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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第三章
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不穏な話

 領主の屋敷へ到達する数日前に、俺達は町に入り情報収集を行う。ギルドに竜族に関連する情報などは存在していなかったのだが、商人達は交易をしている。中には竜の都へ赴いて商売をする者だっている。そうした人物をつかまえて、事情を聞くことに……何かしら手元に情報が欲しかったためだが、


「ああ、竜の都についてなあ」


 そうした中、俺は一人の商人に話を聞くことができた。竜の都――名をファラパシオンというのだが、最近そこを訪れて、色々と商売をしたらしい。


「数ヶ月前と、なんだか様子がおかしかったのは確かだな。つーか、雰囲気が……ギスギスしていた」

「ギスギス?」


 聞き返すと商人はグラスをあおりながら続ける。


「ああ、そうだ。俺は商売をしているし竜族の世情とかはまあ知っている方なんだが、なんだか口をつぐんでいる様子だった。戒厳令、っていうわけではなさそうだったけどなあ」

「ギスギスしている原因はわからない、と」

「ああ、俺には皆目見当がつかないな。ただ、そうだな。例えば人間に対し悪い感情を抱くようになった、とかじゃない。というより、口をつぐんでいるのは変に勘ぐられるのを避けるため、かな」

「深追いするなってことかな?」

「ああ、そんな雰囲気だ。ただなあ、それは変に深追いして情報を漁ったら怪我をするぞ、っていう感じじゃなくて、情報に触れてしまったらお前も巻きこまれてしまうから、何も知らないうちにさっさと帰れっていう、配慮に近いものだったな」

「つまり、あなた方が怪我をしないように……?」

「そんな感じだ。俺の見立てだが」


 ふむ、厄介事があるのは間違いなさそう。その後、俺は別の酒場に赴いて話を聞いて回っていたリリーとクレアの二人と合流。場所を飯屋に変えて話をする。


「――俺が得た情報はこんなところだけど、リリー達は?」

「概ね同じだね。竜の都全体が、なんだか不穏な空気に包まれているみたい」


 そもそも竜の都がどんな雰囲気なのか俺達は想像することしかできないのだが、通っている商人達が言っている以上はあまり良い状況ではなさそうだ。

 問題はこれが『闇の王』に関連することなのかどうか……と、ここでクレアが小さく手を上げた。


「おそらくそれに関連してのことだけど、数日前に交易に向かおうとしていた商人と顔を合わせたわ」

「交易に向かったのにこの町にいるのか?」

「ええ。レイトとリリーが話したい内容は、少し前の話でしょう? でもどうやら、今はそれだけではなくなっているの」


 それは一体――沈黙していると、クレアはさらに続けた。


「結論を言うと、どうやら竜の都へ向かうための山道で、商人達の馬車を竜族が止めている」

「……止めている?」

「交易のために山を登っていた商人の一団が突然途中で止められ、引き返せと言われたらしいのよ。おまけに近づいてきたら攻撃すると言い出し、変化までして威嚇行動。さすがに商人達も引き返したそうよ」


 状況は悪化の一途を辿っているか……。


「その原因はわからないんだよな?」

「そうね。ただ商人達が言うには、通せんぼしていた兵士は『山の王』が率いる兵士だったそうよ」


 つまりゴルエンが派遣した兵士、ということか?


「で、ここまでの情報を得てレイト、感想は?」

「可能性としては……ゴルエンが何かやろうとしていて、それに人間が邪魔であり、追い返しているという可能性かな」

「その何か、というのは『闇の王』関連?」


 リリーの疑問。俺は頷き、


「ゴルエン自身が闇を取り込もうとしているのか、それとも戦うための準備をしているのか不明だが……人間がそこへ出しゃばってもロクなことにならないし、むしろ犠牲者など出してみたら相当な痛手だ。最悪イファルダ帝国から干渉してくる可能性もある……とか考えたら、だったら人間をまず追い返してしまえと考えるのは自明の理だろ?」

「そうだね……」

「ただ決してネガティブな……ゴルエン自身が闇を得ようとしている、という可能性は低いと思う。もしそうであれば人間を追い返す必要もないんだ」

「ああ、そうだね。人間がいようともいなかろうとも、関係なく闇に飲み込んでしまえばいいだけだし」

「そういうこと。となるとゴルエンは『闇の王』について既に察知していることになるが」

「ま、その辺りについてはもっとゴルエンから直接訊けばいいんじゃない? もし騒動があるのなら、それに私達は関わることになるだろうし」

「そうだな……ただ、こうなるとアゼルの父親を経由して行動する以外に道はないな。例えば領主から手紙を預かった……とかじゃないと、兵士は通してくれないだろ?」

「そうだね。逆に言えばアゼルを仲間にしてしまえば、なんとかなりそうな雰囲気ではあるけれど」


 うん、まずはそこからだな。


「あるいはアゼル達が情報を握っているかもしれない……どういう形であるにしろ、俺達だけで行っても門前払いを食らうだけなのは確実だな」


 方針が変わることはないが、きな臭い雰囲気が漂っていることは確実らしい。しかも相手は竜族だし、気合いを入れないと。


「よし、明日にはアゼルを仲間にして、出発したいところだな」

「そうだね」


 リリーも同意またクレアも続くように小さく頷いた。






 ――情報を手にしてから歩を進め、俺達はとうとうアゼルが住む地に辿り着いた。綺麗な湖畔……それが太陽光を受けてキラキラと輝いている。湖自体は楕円のような形をしており、さらに湖を突き進むと奥には竜の都がある山脈……リューデ山脈の麓が見えていた。


 竜の都にはここから少し離れた所に街道が整備されているのだが、アゼルの屋敷近くにある山道からその街道へ向かうことができる。そのルートで屋敷を訪れるのが正規ルートなのだが、俺達はなんとなく景色が見たかったので、森を抜けて屋敷の反対側に出るルートを通った。


 で、圧倒的な湖と山脈の姿を見て、クレアが一言。


「雄大ねえ」

「ああ、俺もそう思う」


 山の麓に大きい屋敷がある。色は白くずいぶんと目立つはずなのだが……大きいその姿がちっぽけに思えてしまうほど、雄大な自然が目の前にあった。


「心が洗われるようね……あ、そうか。だからアゼルはあんなに性格がいいのね」

「自然と共に生きてきたら、と言いたいのか?」

「これだけの景色を毎日見ることができたなら、心穏やかになれるってことよ……湖の反対側に屋敷があるから、もう少し掛かるわね」

「ああ、といっても湖をぐるりと回るのはそう時間は掛からない。向かうとしよう。アゼル達がいるといいけど」

「留守だったら出直しね」


 そこが一番の懸念かなあ。リリーがいるから屋敷には絶対通してもらえると思うのだが、竜族の騒動により留守とかだったら方法がない。むしろその可能性が高いかもしれない。

 その場合のことも一応考えてはいるのだが、あんまりやりたくないな。今はアゼル達が在宅であることを祈ろう。


 そういうわけで俺達は湖の畔を歩く。なんというか、この場にいるだけで心が潤っていくような気がする。それほどの場所だった。

 パワースポットとかになりそうだよな、などと思いながら俺達は少しの間歩き続け……やがて、屋敷の玄関に到着した。


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