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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第二章
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王への報告

 結論から言うと、それらしい物を見つけることができた。その検証をできればしよう……と思っていたのだが、予想とは違う展開となった。


「一応確認しておくけど、リリー。これ、わかるか?」

「わかるわけないじゃん」

「クレアは?」

「わかってたらそれで食べてるわよ」

「それもそうだ……ちなみに俺もまったくわからない」


 資料らしき物は確かにあった。ただし、最大の問題はそれが文字などではなく、完全な数式であったことだ。


「理論考察とか、そういうメモ書きとか見つかれば何を研究していたのかは推察できるかもしれないけど……よりにもよって数式ばっかり」


 しかも、見つけた部屋にあった資料は大体そんな物ばかりである。正直数式の羅列を見ているだけで頭が痛くなりそうだった。


「うーん、見つけたにしろこれが魔術師の語っていた偉業なのかどうかもわからないな。あるいはここにある資料は魔物作成に関することかもしれないし、『闇の王』に関連することかもしれない」

「一切わからないと……どうしよう? 資料を持ち帰る?」

「ここにある資料だけでも、持ち出すのに無茶苦茶大変だぞ……」


 本棚が一つどころか二つや三つ埋まっているくらいの量だ。この中に俺達が欲する情報が眠っている可能性もあるが、正直やるにしても時間が掛かりすぎるだろうな。

 別の棚の紙を手にとってみるが、やっぱり数式である。これがもし偉業に関することであれば、よほど熱心に研究していたと考えられるのだが……わかるのはそれだけだ。


「一部分だけをどこかに持ち込んでも、たぶん意味を成さないだろうな。かといって資料を丸ごと持ち去るのは非現実的。となると」

「となると?」

「……『森の王』と連絡をとってみるか」


 リリーの聞き返しに俺はそう発言。


「ちょっと待っていてくれ。外に出て連絡をとる」

「あ、私もついていく。クレアは?」

「ここに残っていても仕方がないからもちろんついていくわよ」


 三人揃って外へ。ここで連絡手段を構築していたことが生きる。


 俺は地面にいくらか魔法陣を描く。といっても簡素なものであり、一分もあれが描ききれる程度のもの。

 これは元の世界で言う電話番号のようなもの。魔法陣にはオディルがいる神殿へ魔力を飛ばすように指示を出している。つまり電波を飛ばすような行為であり、これでオディルと接続し、会話をするというわけだ。


 ただこれ、基本的に魔法が使えないと効果を発揮しない。魔装を用いる場合はこの術式に対応した道具が必要となるため、専用の装備がいる。実質魔法が使えるエルフなどの種族や、俺限定の通信方法というわけだ。

 少しばかり間が生じる。電話で言うところをコール音的なやつだな。少しして、


『――レイト殿ですか?』


 オディルの声。成功だ。


「はい、そうです。お久しぶり……というわけでもないですね」

『こうして魔法を使ったということは、何かあったということですか……少々お待ちください』

「あ、何かありましたか? 時間をおきますか?」

『いえ、そういうわけではないですよ。お茶を片付けようと思いまして』


 カチャカチャと食器の音が聞こえてくる。ティータイムだったらしい。


『お待たせ致しました……それで、何が起きましたか?』

「はい、実は『闇の王』の関連で――」


 そこからクレアを仲間にしたことに加え、魔術師についてのことを語り始める。オディルはそれに耳を傾け、一連の説明を終えた後に、喋り始めた。


『眷属を倒したと……ふむ、私達にとっては状況を有利に進めることができたのは間違いないですが、仮面の女……でしたか。彼女にレイト殿が動いていることを知られる可能性も出てきましたね』


 イルバドについては事故で済ませることはできたけど、さすがに今回はどうか。


『二度も立て続けに事故で処理、というのは仮面の女も怪しむかもしれません』

「ギルドを通じて公式発表をする際、上手に対処することで対処するしかないかな」


 と、リリーが俺の横に立ってオディルへ語った。


「ギルドの調査により怪しい魔術師を発見。これを討伐した。そこで上手く処理できれば、悟られないようにすることができる」

『最優先はレイト殿達のことを悟られることですが……ギルドに任せるのが無難でしょうか』


 まあ二つも仮面の女と関わる存在を倒したのだ。大なり小なりリスクがあるのは事実だし、落としどころとしてはその辺りが現状で最適か。


『そして、眷属については良いとして……魔術師が語る偉業ですか』

「それらしい資料を見つけたのですが、こちらでは解析できない……」

『うーん、私達で読み解ける内容なのかは資料を見なければわかりませんからね。ただ、調べてみる価値はありそうですね』


 やってくれるみたいだ。うん、これは大きいぞ。


「お願いします」

『わかりました。リリー皇女、これからギルドへ報告へ向かいますよね?』

「そうだね。ただギルドには私達が倒したことについては伏せるように言うけど」

『無論ですね。そうなればギルド側もその屋敷を調べることになるでしょう。それよりも先に、私が部隊を送って資料を回収します。それができたら、ギルドへ報告してください』


 資料が押収されるのを先に防ぐ、か。まあギルド側も資料を抱えることで仮面の女に狙われるリスクがあるからな。


 仮面の女がギルドに所属する人間であったなら、資料があると聞けば干渉してくる可能性はある。そこで尻尾を捕まえるという方法もなくはないけど、さすがに本人が出てくるとは思えないし、被害を出す危険性が極めて高い。よって、魔術師は何かやっていたけど詳細は資料もなかったので不明、ということにしておけば大丈夫かな? リスクがないとは言えないけど、こればっかりは祈るしかない。


『では、早速動くことにしましょう。現在レイト殿の魔法の場所を確認しています。それで詳細な位置がわかるので、そこへ部隊を派遣します』

「わかりました……あの、先ほどそちらが語りたいと言ったことは?」

『ああ、そうですね……と、それを語る前にこの一件についてもう一つ。仮面の女、と聞いて何か心当たりはあるのですか?』


 ……うーん、それはなあ。


「リリー、どう思う?」

「女性、ってことが確定だとしたら、少なくともゼルーファとかではないね」

「当たり前だろ……えっと、正直こちらではまだわからないですね。『前回』の記憶を探っても、結局『闇の王』本体がどのような人物であったのかは判明しなかったので」


 仮面の女の成れの果てが『闇の王』だとしたら、今は情報を提供して何かをしているということなわけだが……。


『そうですか。仮面の女……物流ルートなどを探っていますが、女性を中心に調べてみることにしましょうか』

「もう少し魔術師から情報を得られれば良かったのですが」

『いえ、成果としては十分でしょう。ともかく進展はしているのです。まずはそれで良しとしましょう』


 オディルは優しく語る。その表情はきっと、笑みを浮かべていることだろう。


『あなた方は今後、当初の予定通り東へ?』

「はい。今回クレアを仲間にするという名目でルーガ山脈に入りましたが、以降の予定は変わりません。アゼルの所へ向かいます」

『そうですか……ということは、これから述べる内容について、あなた方が関われる可能性もありますが』

「どうしたんですか?」


 聞き返すとオディルは一瞬だけ間を置いて、


『現段階ではまだ何も起きていません。しかし、変調が……もしかすると、騒動に発展する事態に陥るかもしれません。その場所が、あなた方が向かっている帝国の東で起ころうとしているのです――』


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