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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第三章
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思わぬ敵

 竜が襲い掛かってくるかもしれない、という懸念の関所の兵士がしていたわけだが、昼食後次の休憩所へ向かっている間も襲撃してくる者はいなかった。まあそんなにドンドン攻撃されても困るわけだけど……ともあれこの調子なら交戦することなく辿り着く――そう思っていた。


 きっかけはクレアからの指摘。彼女は空を見上げ、


「ねえレイト。一ついいかしら?」

「ああ、どうした?」

「ゴルエンに反攻する勢力が山道を歩く存在を襲撃する……というのは、どういう意図があるのかしら?」

「うーん、ゴルエンの治世を否定するのであれば、犠牲者を出すことでアイツは間違っていると糾弾できる材料とかにもなりそうだけど、それじゃあ支持者は増えないよな」


 人間と文化交流がそれほどあるわけじゃないが、交易はしているのだ。その恩恵がなくなることについて不満が出てくるはずだし。

 こう考えると竜族以外の者は追い払うべき……そんな選民思想的な存在が敵なのかと思うところではあるが。


「というより、相手は『闇の王』にまつわる資材を得ようとしているのだとしたら、物流が滞るのは問題よね?」

「確かにそうだな……少なくともいくらかの資材は人間側から得ているのはオディルの情報からいって間違いなさそうだし」

「だとするなら『闇の王』と関係がないのかしら?」

「……無理矢理理由を付けるなら、既に資材は得ていて、作戦が次の段階に入っている。あるいは、竜の都の中で手に入る当てがあるから、強硬手段に出たとか」

「どれもしっくりこないわねえ」

「そうだな……ただ、そう考えると『闇の王』と関連は薄いのか?」


 ゴルエンの記憶を戻せばはっきりするのだろうか……疑問を抱きつつ、足だけは前に進む。


「で、レイト。もう一つ……肝心のゴルエンの記憶をどう呼び戻すのか」

「そこについては色々考えているけど……信頼を得ることから始めないといけないからなあ」

「事件に首を突っ込んで色々貢献するのが一番かしら」

「まあそれもアリかな……ただその場合はアゼルを巻き込めないから、困りどころではあるな」


 二人の記憶をどうやって戻すのか。そこが一番の課題だな。


「山道で竜が襲い掛かってきて、そいつを引っ捕らえればいけそうだけど」

「……俺がアゼルを守るように立ち回って信頼を得て、竜を捕まえてゴルエンの信頼を得る、か? まあ確かに一石二鳥とも言えるけど、さすがにやりたくはないな。というかそもそも、相手がいるのかどうか」

「なら索敵してみたら?」


 索敵か。魔法を使うことで相手に勘づかれる危険性とかあるけど、敵がいるかの確認くらいはしておいてもいいのかな?


「ではちょっとやってみるか」

「お、乗り気ね」


 なんだかワクワクした様子のクレア。期待するなよと心の中でツッコミを入れつつ、俺は魔法を使って周囲の状況を探る。

 山道を離れると急斜面などが続き、山の周辺には森が広がっている。仮にどこかに潜むとしたら、森の中とかだろうか? 竜族なら変化することによって飛べるし、麓にいても襲撃するなら問題はないだろう。


 まあさすがにいるとは思えない……などと考えていた矢先のことだった。


「……うわ」

「あ、見つかった?」


 クレアの問い掛けに俺は首肯する。

 うん、確かにいる。距離はあるけど森にいくらか竜族と思しき気配が潜んでいる。


 ただ、その数は一つや二つではない……あれ、これかなり数が多いのでは?


「……なるほど、これだけ竜族がいるのだとしたら、ゴルエンも山道を封鎖するな」

「え、そんなに多いの?」

「ああ。数は――」


 その時、変化が起きた。気配を捉えていた竜が――突然、動き出した。


「あ、これは……」


 俺が索敵魔法を使用したことについて気付かれた? 他の場所からも竜が動き出す。あ、これは気付かれたっぽい……最悪だ。


「自ら騒動を引っ張り込んでしまったか……」

「どうしたの?」

「俺の索敵魔法に気付いて、こっちに来るみたいだ」

「おお、珍しいわね、レイトが失敗するなんて」

「さすがにいないだろと思って魔法を使ったのが運の尽きだな……」

「レイト、どうしたの?」


 リリーが訊いてくる。そこで俺は、


「周辺の索敵をしていたんだけど、竜がいた……で、こっちの索敵に気付いたらしく、向かってくる」

「またずいぶん攻撃的な竜だね」

「潜んでいることがバレた以上、黙っているだけではまずいという判断なのかもしれないが……ともかくこっちに来るぞ。どうする?」


 俺の話を聞いてアゼルは顔を引きつらせている……申し訳ない思いを抱きながらリリーの言葉を待っていると、


「休憩所までまだ距離はあるみたいだし、戦う他なさそうね。数は?」

「合計で、三体だな」


 他の個体は蜘蛛の子を散らすように逃げ去っている。たぶん俺の索敵魔法により見つかってしまったので、一度引き上げたか場所を移したのだろう。

 そこで、俺達の頭上に影が。見上げると竜――既に変化の能力を使った竜が、俺達の真正面に飛来した。


 ――竜、と連想する存在は元の世界で考えると二つある。一つは神秘的な東洋の竜。これは胴長で、神々しい輝きを放つような存在である。

 一方で西洋的な竜は、巨大な翼と四肢を持つ姿。この世界の場合だと、西洋的な竜の姿に似ている。

 翼もあり、四肢を所持し二本の足で俺達の目の前で着地する……皮膚や鱗の色合いは統一されており、全員が赤。威圧感は、相当なものだ。


『……どのような意図で魔装による索敵を行ったのか知らないが』


 竜が語る。魔装、と断言しているのはさすがに人間が魔法を使うとは想定していないからだろう。


『見つかった以上、逃がすわけにはいかん』

「ずいぶんと物騒だね」


 リリーは剣を抜きながら竜へ告げる。


「索敵に引っ掛かってもおとなしくしていれば誤魔化せたかもしれないのに」

『問答は不要だ』


 竜が今にも襲い掛かってこようとする……というか余裕がないな。それでは明らかにまずいことをしていると丸わかりなのだが。

 ともあれ、来た以上は応じなければならないか……たださすがに殺すのはまずいな。


「リリー、できることなら兵士に突き出したいな」

「ま、そうだね」

『こんなところまで来たのが運の尽きだ。覚悟してもらおう――』


 竜の口が大きく開かれた。ゲームだと炎属性のブレスを吐くという能力を持っているケースもあったが、どうやら目の前の竜達はそうした技能を有しているらしい。

 刹那、炎が俺達へ向け放たれる。即座に俺は棒立ちとなっているアゼルを抱え大きく後退。リリーとクレアは左右に逃れ、攻撃をかわす。


『ほう……』


 竜の誰かが声を上げた。あっさりかわされるとは思っていなかったらしい。


『貴様達、どういう理由でこの道を進んでいる?』


 ……さすがにゴルエンに会うためと言ったら、なおさら生きて帰すわけにはいかないという感じになるよな。

 俺達は無言。既にリリーとクレアは剣を抜き、臨戦態勢に入っている。一方俺は杖をかざしブレス攻撃を防ぐ準備を整える。


『返答はなしか。まあいい。どういう理由にせよ、我らに仇なす存在であることは確定のようだ……始末する』


 好戦的である。失敗してしまったが、これはこれで話が早くなるかなあ……? ちょっとばかり言い訳がましく考えつつ、竜達との戦闘に入ることとなった――


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