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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第三章
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山の王について

 俺が竜族と言われてすぐに思い出せる人物は、最終決戦の際にも生き残っていた『山の王』だった。


「――何だ、今日くらいは一日休んでいるものかと思っていたが」


 そんな風に話し掛けてきた『山の王』。それは最終決戦前日の話。


「今日も訓練しているのか?」

「明日最終決戦でも、毎日同じことをやる……その方が、俺としては実力を出せる」

「最後だからといって、特別なことはしないと。なるほど、そういう考えもあるな」


 はっはっはっ、と笑う竜族の王。そこで俺は視線を相手へと転じた。


 一言で表すと、豪放という言葉が似合う王様だった。黒い髪を持っていることに加え、その彫りの深い顔は五十を越えた年齢も合わさって、とんでもない威厳と迫力を持たせていた。

 髪は元々長かったらしいのだが、戦いを経て短くなっている。長い時の姿を見ていないのでなんとも言えないのだが、たぶん似合うようにヘアスタイルは整えていたんだろうな。


 またその性格は『山の王』と言われるようなものからは想像もできないほどに、気さくなもの。


「ちなみにだが、私は酒を飲んでいるぞ」

「それでちゃんと全力を出せるんだろうな?」


 呆れたように俺は言う。そして、


「そもそも昼間っから酒を飲むのは日常茶飯事じゃないか」

「正解だ。つまり私にとって毎日同じことをやっている、というわけだ」


 なぜか胸を張り笑う『山の王』。その名はゴルエン=ベッダール。竜族を率いる王にして、竜というカテゴリにおいて間違いなく最強だと断言できる御仁だった。

 俺は『闇の王』と戦った際、彼が固有能力である変化を使い眷属や魔物を焼き殺したことを知っている。とはいえ本体に飲み込まれれば終わりであるため、竜族の最たる特徴であるパワーを生かしにくかった……その辺りが負けた理由とゴルエンは分析していた。


 もし単純に力でゴリ押すような存在であれば、彼の実力も如何様にも発揮されていたことだろう。けど、相性的に……いや、根本的に竜族の王であっても対抗できないほどに肥大した存在、と言えるかもしれない。


「ところで、レイト殿」


 剣を振る訓練を再開した時、ゴルエンは俺へ呼び掛けた。


「明日の作戦……どう見る?」

「どうって……こちらとしては追い込まれているのは確かだな。実際、今まで『闇の王』を追い返したことはあれど、核まで到達できたことはなかったんだし。その中で戦力を結集して特攻する……分の悪い賭けだけど、勝てる唯一の方法ではあると思う」

「うむ、私も同じ意見だ……世界の存亡を賭ける戦いにしては、ずいぶんと無謀な戦ではあるのだが」

「今更怖じ気づいたわけじゃないだろ? どうして急にそんな話を振るんだ?」


 問い掛けると、ゴルエンはニカッと笑った。加え、ちょっとだけ酒臭い。これはワインか何かかな?


「いや、覚悟を確認しようと思ってなあ。そちらこそ、怖じ気づいていないかと不安になったのだ」

「俺は既に覚悟を決めている。リリーやこの国を救うために全力を尽くす……それだけだ」

「そうか。いや、急に話を振って悪かったな」

「……様子が変、とまではいかないが、何か思うところがあったのか?」


 俺の疑問にゴルエンは笑みを消した。じっとこちらを見据え、何か考える素振りを見せる。


「どうした?」

「いやなに、改めて思ったのだよ。こんな世界へ連れて来られて、魔法使いとして戦い続ける……レイト殿はそれで良しとしているようだが、私達としては申し訳なく思ってなあ」


 ――今思えば、この時点でリリーは最終決戦に挑む者達へ俺を元の世界へ帰すということを通達していたのだろう。だからこそ、ゴルエンは俺に話を向けてきたのだ。

 そんな彼に対し俺は当然わかっていない。よって、


「今更だよ。理不尽な形でこの世界へやって来たのは事実だけど、俺はもうこの世界の住人だという自覚はある。元の世界に……未練はないさ」

「そうか」


 その時、ゴルエンはどう思っていたのか。けれどその時の俺は何も気付いていなかったので問い掛けることはしなかった。

 確か、俺達を核へ向かわせるために闇を払い続ける役目を担っていたはず。彼は変化せずとも魔装として所持している大剣でとんでもない威力を発揮する。魔力を伴わない斬撃……その風圧だけで魔物が吹き飛ぶのだ。恐ろしい怪力を持っており、それにより単なる斬撃が必殺の威力となる。


 当然それだけの力があるのなら、闇を打ち払うことも容易……いざとなれば変化もあるため、俺やリリーが核を叩くまでの時間稼ぎをきっちりとこなしていたはずだ。


 ――そんな風に、俺は一連の出来事を思い出す。そして現在、どうやら彼が統治する竜の都に、『闇の王』が迫っている。


 元々、竜族はあまり多種族と関わっていなかった。イファルダ帝国とは交流もあったし、交易などもしていたのだが、ゴルエンの方針で深く人間に関わろうとしなかった。これは最初、竜族が人間文化に侵食されれば種族全体が散り散りになるのでは……人間の繁栄が広がっていくにつれそのように考えたらしく、だからこそ距離を置いていたらしい。もっとも俺達と手を組むようになってからはその辺りも認識を改めたらしく、戦いが終われば人間達の手を借り竜の都を復興させようと考えていたようだ。


 ということは、現在は考えも元に戻っているので、あまり人間と関わらないようにしている……エルフなどはもちろんなので、オディルも衝突を避けるために竜の都へ運ばれたらしい『闇の王』に関連する資材の追跡はできなかった。


 ともあれ、俺やリリーとしては顔見知りの存在であることは間違いなく、だからこそ記憶さえ戻せば協力を約束してくれるはず。なおかつ『前回』戦った経緯から価値観なども変わっているし、『森の王』オディルとも手を組んでくれるはず。そういう形になれば支援はまさに盤石。今後、強くなるために色々と情報なども提供してもらえそうだし、是非ともその形にもっていきたい。


 そんな考えを抱く間に、俺とリリー、そして新たに仲間に加わったクレアは、当初の目的地であったアゼルがいる領地へと辿り着いた。

 とはいえここから彼がいる屋敷まではもう少しかかる。領主の館は竜の都が存在する山の麓近くに存在する。湖が広がる場所に建てられたもので、美しい光景が広がっていたのを俺は思い出す。


「あの景色、以前見たままだろうな」


 そんなことを歩きながら呟くと、リリーは「当然」と応じ、


「あの場所は、私が生まれた時から変わっていないそうだし」

「そうなのか……クレアは行ったことあったっけ?」

「実はないのよね。綺麗な場所だというのは噂に聞いていたのだけれど」

「景観目当てで訪れる観光客がいるくらいだから、期待してて良いよ」

「あら、そうなの。じゃあ楽しみにしているわ」

「それでリリー、手順を再確認しておくか?」


 なんとなくアゼルを仲間に加えるプロセスについて言及すると、


「大丈夫大丈夫。既に頭の中に入ってるから」

「俺やクレアはリリーの言葉に介入したら何だこいつと思われるからな……今後も旅を続けるには、帝国側にリリーがいるという情報が伝わらないようにする必要だってあるし――」

「わかってる。そこは抜かりがないから心配しないで」


 自信満々に語る。リリー。絶対成功する、と断言しそうな勢いである。

 ま、この辺りは彼女に任せるしかないので、成功することを祈ろう……そんな風に結論づけながら、俺達はアゼルが暮らす屋敷を目指し、街道を歩み続けた。


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