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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第二章
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異形の末路

 闇の力は完全に暴走し、もはや魔術師であったという原型はどこにもない。最後のセリフからすれば自ら望んだ結末なのかもしれないが、こっちとしてはいい迷惑である。


 俺はもう一度闇を見据える。最終決戦の際にリリーが突撃した核と同じ物があるのを再度確認。世界を覆うほどの闇と比べれば相当小さいものではあるのだが……『前回』世界を蹂躙した『闇の王』の小型バージョンか。放置すればどれほどの被害をもたらすのか。

 もしかすると自ら望んで闇に取り込まれることによって、こうした存在になれるのかもしれない……推測する間に準備が整う。結界越しに執拗に狙う闇の渦は、次第に勢いを増してくる。


 部屋の中も影響が出始める。本など床に散乱した資料らしき物は闇に触れると消滅していく。さらに部屋の中にあった本棚なども、飲み込まれ始める。

 巨大な闇の塊と比べれば、まだ破壊能力は少ないと考えていい。もしこれが『前回』の闇であったなら、この部屋を丸ごと飲み込むのは一瞬だ。仮に大きさが同じでも、殺傷能力がおそらく違いすぎる……たぶん『前回』の闇は濃度も桁違いだったのだろう。


「さすがにあれを再現することはできない……ということは、こいつもハズレかな」


 やっぱり主犯者は仮面の女――杖の先端を核が見えた場所へ向ける。既に結界は俺の全面だけでなく、囲うようにして覆っている。闇は前方だけでなく横などからも狙ってきているが、俺の結界はきちんと機能し防御できている。

 相手の攻撃は問題ない。なら俺の一撃が通用するかどうか……!


 杖の最先端に俺の魔力が凝縮されていく。眷属やクレアに対し使ったのと同じ手法で、結界を行使しながら杖の先端による魔力で核を破壊する――ただ、核はそれほど大きくない。渾身の突きを外せば、逆に手痛い反撃を食らう。

 闇に飲み込まれる心配は、攻撃能力を考慮してもおそらくない。しかしもし一撃で仕留めきれなければ取り逃す可能性がある。そうなったらリリーやクレア達に影響が出るかもしれないし、最悪このルーガ山脈を脱し破壊の限りを尽くすかもしれない。


 だから、絶対に外せない……本来なら緊張してしまう場面だが、俺の頭はずいぶんと冷静だった。ゼルーファの技法が語りかけてくれている。問題はない、と。

 彼の性格は義理堅く、また常に自信を持つような勇敢なもの。それが乗り移ったのかわからないが、絶対に成功する、という奇妙な自信が俺の体を取り巻いていた。


 一度意識して呼吸をする。次いで――核が闇の奥から覗き見えた瞬間、俺は全力で杖を、放った。

 回転を加えた刺突が、闇の中へ吸い込まれる。杖の先端により発した光が闇を取り払い、迫る闇を吹き飛ばし、その奥にある核を――しっかりと、捉えた。


 パアン、と乾いた音が響く。杖の先端に核が見事ヒットし、砕くことに――成功した。

 刹那、闇が突如制御を失う。オオオオ、という人の悲鳴にも似た音が聞こえたかと思うと、闇が次第に形をなくし、霧散し始めた。


 核は闇を離れ壁に当たり、砕けて散った。それと共に闇は渦を巻いて球体の形を維持することができないまま……風に溶けて消えるように、なくなった。


「……終わり、だな」


 深呼吸をして、結界を解除する。魔術師の気配はもうない。それどころか室内にあった瘴気も消滅している。

 あの人間自体が瘴気の発生源だったらしい……そして部屋の中は当然ボロボロであった。闇が渦を巻いていた以上は仕方ないのだが、散乱していた本や資料も、家具さえも綺麗さっぱりなくなった。


「ま、仕方がないか……ともあれ貴重な情報は得られた」


 仮面の女。その正体がなんであれ、色々推察はできた。

 魔術師は仮面の女が警戒されないように素顔まで晒した。魔装を使っていた様子もなかった、ということに加え、もし人間ではなくエルフや竜であったなら、その特徴をしかと魔術師は伝えたことだろう。というかエルフや魔術師なら警戒していた可能性もあるし、その情報をあの場面で口にしないのはおかしい。


 人間である可能性が結構高まったと考えていいだろうな。しかし、人間か……。


「何が目的で『闇の王』について広めているのかは知らないが……はた迷惑な話だ」


 ともあれ、少しずつ正体に近づいているのは間違いない。『森の王』オディルにこの情報を伝えれば、何か調べてくれるかもしれない。

 山を下りたら真っ先に報告だな……そんな風に結論づけながら、俺は屋敷を出る。そこで、


「レイト!」


 リリーが近寄ってきた。その後方にはクレアもいる。


「魔術師は?」

「倒したよ。ひとまずは……」

「そっか。ならここでの戦いは終わり?」

「一応、周囲に眷属クラスの魔物がいないか確かめてから離れることにしようか」

「でも、ずいぶんと気になることを言っていたわね」


 クレアが屋敷を見上げながら呟く。


「様子がずいぶんとおかしかったし……あと、偉業って何かしら?」

「さあな。なんだか『闇の王』と関係ありそうにも思えるけど、それを確かめるのは難しいだろ?」

「資料とかを探せばなんとかなるんじゃない?」


 リリーからの提言。あー、この流れは、


「調べる気か?」

「何かしら手がかりの可能性があるんだったら、少し突っ込んで調べてみても損はないでしょ?」

「それはそうかもしれないが……ま、そうだな」


 幸い、魔術師がいた部屋以外は無事だし、手がかりとなりそうな物は残っていそうな雰囲気だ。


「なら今から調べることになるが……屋敷はそれほど広いわけじゃないが、隠し部屋があるかを含めて調査だ。時間は掛かるぞ」

「わかってるよ。魔物についてはどうしよう?」

「俺が調べながら索敵もやるさ……って、やることがずいぶんと多いな」

「レイト、頑張れ」

「俺が一番働いたと思うし、少しくらい休んでもいいと思うけどなあ……」


 まあ俺がやるしかないからやるけど。


「ところでリリー、クレア。怪我はないか?」

「私はないよ」

「こちらもヘマはしていないわ」


 双方とも問題はないようだ。


「眷属を無傷で倒せたのは大きいな。『前回』のような形にはしたくはないし、絶対に阻止するけど……これで『闇の王』が戦力を大きく強化するというのは避けることができたかな?」

「かもしれないね」


 リリーが同意の言葉を発する。ひとまずクレアを仲間にするために行動を起こしたわけだが、結果的に『闇の王』側の目論見の一つを潰した格好となった。イルバドの一件と合わせてどの程度影響が出るのかわからないが……敵の戦力を減らしたのは間違いないので、今後の戦いが楽になったと考えよう。

 ただ、この出来事は俺達に嫌なことを連想させる。


「これ、確実に情報提供者はイルバドやこの魔術師以外にも情報を渡しているよな……」

「そこは間違いなさそうだね」

「『森の王』であるオディルの協力を得ているから、敵の居所を探れるかもしれないけど……こういう相手が複数いたら、かなり面倒だな」


 早急に戦力を整えるべきだろうか? とはいえ現状だと新たな仲間――アゼルを加えるくらいしか候補がないけど。


「こちらは一つ一つやっていくしかないんじゃないかしら」


 と、クレアが発言する。確かに彼女の言う通りだが――

 ともあれ、今は『前回』よりも遙かに状況が良くなりつつある、と解釈して良い方向に進んでいると受け止めよう。ここで俺は思考を切り替え、資料探しに勤しむこととなった。


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