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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第二章
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警告

 猪型の眷属は、俺達が飛び出したと同時に唸り声を上げた。獲物が突然現われて喜んでいる……そんな風にも見受けられた。

 ただこちらの魔力量云々については把握できていないか。眷属の中には瞬時に理解する個体もいるにはいたが、目の前の猪はそういう特性はないようだ。


 また同時に猪の瞳の色が真紅に染まる。どうやら暴走状態に陥った……たぶん目標を見つけると見境がなくなるのだろう。

 こういう相手ならば行動も読みやすいので戦いは幾分楽だと思うのだが、油断はできない――さすがにリリーやクレアは真正面から当たるなどということはせず、まずは遠距離からの攻撃を駆使して、猪の突撃を押し留めようと動いた。


 双方が掛け声と共に、剣を振る。リリーは魔力によって渦を巻く風の刃。反面クレアは以前の戦いでも見せた、魔力の斬撃だ。その二つが猪の頭部へ刻まれると――悲鳴が上がった。

 動きが大幅に鈍る猪。これなら一気に迫って倒すことも……と思うのだが、猪は即座に体勢を戻した。大型であるが故に耐久力も相応に高いか。


 猪は再度突撃すべく前傾姿勢となる。攻撃方法が単純なぶちかましだけなら、迎撃し続ければいずれ力尽きると思うのだが……その攻撃力を前に立ち向かい続けることができる人間は、そう多くはないだろうな。

 極めてシンプルな能力だが、その破壊力は絶大……しかしリリーとクレアには通用しない。


 再び突撃を敢行する猪。だがリリーとクレアはまたも同時に剣を薙ぐと、その頭部にさらなる斬撃を叩きつける。加えリリーは追加効果も付与していた。その巨体が……風によって煽られる。

 巨体の足が地面から離れるのはまさに圧巻の一言。しかし猪は上手くバランスをとり、横倒しになるような無様な結果は回避した。倒れてしまえば下手すると起き上がれないくらいの姿ではあったが、それについては失敗した模様。


 だが大きな隙が生じたのは確かであり、クレアがさらなる追撃を行う。剣には多大な魔力が収束しており、勢いよく、振り下ろされる!


「これでどう!」


 大上段からの振り下ろし。見えてはいないが、クレアは巨大な光の剣を猪へ向け振り下ろしているようにも見えた。

 剣戟は……再び猪の頭部へ当たる。それは刃というより棍棒のような殴打系の面が強いらしく、頭部に切り傷が入るということより、その皮膚が大きくへこんだ。


 直後グオオオオ、と雄叫びが上がった。確実に効いてはいるみたいだが……やはり眷属クラスか、まだまだ健在の様子。


「この調子で戦っていたら後がもたないぞ」

「わかってるよ。ここで終わらせる!」


 リリーは告げるとクレアの攻撃によりたじろいだ猪へ向かって駆けた。さらに足へ風の術式を付与させたらしく――跳んだ。

 目的は猪の頭部か。眷属が反応するよりも早く頭部へ着地すると、剣を躊躇いもなく突き立てた。


 事前に切っ先に魔力を集めていたのだろう。野菜でも切るような感覚で剣が猪の頭部へ飲み込まれていく。

 すると魔物は一度ビクン、と震えた。本来なら目の前の魔物はあくまで猪の姿を模したものなので、猪と同じように臓器を持っているとは言いがたい。だがリリーは頭部に思考などを司る部位があることを察知し、攻撃に打って出たわけだ。


「――爆ぜなさい!」


 その刀身へと魔力が注がれる――直後、リリーを中心に風が舞った。暴風とも呼べるそれは猪の頭部を中心に渦を巻き……眷属は、ゆっくりと力をなくし、倒れ込んだ。

 その間にリリーは既に地面に降り立っている。さっきの風はリリーが技を使ったことによる余波だな。つまり刀身を皮膚に突き刺して体内へ直接風を送り込んだ。無茶な戦法ではあるが二度の斬撃により皮膚の硬度などを探り、実行可能であると判断し一気に決着をつけにいったわけだ。


 猪は攻撃方法などの手の内がわかりやすかったので比較的容易にトドメを刺すことができた。他の眷属ではそう簡単にいかないかもしれないので、注意が必要だろう。


「お疲れ。一度補助魔法をかけ直しておく」


 魔法を発動させる。リリーは「ありがとう」と礼を述べ、魔物作成者の拠点があると思しき方角を見据える。


「レイト、敵についてはどう?」

「動いている気配はないな……これだけ派手に立ち回っている以上は気付いていると思うんだが」


 現在は迎撃準備中か? 眷属クラスの魔物を倒せるだけの技量を持つ面子だ。向こうだって警戒すると思うのだが――


 会話をした直後だった。突然俺達の目の前に、魔力が。地面に生じたそれに対し俺達は即座に武器を構える。

 しかし、攻撃はこなかった。地面には魔法陣が出現したが、何かが生じるといったこともない。代わりに、


『……何者だ? 貴様達は?』


 声が聞こえた。ああ、なるほど。これは一種の通信魔法か。地面を介し、俺達と会話をするために使用したと。

 ふむ、どう答えるべきか……少し悩み、俺は口を開いた。


「ギルド所属の冒険者だ。この山の調査……のつもりだったけど、凶暴な魔物が多数現われたから、討伐している最中だ」

『そうか、あの魔物を倒した人間共か。まさかここに舞い戻ってくるとは』

「そちらこそ何者だ? まさかあの魔物と関係あるのか?」


 何も知らない風を装う感じで。その方が相手が逃げ出す可能性は低いだろうし。

 ギルド所属とくれば、例えばこの場所で魔物を使い消してもさらなる敵が来るなんて可能性は低いと考えるはずなので、始末した方がいいと判断してもおかしくはない。そういう流れなら、逃げることはないと思うが。


 相手は沈黙する。俺達のことをどういう風に見ているのか……遠隔で姿くらいは確認していてもおかしくはない。

 俺達の戦いぶりからどうすべきか思案しているのか……? この辺りは賭けだが、もし他に手駒がいれば、突然けしかけてくるかも――


『……警告、しておこう』


 少し間を置いて、相手が話し始める。


『ここから先はこの私の領域だ。魔物について討伐するというのは理解できるが、この先へ進むとどうなるかはわからん。命の保証はない。引き返せ』


 ……どっちかというと穏当な発言だな。俺達をやんわりと追い返すことができればそれで十分というわけか?

 俺達が無知な感じだし、交戦せずに自分は魔物と関係ない、という立ち位置を確保したいとのか……? 相手もどうすべきか悩んでいるのか。


 なら、俺はどうすべきか……無知を装いながら魔物を見つけて倒していくというのが一応無難かな? 相手にしてみればストレスだろうけど。


「……そっちが何の目的でこんな場所にいるのか質問したいところだけど、そこはいいや」


 俺は相手と話を続ける。


「ただ、もしよければ魔物について情報をくれないか? あるいは、そっちは何か魔物に関係しているのか? これについては証拠もないから判断のしようもないが」

『……警告はしたぞ』


 魔力が途切れた。一方的に通信を切ったらしい。

 俺達の動きは監視しているので、もし突っかかってきたなら迎撃する、という感じだろうか。


「あまり敵意は見せなかったわね」


 クレアが感想を述べる。俺も同意見だが、


「変に角が立つと討伐隊とか編成されるってことだろ。今ならまだルーガ山脈に面倒な魔物が生まれている……くらいの可能性しかないわけだし」

「できることなら無視して帰って欲しいと。それは無理な話だけど」

「そういうことだな。進むぞ」


 ということで、俺達は歩む……その時、前方の瘴気がわずかに揺らいだ気がした。


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