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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第二章
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二つの刃

 リリー達が向かい合う眷属は、一頭の大きな熊。体毛は黒で、二本の足で立ちリリー達を見据えていた。


 俺の記憶にはない眷属ではあるが、リリー達が倒していた他の魔物達とは一線を画する力を持っていることは間違いなく、だからこそリリー達も応じるべく剣へ魔力を注いだ。

 問題としては、熊がどういった攻撃を放ってくるのか……リリー達が動こうとした矢先、熊もまた動き始めた。


 そして――その姿が、突如消えた。


 何事か、と思った矢先リリーとクレアは同時に左右へ散開していた。それと同時に二人が立っていた場所へ熊が走り抜ける。これはどうやら……身体能力が高いのか。

 熊はすぐさま反転し、彼女達へ再度狙いを定める。その間に周囲には他の魔物達も近寄っており……あまり良い戦況ではないな。


 リリー達が警戒する中で、熊が今度はリリーを狙って行動を起こす。今度は捉えることができた――恐ろしい速度で、憤怒のような形相でリリーを食らおうと全力疾走する。巨体とは思えぬ速度に加え、ゼロから恐ろしい勢いでトップスピードを出す。それはまさに異形であるが故のものだろう。

 だがリリーは即座に横へ移動し避けた。そして彼女の背後には魔物が迫っていたのだが――熊はそれらを全て等しくなぎ倒す。


 魔物を巻き込み、なおかつ森の入口で止まることもできず、木々にその体が直撃した。ズドン、とまるで大砲でも撃ったかのような重い音が周囲に響く。続いてバキバキと木々が折れる音が聞こえ始めた。

 熊の体当たりにより、眷属が立っていた周辺の木々がへし折れ、なおかつ衝撃の余波が奥まで届いたのか、ドミノ倒しのように樹木が倒れていく。恐ろしい威力であり、また余波そのものにも殺傷能力があるのがわかる。


 結界越しでもまともに食らったら結構なダメージがありそうだが……リリー達は臆することなく眷属へ挑んでいく。

 眷属もまた迫るリリー達へ応じようとする……が、今度はクレアの攻撃が早かった。剣が空を切った矢先、巨体の体に斬撃が駆け抜けた。


 突撃しようとしていた熊の機先を制し、のけぞりさえした。そこでリリーが追撃を加えようとしたが――それよりも先にクレアが前に出る。


「ちょっと、クレア――」

「リリーはあっちの方を!」


 その言葉でリリーは視点を変える。川岸を挟んだ場所に、二体目の熊がいた。


 眷属クラスではあるが、もう一体――もしかして雄と雌だろうか? なんとなく耳の形が違うような気はするが、相違点はその辺りしかないので雌雄かどうか確かめる術はないが……ともかく、あの距離なら一気に踏み込まれる危険性がある。


 クレアはあちらの個体を察して一人で戦うことにしたのか。で、当のクレアはさらに剣戟を叩き込んで熊にダメージを与えている。

 そしてリリーが向かっている熊は、前傾姿勢となった矢先、突撃を開始した。恐るべき速度であり、川をあっさり越えリリーへ迫る。


 だが彼女も既に準備を済ませていた。剣を薙ぐと同時に俺が放つような風が生まれる。それは螺旋を描いたかと思うと竜巻へと変じ、熊へと駆け抜けていく。

 風と巨体がぶつかり合う。周囲に突風が拡散し、地面に落ちていた枯れ葉や枝が舞い上がる。その中で熊の突撃を……押し留めた。


 動きが完全に止まり、リリーは次の行動に移す。足に魔力を溜めたかと思うと跳躍。熊の頭上をとると同時に剣を振り下ろした。

 魔力が拡散し、炎が熊へと注がれる。風により動きが制限された眷属は雄叫びを上げながらも回避できない。そして火だるまとなった魔物へリリーは降り立ち、剣を薙いだ。


 そこから爆炎が再び生じる。リリーまでも飲み込んだ一撃ではあったが、彼女はあっさりと地上へ。怪我などは皆無みたいだ。

 肝心の眷属は……まだ生存。とはいえ先ほどのような勢いは微塵もなく、炎に巻かれたことによって狼狽えている。


「攻めることに特化した分、防御面は甘いね。ま、これだけの攻撃性能を持たされたら、防御する必要なんてないって作成者は思うのかもしれないけれど」


 リリーはそう呟くと同時に地を蹴った。動きを止める眷属を仕留めるつもりのようだ。

 それはどうやらクレアも同じ……幾度か放った剣戟によって彼女と相対していた魔物も足を止めていた。どうやら決着は二人同時のようだ……リリーの剣が光によって輝き始める。動作からして少しばかり溜めが必要みたいだが……動きが大きく削がれた眷属相手ならば問題ない、という判断みたいだ。


 そしてクレアについては剣を両手で握り締めるとゆっくりと剣を掲げた。大上段からの振り下ろし、というわけだが……隙だらけで熊が身動き取れていないからいいものの、もし突進が来たら回避できないだろうが、攻撃が来ないと確信している。


 双方とも、この一撃で終わらせるという覚悟を持っている。直後、二人の剣が同時に振り下ろされた。


 リリーの斬撃が眷属へ直撃すると、剣を通して光が魔物を包んでいく。爆発的な魔力の発生と共に光は膨らみ――やがて爆ぜた。それは上空へと伸び、眷属の魔力を剥ぎ取っていく。

 さらにクレアは剣を無言で振り下ろす。それによって放たれた刃は――眷属の体へ一直線に刻み込まれた。


 そればかりではない。斬撃が入った直後に熊が一度ビクンと震える。衝撃が駆け抜け、体を通り抜けたらしい……結果、その体が左右に分かれ、倒れ伏した。

 綺麗に両断された眷属の体は地面に倒れた直後に灰と化して消える。リリーの方は光が消えるとその存在が見えなくなっていた。双方とも、容赦のない剣戟により終わらせた。


「……ふむ」


 リリーは剣の感触を確かめるように小さく呟いた後、即座に別方向へ目をやる。まだ魔物は残っている。この場にいる敵は全て始末する――そんな気配だ。

 それはクレアも同じのようで、二人は距離があるにも関わらずまるで示し合わせた通りに周囲の魔物を掃討し始めた。


 剣を振る度に魔物が消え、数を減らしていく。あの調子ならば五分とかからず全滅させることができるだろう。他に個体がいないか疑問もあるが……始末するなら相手としてはさらに戦力を投入するはずだ。それがもう無い様子なので、打ち止めと考えていいだろう。

 なら、俺が魔物の作成者を取り押さえればミッション完了ということか……こちらも前方から来る魔物を倒し続け、突破に成功。通路の奥へといよいよ進むことができた。


 リリーとクレアはここで周囲に魔物の増援がいないかを確かめ始める。それが終わったらいよいよこちらへ来る算段だろう。なら、俺は二人が来る前にさっさと終わらせておこうか。

 通路奥に存在する扉を開ける。その先にいたのは、黒いローブを着た男性だった。


「あんたが、俺達に声を発した人間だな?」


 問い掛けに相手はこちらをにらみつけるだけで答えない。

 見た目は三十代くらいだろうか? 銀髪の地味な魔術師といった風体であり、ボサボサの髪などを含め、清潔感はあまりない。ただ、醸し出す気配……それが『闇の王』を想起させるものであり、確実に力を得ていることがわかった。


 俺は一歩近づこうとする。だが部屋の中に罠を仕込んでいるのか、室内の魔力が揺らいだ。


「……ここまで来た以上」


 そうして魔術師は口を開いた。


「生かしておくことはできない」

「あんたにとってはそうかもしれないな。ただ、俺を倒す手段はあるのか? 切り札は消えたんだろ?」


 その問い掛けに魔術師は瞳に怒りを湛え、


「……してみせる」


 まだ終わっていないと。次の攻防で大勢は決するはず……そう思った直後、室内に存在する魔力が、渦を巻き魔術師へと注がれ始めた。


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