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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第二章

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魔術師からの情報

 どうやら魔術師は、外部から魔力を受けることで身体能力を向上させることができるらしい……のだが、俺としては予想の範疇だ。魔術師として戦士に対抗する必要だってあるだろうし、こういった技術を持っているのは至極当然と言える。


「ここへ誘い込んだのは理由がある」


 魔術師は語りながら両腕に闇をまとう。間違いない。それは『闇の王』の力だ。


「この場所なら、力を存分に使える」

「魔物に使っていた、闇の力か?」

「そうだ」


 返事と共に、腕が闇によって二回りは大きくなった。最後は肉弾戦――槍術を見せた以上、接近戦で対抗するのは悪手なのではと思ったのだが……それでも魔術師は力で押し切れると思ったのか。


「オオ……オオオオオオォォッ!」


 それは人間の声ではなかった。もしかすると『闇の王』の力を活用し、その体に魔物の魔力を取り込んでいるのかもしれない……だとすればもうとっくの昔に相手は人間を辞めているか。

 突撃してくる魔術師。巨大化した腕を伸ばし、俺の首筋を狙おうとした。


 だが、こちらは杖を用いて腕を弾く。そして杖の先端で魔術師の体を――突いた。


「グウッ!?」


 呻き声と共にその体が吹き飛び、壁に激突。室内が揺れ、傍らにあった机の上から資料などが床へとヒラヒラ舞い、本棚からいくつかの本が飛び出し、バサバサと音を立てながら床へと落ちた。

 魔術師は黙ったまま俺を睨む。こちらは容赦なく杖を突き出し、魔術師へ問い掛けた。


「どういう目的で、魔物を作成していた?」


 ――その時、背後から気配。それはひどく微弱なもので、少しずつ俺へと近寄ってきている。

 どうやらそれは魔術師が操っているらしい……たぶん背後から奇襲する小型の魔物。どうやらそれを操作して、俺の首を狙うつもりらしい。


 だがそれには、時間を稼がなければならない……とくれば、


『――私は、帝国が憎かった』


 話をして、時間稼ぎをするのが常套か。


『研究成果を侮蔑され、死にものぐるいで習得した技法をあざ笑った者達を……私は、許さない』

「努力するのは勝手だが」


 杖を揺らす。いつでも突き込めるという態度を示し、牽制する。


「お前の研究はそれこそ、秩序を乱すことだったんじゃないのか?」

『帝国の繁栄のためだ。その礎となる技術を、帝国の人間共は棒に振ったのだ』

「魔物を生成する技術が、帝国の礎?」

『そうだ』


 ……それは、果たして本心なのだろうか。イルバドの時もそうだったが、目の前の魔術師も確実に『闇の王』によって精神を侵食されている。最初はきっと、復讐のために研究をしていたのだろう。認めてもらうために……そういう動機だってあったかもしれない。

 しかし、全ては闇によって塗りつぶされた。残ったのはきっと憎悪だけ。その怒りにより、魔物を作り続け……結果がこれだ。


 目の前の魔術師が『前回』どのような顛末を迎えたのかは不明だ。この人物の語ったことが本当であれば、魔物を率いて帝国に攻め寄ってもおかしくなかった。でもその姿を確認することはなかったはずで、となれば彼に情報を提供した人物――仮面を被った存在が、魔術師を処理して魔物だけ利用したと考えるのが妥当だろう。


「この力、どうやって手に入れた?」


 問い掛ける。時間稼ぎが目的ならば、話してくれるか――


『……仮面の女からの情報だ』

「仮面の……女?」


 イルバドとは異なり、確信を伴った情報。性別がはっきりしているのか?


『そいつから、復讐を成し遂げるための手段として、この闇を味方に付けることを教わった』

「なぜ女だとわかる? 擬態をしていた可能性もあるだろ?」

『少なくとも私の前で魔装を使って姿を開けていたり、あるいは声を変えていたなどということはなかった。もしそうだったのなら、私は警戒してこの屋敷に招いてすらいない』


 警戒したため、情報提供者はイルバドのように擬態をしなかった……?


「そいつの顔は見たのか?」

『ああ』


 ――値千金の情報だ。できることならそれを得たい。


 魔法を使って記憶とか探ってみるか? できないことはないけど精神干渉系の魔法は俺がイメージした通りに働くとは限らない。相手の頭の中に思念を突っ込むのは、相手が持つ魔力が防衛機構として働き、阻害するためだ。

 とはいえ、どうにかして情報を得たい……背後からの魔物はもうすぐ来そうな雰囲気。ならまずはこちらの対処からか。


「そうか……できることなら今後の調査のために、そいつの人相くらいは教えて欲しいんだが」

『教えても構わないが、もう調べる必要はないぞ?』


 その瞬間、小型の魔物が跳んだ。そして俺の首筋へと迫る。


『――ここで死ぬのだから』

「残念だが、それはない」


 ヒュン、と左手を振った。それにより俺の背中に風の魔法が炸裂し、魔物を――粉砕した。

 対する魔術師はあっけにとられた様子。音も立てていなかったのに、なぜ気付いたのか、って感じかな?


「申し訳ないが、周囲を完全に警戒している。風の力を操っていただろ? それを利用して、俺は外敵を察知できるんだよ」


 適当な理由を述べた後、魔術師の首下に杖を突きつけた。


「さて、話の続きだ……その女の人相を教えてくれないか?」

『こ、断ると言ったらどうなる?』

「少しばかり痛い目をみてもらうしかないな」


 尋問するにしても手荒な真似はあんまりしたくないのだが……魔術師の顔が引きつる。とりあえずこれ以上痛い思いをするのは避けたい、といったところか。

 闇の力を得ても、痛むのは嫌か。まあ見た感じ研究専門って雰囲気だし、こんな風に戦うなんて経験はほとんどないだろう。痛覚を遮断するような術式や魔装を持っている様子はないし、勘弁して欲しいと。


 ただ、こちらも『闇の王』について情報はしっかりと得なければ……というわけで、


「お前、絵とかは描けるのか?」

『む、無理だな』

「そうか。なら口頭でいいから特徴くらいは言え。それで少なくとも痛い思いをすることはない」


 ――正直『闇の王』の力を得ている以上既に人間を辞めている。この調子だと遅かれ早かれ自滅するだろう。顛末としては二度と魔物を生成できないように魔法で拘束し、気絶させて役所に引き渡す……人間を捨てているなら相応の対処をしてくるはずだし、魔力噴出を封じればたぶん大丈夫。この辺りが落としどころか。

 現実問題、被害が出ているわけではないが魔物の作成者ということで良い結末を迎えることはできないだろうけど。自滅が先か刑の執行が先か……とりあえずこの場で痛い思いをするのは嫌で話しそうだし、正直に喋ってくれたらそういう流れで――


「……ちょっと待て」


 小さな呟きを発した。俺はここで、違和感を覚えた。


 仮面の女……情報提供者は、なぜ素顔を晒してまで目の前の魔術師に『闇の王』に関する情報を提供した? 自身のことが漏れる可能性を危惧するなら、そうした方策で味方を引き入れるのは、愚策と言ってもいいはずだ。


 イルバドについては隠していたのは、たぶん彼は交友関係が広いため顔を出して素顔がバレると正体が露見する可能性を危惧してか? なら、この魔術師の場合はどうだ?

 なぜ素顔をバラしてまで接触しようとしたのか。魔物の生成技術に興味を持ったからなのはわかるが、わざわざこんなルーガ山脈まで訪れて話を持ちかけた? 魔術師がここにいるとわかっていなければできない所業だ。


 考えられるとすれば、魔術師のことを失脚前から知っていた……これが一番理屈に合う答えだ。ただそうなると、帝国の関係者が黒幕である可能性が高い。

 他に思い当たる可能性は、あまり考えたくはないのだが――その想像をしようとした時、俺はリリーとクレアが屋敷に入ってくるのを気配で感じ取った。


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