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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第二章
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瘴気の館

 俺達がいる周辺の森から、続々と魔物の気配が現れ始めた。どうやらルーガ山脈内に散っていた魔物達が、魔物を作成した者を守るために戻ってきているらしい。

 気配的に眷属クラスはいない様子だが、現状だと囲まれる可能性がある。対処できるにしても、面倒であることに変わりはない。


「リリー、クレア。俺の魔法はまだ続いているか?」


 補助魔法はどうかという質問だが、二人は同時に頷いた。


「余裕があるよ」

「そうか。なら近づいてくる魔物を倒して――」

「レイト、魔物を作成した人物については任せた」


 思わぬリリーからの言葉。俺は彼女を見返し、


「二人はここで食い止めると?」

「そう。人選的に私とクレアが組み、レイトが単独……というのが戦力的に一番無難でしょう? レイトがここに踏みとどまって戦う場合、魔法を使う必要性が出てくるし」


 そうなれば敵に怪しまれる、と。確かに魔法使いがこの場にいるとわかれば、相手もどうすべきか選択に迫られる。

 もっともそれは相手の拠点へ踏み込む場合も一緒ではあるが……厄介な敵を魔法で瞬殺し、電光石火の動きで首謀者を捕縛する。それが一番望ましい動きかな。


「レイトの補助魔法はまだまだ余裕はあるし、眷属クラスが来てもどうにか立ち回れるよ。それに、敵の拠点に踏み込むならレイトが一番戦えるだろうしね」


 一番確率が高い判断であるのは間違いない。クレアもまたリリーの主張に頷いている。

 なら、やるしかないか。


「わかった。リリー、クレア、無理はするなよ」

「レイトも気をつけてね。怪我だけは絶対にしないでね」

「ああ……それじゃあ、行くぞ!」


 散開。俺は後続からやってくるサイクロプスの横をすり抜け、全力で敵のアジトへと向かう。瘴気が満載の方角へ突き進めばいいので向かうだけなら楽である。

 その動きに敵も俺を狙うような所作を見せたが……こっちの速度がかなりのものであるためか、敵は俺をあっさりと見失って目標をリリー達へと移す。


 よって俺は実質フリーとなったわけだが……ここからは時間との勝負。魔物の作成者がどう判断するかは微妙なところではあるが、さすがに単独で動く俺に恐れを成して逃げるなどということにはならないだろう。

 眷属クラスの魔物が拠点に控えているのならば、十中八九迎撃しようとするはず……問題は逃げの一手に出てしまった場合、絶対取り逃がさないように上手く立ち回る必要があること。


 ここで確実に倒しておきたい俺達としては仕損じるわけにはいかない一戦だが……少しして森の中へ入る。深い茂みの中を進む間にも、瘴気が濃くなっていく。

 一方でリリー達だが――周囲の森から魔物が現れ始める。狼のような個体など小型の魔物が中心で、おそらく大型のものはそれほど数が多くないようだ。


「クレア、節制しながら戦わないとさすがに後がキツくなるよ」


 リリーの助言。するとクレアは、


「わかっているわよ。でも、レイトの魔法が尽きたからといって、すぐに倒れるなんて無様な真似はやめてね」

「当然……それじゃあいこうか!」


 気合いの入った声と同時に彼女達は剣を振る。風の刃と見えない斬撃。その二つが接近しようとしていた魔物達へ刻み込まれ、消滅していく。

 先ほどと比べて多少出力を上げたようだ。威力も十分らしく兵卒と呼べるクラスの魔物であれば余裕で対処できるらしい。


 個人的には『闇の王』の力を用いた魔物である以上はもう少し硬くてもおかしくないと思うのだが……現段階ではまだ未完成なのだろうか? 当然魔物の作成者はどのくらいの魔力を注げばどうなるのかなど、解明できていない部分は多いはず。今まで作成した魔物は実験段階の個体であり、防御能力などを強化していくのはこれから、ってことかもしれないな。

 そうであれば今の状況にも納得がいくかな……などと推測していると魔物が接近してくる。けれど俺は無視してさらに前進。やがて拠点と思しき場所を視界に映す。


 ずいぶんと立派な屋敷のような建物だった。イルバドが間借りしていた場所を想起させるような建物であり、一体誰がこんな物を作ったのか首を傾げるような光景だった。

 さすがに領主がこんな所に住んでいたとは考えにくいし、魔物を作成する人物が建てたのか? それも考えにくいけどなあ……。


「直接問い質すわけにもいかないし、謎のままで終わるかな」


 そういえば、俺を召喚した老人だって魔物が棲む深い森にある屋敷に住んでいたな。物好きがこの世界には多いのかもしれない。

 建物の周囲は瘴気に満ちている。ここへ来るまでに感じていた眷属クラスの魔物については、いるみたいだが姿はない。


「屋敷の奥側に潜ませたか? あれだけの瘴気だと、気配を殺し潜ませるのは可能か」


 俺達と会話をする間にでも後退させたのか? だとするならその目的は――


『――おおよそ、事情は理解しているようだな』


 再び声。拠点近くである以上は呼び掛けられる魔法陣くらいは備わっているか。


『こちらもけしかけてしまったため後に引けなくなってしまったのが実状だが』

「そっちが何のためにこんな馬鹿なことをしているのかは知らない」


 俺は語りながら杖を構える。


「単なる魔物調査のはずが、どうやらその魔物の出現には裏があるらしい……洗いざらい喋ってもらうぞ」

『断ると言ったら?』

「無理矢理にでも吐かせるしかないな。こっちとしても仕事だから」

『いいだろう……ならば、共にいる仲間達ごと、全てを滅してやろう』


 直後、横手から気配。視線を転じた瞬間、俺は目つきを鋭くする。


『おそらく、先日滅んだ魔物はお前達が倒したな? アイツを倒せるほどの技量……とくれば、雑兵では対抗できないのは理解できる。まあ女どもが疲れ果てるのも時間の問題だろうから、あちらはもう無視していい』

「で、俺に寄越したのは切り札か?」

『ああ、そうだ』


 他にも眷属クラスの魔物がいるのかもしれないが、現段階では俺と所に現われた魔物が最強ということだろう。

 その姿は……サイクロプスのように人間の形をとった巨人。ただ、体を構成しているのが植物の枝。それがまるで編んだかのように絡み合い、体を形成していた。


 しかもそればかりではない。手には巨体に釣り合うような大きな槍に加え、左手には盾。見るからに騎士でも模したかのような姿なのだが……その魔物の得意な攻撃は魔法のような技法であると、俺は知っていた。

 間違いない、現われた魔物は『闇の王』との戦いで甚大な被害をもたらした眷属。


『たった一人に対し使うのは、あまりに過剰防衛と言えるかもしれないが』


 加え、周囲の茂みから魔物が。狼型の魔物が主で、眷属の援護をする腹づもりらしい。


『こちらとしても仕損じるわけにはいかないからな。さっさと死んでもらおう』

「お断りだ」


 杖に魔力を込める……頭の中で色々と戦術を組み立てたが、俺が魔法使いであると推測した瞬間、退却などの可能性もゼロではない。


 逃げたとしても追い切れる自信はあるけど、魔物を倒していなかったら眷属がリリー達の所へ向かって行く危険性もある。十分勝てるとは思うし、魔法使いであることが露見してから短期決戦で……とは思うが、魔物の作成者と情報提供者などの関係性もある。魔法使いが追いかけていると認識されたら面倒なことになるかもしれない。


 色んなリスクを回避するためには、あまり手の内を晒さない方がいい……というわけで戦術は決まった。俺は呼吸を整え、密かに魔法を発動させた。


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