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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第二章
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指揮官と兵卒

 グリフォン達はまったく同じタイミングで、口から銀色の光弾をはき出す。魔力の塊と呼べるそれは、魔物達にとっての魔法と呼んでも差し支えない代物だった。


 多数飛来するその魔法に対し、俺達は散開することで対応した。俺が後方リリーが右でクレアが左。直後、立っていた場所に光弾が飛来し、地面を抉り破壊していく。

 川岸にある石などを平然と砕くほどの威力があるようで、光が着弾した場所は小さな穴ができた。


 石を砕くのを見れば、下手すれば家の屋根などは平然と破壊できるかもしれない。結界を用いている俺達ならば平気だが、そうではなければとても抗える存在ではないだろう。


「俺達からすれば脅威ではないかもしれない……けど、町に出たら絶望的な存在ばかりだな」

「まったくだね」


 リリーは心底同意するのか、グリフォンを見上げながら返事をした。


「野放しにしておいたら甚大な被害が出る……ここで魔物を作成する存在を倒しておくのは、今後のことを考えればすごく重要かも」

「最終決戦に至るような真似はしたくないけど……な!」


 光弾がさらに飛来する。俺達はそれを避けながら反撃を開始。

 俺については杖をかざすことで魔法を発動させる。といっても魔物を作る先ほどの声の主は俺達のことを絶えず観察しているだろう。イルバドとの戦いと同様に、俺が魔法使いであることを知られないように立ち回った方が有利に事が運ぶと思うので、それを考慮して戦うことにする。


 杖先から放たれたのは風。カマイタチとも呼べる切り裂く風が、グリフォンの群れへ向け放たれた。


 渦を巻くその攻撃に魔物達が空中で翼をはためかせ耐えるが、ズバズバと皮膚や翼を切り刻んでいく。途端、魔物から高音の悲鳴がもたらされた。

 防御能力はそれほど高くないな。範囲攻撃にしたので風の刃そのものの威力は控えめなのだが、十分ダメージを与えられた。


 次いでリリーの攻撃。刀身から発せられたのは炎。すくい上げるように振ると火球が上空へと撃たれ、グリフォンの一体へ着弾した。

 それにより生じたのは爆発。グリフォンの体を丸ごと見えなくする炎が弾け、悲鳴を上げながら魔物は墜落した。地面に激突すると灰のように変じ、形をなくして消滅する。


 彼女は大丈夫そうだ。ならクレアは――剣を振る。それにより、グリフォンの一体へ斬撃が刻み込まれ、リリーの攻撃を受けた個体と同様に墜落した。

 あの技法は相変わらずというわけだ。どこまで射程距離があるのかわからないけど、この距離なら彼女にとっては意味がないようだ。


「先は長いみたいだし、ドンドンいきましょう!」


 クレアは気合いを入れる声と共にさらに剣を振る。魔物の作成者からすればどういう原理なのかわからず戦々恐々だろうな。彼女の剣が空を切るごとにグリフォンがバタバタと墜ちていくのだ。俺が敵だったら目を丸くしている。

 クレアの攻勢に加えリリーの炎によって、グリフォンもまたものの数分で平らげる。数で押し込むという手法が通用しないのは相手もわかったはず。ならば次の一手は――


 ズシン、ズシンという重い足音が森の奥から聞こえ始めた。巨体のようだな。


「色々な魔物……どれだけ作ったのか」

「ここは山岳地帯だから目にしていないけど、海を自由自在に動ける魔物とかいそうだよね」


 リリーの言葉に確かに、と俺は内心で同意。ただそういう魔物がいるとしたら……こうした魔物を作成した人物はどういった目的で作り上げたのか?

 陸海空全てを支配するため? まさかそんなことは考えていないだろうけど……思考しているといよいよ足音の正体が判明。先日戦った異形よりも人間寄りの巨人で、なおかつ瞳が一つ……俺の世界で表現するならサイクロプスかな?


 肌色は青く、自然界に存在していない無機質さを感じる。武装と呼べるかは疑問だが全身を布のような簡素な衣服で覆われているのだが……あれは実際に着ているわけではなく、魔物の一部と解釈していいだろう。


「ねえ、レイト」


 サイクロプスを観察しながら、リリーは言及する。


「私達が最初に戦った眷属を比べれば明らかに弱い……この違いはなんだろう?」


 ――彼女の言う通り巨大ではあるが目の前のサイクロプスもそれほど強い感じはしない。ただ、俺はその理由をおおよそ理解し始めていた。


「たぶんなんだけど、あいつらは兵卒クラスなんじゃないか?」

「兵卒?」

「先日戦った眷属は指揮官クラスで、目の前の敵……さっきの蜂とか鳥とかは、言わば前線で戦う一兵卒」

「なるほど、それなら納得もできるけど……魔物の作成者さんは帝国でも滅ぼす気なの?」

「例えば怨恨で力を得たいとかなら、そういう動機もありだな」


 『闇の王』の力を、魔物の生成に特化させる……その理由は帝国を滅ぼすこと。そんな理由であればこういった力を得たのも頷ける。

 ただ『闇の王』が世界を蹂躙し始めた際、蜂やらサイクロプスは出現しなかった。これは他ならぬ『闇の王』が必要だと感じなかったから、などという理屈もつけられる。


「鳥で空から強襲し、一つ目の巨人で押し寄せる……狼は瞬足を生かした斥候部隊かな? そうして町を潰すだけなら容易にできる。それも、短時間でいくつも滅することができるだろう。文字通り、数で押し潰す兵器だな」

「それじゃあ蜂は?」

「あの魔物はどうやら自分自身で子どもを生成できる能力を保有しているみたいだから、十中八九拠点防衛とかで使われる種類だろう」


 ただ蹂躙するだけでは飽き足らず、それこそ魔物が大陸を支配するために蜂のような存在を置いて町から町へと戦火を拡大させていく……うん、そういう手法ならこういった戦力がいるのは理解できる。

 サイクロプスが俺達を目標に見定め、突撃を開始する。さらに森から増援もやって来て、俺の仮説が本当であるような気がしてくる。


 ただ、俺達三人に掛かれば……まず俺が風の魔法を行使。無数の刃がサイクロプスへと飛来し――その体をズタズタにする。

 やはり防御力は低い。並の騎士や兵士の攻撃ならば通用しないだろうが、この場にいる面子ならば問題ない。


 リリーとクレアはグリフォンへ放ったのと同じ遠距離攻撃で接近させる暇すらなく敵を倒し続ける。相手からすれば多数の魔物で疲れさせるなんて手法なのかもしれないが、現状だとそれすらあまり意味はないか。

 問題は魔物の数。強力故にどれほどの個体数がいるのか……さすがに無尽蔵ではないと思うがさらなる増援が来たのなら魔物の作成者へ到達するのが遅れる。現在は逃げているわけではないのだが……、


「無視して魔物作成者を捕まえるのを優先するか?」

「だとしても、魔物は倒さないと」


 そうリリーは主張。確かにこれが外に出てしまったら一大事だ。


「それに、もう一つ懸念があるよ。作成者を捕まえるのはいいけど、もし彼が死亡あるいは魔物の制御ができなくなったら……」

「ルーガ山脈というこの場所でも、人間が暮らすエリアはある。そこへ被害が向く可能性は、あるよな」


 となれば、方法は一つしかない。


「この場に誰かが残り、時間稼ぎをする間に相手の拠点へ乗り込んでいって、首謀者の首根っこをつかむと」

「そういうこと」

「問題は人選だけど……」


 拠点にいる魔物の方が強いだろう。下手すれば眷属クラスだって考えられる。いや、それはこの場で食い止める場合でも同じことが言えるのだが。

 どうすべきか――考えようとした矢先、戦場に新たな変化が生まれた。


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