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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第三章
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皇女の頼み

 ――『山の王』が退位。その情報を聞いて俺は愕然とした。


 というか『前回』の戦いまでに、そんな話は一度もなかった。いや、もしかするとあったのか……? 疑問はあるが、少なくとも噂レベルでもそんな話はなかったはずだ。

 そもそも貿易を縮小するなんて話もなかったはず。皇帝になったリリーならばその辺りについても情報は得ていたと思うが、言い出さないってことはなかったと考えていいだろう。


「王が、退位を……?」


 俺が内心驚愕する間に、リリーが口を開く。彼女にとっても寝耳に水だったようで、眉をひそめていた。


「現在も王は……健在よね?」

「ええ、そこは私達も重々把握しております。しかし、突然そのような噂が存在している。現時点で『山の王』がどのような状態なのかを知る術はありませんし、こちらとしては連絡を待つ以外に手段がない」


 困った表情で語る領主トゥリ。なるほど、困惑しているのは彼らも同じか。


 唐突に退位するなんて竜の都に相当な混乱をもたらすのは間違いない。豪放磊落な性格でいざとなったら持ち前のパワーでどうにかするような脳筋系の王様であったのだが、理由もなく退位するなんてことは考えられない。何かをやる場合、必ず合理的な事由がある王だった。

 問題は退位の原因が王自身の体調不良などによるものか、それとも他に……退位を宣言することで、何か意味があるのか。


 こればっかりは都へ入って確認するしかないな……それはリリーも同じ結論だったようで、


「なら、私達が調べてこようか?」

「リリー様が……?」

「『森の王』による依頼のついでになってしまうけれど……私達としてはここで立ち往生するのはまずいのよ。だからあなたを頼ってここへ来た」


 トゥリは沈黙する。どうすべきか思案している様子だ。

 現状、竜の都へ至る道はクレアが持ってきた情報によればゴルエンの配下によって封鎖されている。領主トゥリであれば、それをどうにかできる可能性がある……というか、候補がこれしか見当たらないな。


「ちなみにだけど道が封鎖されて以降、連絡はとろうとしたの?」

「無論です。しかし事情があるため話せないの一点張り。手紙も送りましたが返信は現在のところありません。とはいえ相手側の態度からして、真摯に向き合えば話をすることはできるでしょう」

「なら私達が赴く場合……書状とかがあればいいのかな?」

「私の書状にどれだけ効果があるのかはわかりませんが……封鎖された道を通過するのに、確率が最も高いのは間違いないでしょう。手紙を持参した者が訪ねたら取り合ってくれるかもしれません」


 そこでトゥリは息をつく。


「リリー様、ご確認ですが絶対に行かれるのですか?」

「ええ、そうね」

「その、護衛というより、言わば冒険者としての仲間と共に、ですよね?」


 俺とクレアのことを一瞥して言及。ここまで俺達を引き合いに出すことはしなかったが、ここで改めて問い掛けた。


「お二方は事情を把握され、同席しているようですが……事態が事態です。『森の王』が絡むのであれば、陛下などに報告するべきではないですか?」

「事を大きくしたくない、という『森の王』による意向が大きな理由。そしてもう一つ……深刻な理由がある」

「深刻な……?」

「うん、簡単に言ってしまうと……人間、それも国の上層部に今回の騒動へ荷担している者がいるかもしれない」


 そのセリフにさすがのトゥリも言葉を失った。


「オディルは私達を信頼してこの仕事を頼んだ。である以上はやり遂げたい……ただ、察しての通り国側の助力は願えない。でも心配しないで。この二人は、それこそルーガ山脈に存在する『獣の王』にだって負けない力を持っているから」


 説明にしたって言い過ぎのような気も……と思ったが、


「信頼、されているのですね」

「そうだね。領主からしたらどこの馬の骨ともわからない人達だろうけど」

「いえ、リリー様の人を見る目は確かだと聞き及んでおりますし」


 ……そんな話、あったっけ? なんとなく気にはなったけど迂闊にツッコミを入れるとややこしいことになるので、コメントは差し控えさせてもらおう。


「わかりました……本来ならば道案内を兼ねて私も同行したいところですが、商人達へ事情などを説明する必要もあり、私は私でここを離れることができません。よって書状だけの協力という形になってしまいますが」

「……それなら、もう一つ頼んでもいい?」


 さらにリリーは提案。領主が待つ構えを示すと、彼女はさらに続ける。


「書状だけをもっていって話をする……というのは、無難だと思う。でも、商人達を追い返すほどの事態である以上、門前払いを食らう可能性もあるよね?」

「そこに関しては否定できませんね。私の書状には『山の王』へ宛てるための刻印を施します。よって無下にすることはないと思いますが」

「こちらとしては失敗できない。二度三度と話を振ってきたら相手としても警戒されるかもしれないし」


 ああ、なるほど。ちょっと強引ではあるけど、そういう風に話を持っていくのか。


「確実性を上げたいから、一つだけ頼みを」

「どのような内容ですか?」

「……領主自身が赴くことはできないにしても、親族と共に行動していれば、兵士も邪険には扱えないわよね?」


 ――アゼルの同行を要求しているわけだ。


「つまり、それは――」

「そういうこと……アゼル、あなたに同行を頼みたいのだけど」


 急に話を振られてビクッとなるアゼル。無理もない。突然表舞台に立たされたら、否が応でもそうなる。


「本来なら無理強いはしたくないのだけれど……私としても内容が内容だから、手を貸して欲しい」

「……ち、父上」

「うむ、まさかアゼルへ話を振るとは驚きました」


 そう告げた領主は、リリーと視線を合わせる。


「しかしそれは、失敗は許されないという強い意思の表れでもある……『森の王』に関連する依頼。単なる捕り物では済まされないのでは?」

「帝国側も絡んでいるかもしれない、という情報である程度理解して欲しい……まあ正直、かなり大変な仕事であるのは確か。でも『森の王』が私達に頼んできた仕事。であれば期待に背くわけにはいかない」

「なるほど、理解できました……しかし、アゼルはまだまだ未熟な身。いざという時……騒動に陥った時、不安もあります」

「危険な場所へ連れて行かないことを約束する。そもそも『山の王』と話をするまで案内を頼むだけだから、危険はないと思うし」


 道案内がてら同行するという主旨であれば、戦闘能力がなくても問題はないよな。

 領主はリリーの提案に対ししばし沈黙した。どのようにすべきか――熟慮している。


 リリーの話の振り方は多少強引ではあるけれど、失敗できないという前提条件からこちらも必死だと理解はしてもらえたはず。ならば後は息子を危険な目に遭わせる点についてなのだが――まあ、道案内を頼むだけなので分の悪い賭けではないだろう。


 記憶を戻したら、たぶん手を貸してもらえるので俺達の旅に同行するための理由を用意しなければならないけど……静寂が部屋を包む。果たして成功するのか、内心でドキドキしていると、


「……アゼル」


 領主は息子の名を呼んだ。


「そちらはどう思う?」

「ぼ、僕は……その、リリー様。お役に立てるのでしょうか?」


 その疑問にリリーはすぐさま首を縦に振る。


「そうですか……父上、必要とされているのであれば……」

「わかった……リリー様、ならばアゼルをお連れください。息子は『山の王』とも面識はありますし、話を通してもらえる可能性は高まるでしょう」


 結果としてはこちらの目論見通り――リリーの説得は、大成功だった。


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