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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第二章
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新たな敵

 オディルと会話を行った後、俺達は屋敷を後にして下山。そこから彼の合図を待つまで町に滞在。数日後に「資料を回収できた」との一報を受け、リリーはギルドを通して今回のことを報告した。

 最終的に「ギルドの依頼によりルーガ山脈を調査中、魔術師に襲われこれを倒した」ということになった。もちろん俺やリリーのことは伏せる形になっており、その魔術師がなぜ危険な場所にいたのかや、なぜ襲い掛かってきたのかは不明ということになった。


 一応ギルド側も屋敷について調査をしたのだが……無残に破壊されており、成果は何一つ出なかった、と報告書には記載されている。俺が魔術師と対決した際には屋敷自体は原形を留めていたし、破壊は一部分だけだったのだが、ギルドの調査が入った時点ではかなり損壊していたようだ。エルフが資料を押収しにいった際に、破壊したのだろう。ギルド側が情報を得ることなく、迷宮入りした事件になるように。


 俺達のことが露見しないことに加え、魔術師の動機が不明である、とくれば仮面の女としても俺やリリーの存在を勘ぐることはしないだろう。イルバドは事故死、そして魔術師は『闇の王』を得た事による暴走……そんな解釈になるはず。


 まあ立て続けに情報提供者が消え去っているという点について怪しむ可能性はあるのだが……オディルは「仮面の女が怪しんで動き出したのなら、こちらが察知できるかもしれない」として、情報集めに奔走している。現段階で仮面の女がどういう目的で『闇の王』について情報を渡しているのか不明だが、二人『闇の王』を宿す者が滅べば、自分で何かしら動くかもしれない。であればオディルが調べている物流ルートで尻尾をつかめるかもしれない……つまりどちらに転んでも問題ないという形にしたのだ。


 仮面の女が大きく動けばこちらも察知できる……場合によっては決着だってつくかもしれない。


「と、楽観的な分析をしてみたけど、かなり甘いだろうな」


 俺はそうリリーとクレアに告げる。


 場所は街道。ギルドによるルーガ山脈に関する報告書を確認し、問題ないと判断して俺達は旅を再開した。魔術師を倒してから、およそ七日後のことだ。ギルドが予想以上に早く動き、なおかつ調査報告書もまとめてくれた……ギルドとしても、あの山脈については警戒しているってことだろう。

 肝心の俺達の報酬については、魔術師という怪しい存在を倒した事実などにより、結構な額が支払われた。調査とは大きく違うけど、ギルドとしても一定の成果を残したと認めた形だ。これは結構嬉しかった。


 で、俺達は改めてアゼルを仲間に加えるべく、街道を歩んでいるわけだが――


「リリー、オディルさんが言っていたこと、どう思う?」

「少なくとも『前回』、あの場所で騒動は起きていなかった……と思う。私達がそれを知らなかっただけかもしれないけど……いや、さすがに皇帝になった私には言うかな? ともかく、もし起きていなかったら……『前回』と明確な違いだね」

「そうだな」


 心の底から同意する。そこで、オディルの語っていた内容を俺は思い返した――






『物流の流れを追っていた時、私達は『闇の王』にまつわる資材を購入した者達を発見することができました』


 オディルのその言葉は、今まさに『闇の王』を顕現しようとしている者達がいる、という事実を明瞭に語っていた。


『儀式をする前に取り押さえることができるなら、レイト殿による助けは必要ないですし、そのつもりで行き先を観察していたのですが……その行き先が最大の問題でした』

「それほど、厄介な所だと?」


 エルフの王がそのように語る場所。それは一体――


『……竜の、都です』


 さすがにそのセリフは予想していなかった。つまり、


「竜族の誰かが、『闇の王』に手を出したと?」

『そういうことになりますね』


 深刻な話だと即座に思った。


 人間が力を手にするだけで途轍もない力を得るのだ。それがもし竜族であったのなら――

 エルフもそうだが、この世界の竜族は基本人間のような姿をとっている。しかし、彼らは切り札として『変化』の能力を持っている。つまり竜化だ。ただし中には竜とは異なるものに変化できる存在もいる。


 『変化』の能力を持つ者を総称して竜族という名がつけられた。その呼称を使用し始めたのは竜族発祥……あるいは始祖と呼べる存在によるもの。恐ろしく巨大な竜へ変化できる能力者だったらしい。

 そして現在、山脈の東の果てに竜の都と呼ばれ、竜族が暮らす場所が存在する。竜族は人間と比べて総数が少ない。この大陸には複数竜が棲まう町が存在しているが、その中でとりわけ巨大で都と呼んで差し支えない場所……そして同時に『山の王』と呼ばれる存在が統治するその場所が、竜族の本拠となっている。


『現在、荷物の足取りはつかむことができなくなりました。エルフの私達が立ち入れる場所ではないためです』


 そうオディルは俺達へ続けた。


『人間であれば、入り込むことはできるでしょう。ただし私と会った時と同様、帝国の威光は使えません。よって竜族の王に協力を得るのは、難しいかもしれませんが』

「そこについては心配ないわ」


 リリーはそう主張する。理由は明白で、きちんと当てがあるためだ。

 というのもこれから会いに行くアゼルの父――つまり領主が統治するのは『山の王』がいる都の麓に位置し、なおかつ竜族との交渉役も兼ねている。つまりアゼルを仲間にすると共に領主に事情を話すことができれば、『山の王』と話し合える可能性が出てくるわけだ。


『なるほど、それならば……しかし物資の足取りはつかめていません。竜族の王と話ができれば手を貸してくれるとは思いますが』

「最悪のパターンに陥るまでに、捜索する必要がありますね」


 俺の言葉にオディルは頷く。


『……幸い、闇の王が顕現するために必要な物資はまだ足りていません。竜の都で調達できる物ではありませんし、手に入れるまでにいくつか障害も存在します。重要な物を得るためには、まだまだ日数が必要でしょう。よって、すぐに顕現とはいきませんが……』

「できる限り早く動く必要はありますね。物資の流れについて、逐一報告をお願いします」

『ええ、レイト殿達も気をつけて――』






「大陸を横断するような形で移動か。かなり大変だな」


 俺は言いながらも決して苦痛ではなかった。それはリリーも同じらしく、


「そうだねー。でも帝国崩壊を防ぐための旅……なんというか、世界を救っているわけだし、悪くはないかな。クレアはどう?」

「いいんじゃない? ただこれから向かう場所に対し、色々と不安材料もあるけど」


 相手が竜族だからな。基礎スペックが人間を上回っているわけで、もし敵になったら面倒なことになる。

 闇の眷属を倒したリリーやクレア、さらに魔法使いの俺からすればどうなのか……って感じなのだが、竜族は相当強いというイメージが俺の中にもあるので、なんだか肩に力が入るのだ。


「……そういえば『山の王』と会うんだよな。記憶を取り戻す方法を考えておかないと」


 『山の王』は最終決戦に加わっていた。一度竜族で『闇の王』に挑んだが、結局負けてイファルダ帝国に身を寄せていたのだ。

 彼から最終決戦について問い質すのも良いかもしれない……色々とこれからの展望が見え始めたが、まずは、


「アゼルを仲間に加える。そこからだ」

「そうだね」

「リリー、下手すると領主は帝国にリリーのことを報告するぞ。だから今のうちにどう説得するか考えておけよ」

「わかってるよ」


 そんな会話を行いながら旅を続ける。絶対に『闇の王』を顕現させないために――


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