ?」

「はい。残っている面々を確認する間に、闇は町や城を覆うように向かってきて……飲み込まれました」

「そういう結果だと、誰の記憶を戻しても同じようなことしか聞けないな。ともあれ、確実なのは……リリー自身は核にダメージを与えたと語っているが、結末は変わらなかったということか」

「……レイトさん、戻ってきたんですね」


 改めて言われると、俺は肩をすくめた。


「恥ずかしながら。リリーに理由と問い質したくて」

「……結果、こうしてまた一緒に旅をしていると」

「そういうこと」

「告白とかされました?」


 ――なんというか、あれだな。


「クレアも似たようなこと言っていたけど、リリーってバレバレだったのか?」

「レイトさんの前ではギリギリ保っていたくらいでしょうか」

「マジかよ。演技しているとかなら俺だって気付くと思っていたんだけど」

「そこは、リリー様が一枚上手だったのでしょう。リリー様は……自分が皇帝になるとわかった時から、既にあきらめていたようですから」


 俺と結ばれることを、か。


「そっか……あ、これから作戦会議をしたいから、リリーとクレアを呼んできていいか?」

「はい、待っています」


 彼の返事は明瞭なもの。これでようやく、パーティーは揃ったかな。






 その後、四人で男部屋に集まってアゼルへ事情を説明する。彼はすんなりと状況を理解し、また同時に『山の王』へ会いに行く道理についても納得した。


「『闇の王』関連であれば、あの御方もすぐに協力を約束してくれるでしょう。問題は記憶を戻せるかですが……」

「信頼を得ることが前提条件だから、騒動についてどうにかすることで記憶を戻すだけの信頼を手に入れるのがいいと思うんだが……アゼル、退位というのは『前回』もあったのか?」

「いえ、ありませんでした」


 首を左右に振るアゼル。


「そもそも今回のような関所の封鎖もありませんでした」

「ということは、これは『前回』にない事象か……例えば『森の王』に関連する騒動については、俺達の記憶通りになった。でも、今回は違う」

「変わり始めている、ということじゃないかしら」


 クレアが俺達へ向け、発言した。


「レイトとリリーが動いた事による影響なのでは? まだ動き始めたばかりの『森の王』に関する騒動については『前回』と同じだった。けれど、二人が王を存命させたことにより、歪みが生じ始めた」

「そう解釈するのが妥当か……ということは、今後『前回』の情報は意味を成さなくなるな」

「ま、それならそれでいいじゃない? そもそも『前回』のことを参考にし続けていたら、『闇の王』が誕生しているわけだし」


 リリーの発言。うん、もっともだな。


「現在私達は『前回』のような闇を出さないために立ち回っている。首謀者である仮面の女の動きについては気になるけれど……王に協力を得ている時点でこちらがかなり有利なはず」

「そうであってくれると嬉しいんだが……変わったということは、未来を俺達の手で変えられるということを意味している。なら、有利な盤面をさらに作っていく……これが俺達にできる最良の策だ」

「ということは次はゴルエンだね」

「そうだな。ただ俺が余計なことをしたからなあ」

「山道を監視している竜なんて物騒だし、追い払って良かったと思うけど」

「のんきに言っているけどなあ……まあいいや。やってしまった以上はこれらの情報も加味してどう行動するか考える。で、アゼル」

「僕の能力について、ですね」


 こちらは頷く。戦力になるのかどうかだが、


「まず『前回』の能力をそのまま引き出すのは無理です。あれは強力な魔装があるからこそ成し得たもの。記憶が戻ったことでそれを扱う技術は得られた……と思いますが、同じ物を作るのは困難であるため、前のように皆さんと共に戦うのは厳しいと思います」

「でも、手がないわけじゃない……ってことでいいのか?」

「最悪、竜の都で手に入る魔装を使えば、援護はできると思います。ただ『闇の王』との戦いである以上、それでは足りない」

「……候補はある?」


 リリーが問う。彼女は自分が持つ剣を見据え、


「私も剣は『森の王』から得たけれど、闇に対抗するにはこれでも足らないと思っている」

「つまり『聖皇剣』以上の武器ということですね……僕としては有力な情報はありませんが、ゴルエン様はそうした物事に詳しいですし、もしかしたら何かヒントを得られるかもしれません」

「なら、とにかくゴルエンの記憶を戻す……そこからがスタートだな」

「はい。で、ゴルエン様の記憶を戻すことについてですが……提案があります。『前回』のことを、記憶が戻っていないゴルエン様に話してみてはどうでしょうか?」

「……怪しまれないのか?」

「僕がいますし、少なくとも一笑に付されることはないと思います。むしろ『闇の王』絡みなので、詳しく話を聞こうとするかもしれません……あと」

「あと?」


 アゼルはそこで笑う。


「なんというか、あの方は……想定外の物事が起こると、喜ぶ性質なので」


 ああ、なるほどな。俺達が予想外の情報を投げたら、好奇心でそれに食いつくと。


「……ゴルエンのことをよく知るアゼルが言っているし、そうするか。リリー、クレア、それでいいか?」

「異議はなし」

「私もそれでいいわ」


 ということで決定。アゼルについては戦力になるかどうかわからないが……こうして相談に乗ってもらおう。それだけでも、こちらとしては助かるし。

 よって、明日に備えて寝ることに。結果オーライという形だが……アゼルの記憶を戻せて、本当に良かった。


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