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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第三章
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領主と息子

 リリーは第四皇女である以上、例え破天荒でも扱いはVIP級に位置するのは間違いない。領主であるアゼルの父親――名をトゥリというのだが、その彼がどういう扱いにするのか少しだけ気になった。

 まあさすがに邪険に扱われることはないと思ったのだが……最悪、リリーを騙る偽物扱いされても……というのはさすがに考えすぎだったようだ。


 リリーが屋敷を訪れた、ということが周知された瞬間、屋敷の中でバタバタと物音が聞こえてきた。準備が整うまで、と客室に案内されたのだが、とにかく急いで迎え入れる準備をしているらしい。


「侍女さんとか執事さんが大変そうだな」

「別に歓待しなくてもいいんだけどね」


 リリーが窓の外を見ながら呟く。うん、リリーはそうやって答えるだろうけど、領主側からしたら粗相のないよう取りはからうのは当然と言える。


 武者修行で帝国内を歩き回っている皇女様であっても、ここでの扱いが邪険だったら最悪彼女の口を通して帝都に悪評が伝わるかもしれない……俺としては「リリーなんかの相手をして大変だったな」という感じになると推測できているのだが、そんなことを考慮して領主が対応するはずもなく……。


「ちなみにだが、アゼルの気配もちゃんとあるな」

「そうだね」

「問題はどうやってアゼルと接触し、記憶を戻すのか、よね」


 ……まず、信頼関係を築く必要があるからな。例えばリリーが「レイトは信頼できる仲間だ」と紹介しても、それを鵜呑みにはしないだろうし。

 どう立ち回るのか……リリーとしては既に頭の中でプランは立てているみたいだが……ちなみに俺やクレアに今回発言権はない。というか下手に出しゃばったら領主に怪訝な目で見られる可能性だってある。この旅において実質的なリーダーは俺になっているけど、領主トゥリとの会話についてはリリーが仕切っていることをしっかりと示す必要がある。


 やがて屋敷内の足音も収まり、客室の扉が開いた。現われたのは青い髪を持つ中年男性。確か元騎士だったはずで、それにより体格もよく背筋もピシッと伸びていてとても印象が良い。


 そして、隣には……俺達が仲間にしようとしているアゼルの姿もあった。父親と同じ青い髪に加え金色の瞳。俺達と共に戦っていた時と比べて身長が低いけれど、その美麗さは相変わらずであった……ただ緊張しておりオドオドしている所作を見せている。

 性格的には『闇の王』との戦い前は臆病だったと本人は語っていたので、その言葉通りの様子だな。


 両者はまず一礼する。次いでトゥリが、


「お待たせ致しました、リリーテアル皇女――」

「私のことはリリーでいいよ、領主トゥリ。今回私はイファルダ帝国第四皇女という肩書きよりは、ギルド所属の剣士リリーとして来ているのだから」


 ハツラツとした返答にまずトゥリは目を丸くする。


「剣士として、ですか」

「うん、そう。本当なら皇女という身分は横にどかして欲しいのだけれど、それではあなたも会ってくれないだろうし、やむなくこういう方法を使ったの」

「……旅をしていると風の噂で聞き及んでおりましたが、何やら大変な仕事をしているようですね」

「ええ。事情説明をしたいのだけれど」

「わかりました」


 トゥリは頷き、まず俺達をソファへ座るよう促す。トゥリ達は対面に座り……リリーは話し始めた。


「経緯から説明しましょうか……私達はここへ来るまでの仕事で、『森の王』オディルと交流を持ったの。今回ここに来たのは、王の依頼を受けて」

「も、森の王ですか……!?」

「彼らと一緒に仕事をして、認められた結果、仕事を頼まれたのよ」


 ――相当な事態であると、トゥリは考えたかもしれない。アゼルについてもオディルが絡んできたという事実を受け、顔を強ばらせている。

 さすがに突然エルフの長の名がリリーから出てくるとは思わないよな……うん、これなら上手くやれそうかな?


「ちなみにだけど、何か証明とかはいる?」

「……リリー様は、確かにこうして旅をするなど陛下が手を焼いているという話は伺っております」


 そうトゥリは切り出す。それにリリーは笑い、


「それについては認めるよ」

「ですが、嘘で森の王のことを引き合いに出すような御方でないこともわかっております。嘘はお嫌いなのは、私達もわかっておりますので」

「そう言ってもらえると嬉しい」

「しかし、内容が内容ですので……森の王まで関わってくると、一介の領主に何ができるのでしょうか?」

「そう深く考えないで。私達の仕事内容は……竜の都の調査なの」

「竜の……?」


 そこで、おぼろげに彼は理解したのか、


「つまり、森の王は竜族に対し何か調べたいことがあり、しかし自ら赴けないのでリリー様に?」

「そういうこと。依頼内容をかいつまんで説明すると、エルフの都から宝物を奪った者がいたの。それを追いかけてくれ、という依頼を受けたのだけど……その物品が流れ流れて竜の都へ到達してしまった」


 この辺りの説明はリリーの頭の中でシナリオを作ったのだが、もしオディルへ確認をとっても口裏は合わせてくれるだろう……まあトゥリがオディルへ尋ねるなんて、あり得ないけど。


「ただ、ここへ来るまでに噂を聞いたのだけれど……何やら、不穏なことになっているみたいで」

「その情報を求めに来たのですか?」

「それもあるし、場合によってはあなたの権限で竜の都に入れるようにできないかなって」


 トゥリは沈黙した。オディルからの依頼、ということでこちらが引き下がることはないと彼も理解はできているはず。

 ただ、自分達にリリーの要求を叶えられるのかどうか……ふむ、この様子だと竜族の不穏な行動をとる理由を知っているのか?


「……そうですね、まず事情から説明しましょう」


 ゆっくりと、トゥリは話し始める。


「およそ一ヶ月ほど前でしょうか。突然竜族側から通達があり、当面交易の規模を縮小する、と言ってきました。理由などの説明もなくそれでしたので、こちらも問い合わせたのですが返答もなく。ただ私の印象としては向こう側もずいぶん慌てていた様子でした」

「何かしら理由があって、急遽取引を縮小したと?」

「どうやらそのようです。ただ理由については頑なに話そうとしませんでした」


 語った後、トゥリは一度険しい表情を見せ、


「しかし、こちらとしても竜族との折衝を行う役目を担っています。何かしら理由がなければ行商人が納得しませんし、帝国への説明も行わなければなりません。よって少し強引ですが、どういう理由で交易を縮小したのか調べました」


 もしバレたら大変なことになっていたかもしれないが……領主にとっても苦渋の決断だったのだろう。


「その結果、わかったことなのですが……どうやら、竜族の上層部で対立しているようなのです」

「政治的な意味で、ってこと?」

「はい、そうですね。有り体言うと」


 トゥリは俺達を一瞥した後、


「現在の『山の王』が近々退位することになる。その後継者と目される者達が、覇権争いをしている……その影響により人間に危害が及ぶ。よって人を寄せ付けないようにした……そういう筋書きが見えてきたのです」


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