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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第二章
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様々な眷属

 眷属を生み出した存在……その居所は特に警戒などはなされていないようで、俺達は順調に近づくことができた。

 そもそも人が入り込まない場所なので、警戒する必要性などどこにもない、という話だな。で、肝心の眷属クラスの魔物だが――


「……あれ、みたいだな」


 俺達は茂みに隠れ、様子を窺う。

 姿は先日戦った異形とは、ずいぶんと違う。四本足の……狼、ではないかな。どちらかというと猪とか、そういう見た目に近い。


 巨大であることに変わりはなく、口元に牙などを覗かせているのだが……見た目だけを見れば標的を捉えると突撃を繰り返す魔物、といったところだろうか。

 ただ、俺は少なくとも『前回』の戦いで見たことがない。


「記憶にない敵だけど……二人は心当たりあるか?」

「私はないよ」

「私もないわ」


 リリーとクレアは相次いで返答。加えクレアは、


「なんとなーくだけど、前に戦った眷属と比べると魔力はおとなしいかも?」

「……そうかもしれないな」


 色々と魔物を作成した中の一体なのだろう。このルーガ山脈であれほどの大きさならばまあ敵無しに違いない。魔物を食らい続け、肥え太っていく……放牧、という表現はあんまりしたくはないけど、それに近い雰囲気だ。


「魔物を作った直後か、それとも作って放置しているだけか……ただ、あれと交戦するなら当然、魔物の作成者も気付くよな」


 最悪なのは、こちらを察知して逃げること。アジトには魔物を生成するための術式とか、色々と資料なども残っていると思うので、身一つで逃げる可能性は低いと思うのだが……。


「逃走されて、イルバドと同じように情報提供者に伝わるのが最悪のケースかな」

「魔物は他にもいるのかしら?」


 クレアからの問い掛け。俺はちょっと魔力を探り、


「いるな……しかも複数体。その中には眷属クラスの魔力もあるし……」


 俺は接近することで、一つ理解した。


「……ああ、間違いない。俺が頭に浮かんだあの眷属がいるみたいだ」

「植物の、魔物?」


 リリーの質問に俺は小さく頷いた。


「ああ、そいつが瘴気が濃い建物の近くにいるな……」

「拠点近くに控えさせて迎撃しようというのが敵側の心理じゃないかしら」


 クレアはどこか確信を持った声音で俺へと述べる。


「まさか自分が何をしているのか理解されている、とは敵としては思わないでしょう。まっとうな考えであれば、魔物の存在を認知されたことに対する討伐隊が来た……眷属がやられたのを調べているのは、どういう敵なのかを探っていたというところじゃないかしら?」


 ……まあ、普通ならそう考えるところだろうな。

 敵側は『闇の王』から力を得ているにしても「敵は眷属のことを含めて知識を持っている」などという予想はさすがにしないだろ。なら真っ正直に交戦を仕掛け、相手はそれを迎撃……という流れがこれからの戦いでは自然だ。


 例えば俺が魔法によりすみかにこもる相手を結界で逃げられなくするというやり方もあるのだが、イルバドのように『闇の王』から力を得ている以上は作成者自身の能力もかなり強化されていることだろう。それを踏まえると破壊されてしまう公算が高い。なおかつ大規模な結界を使えるということから警戒し逃げるという選択をとる可能性だって考えられる。

 色々と悩ましい部分ではあるが、ここは普通に攻め込んだ方がいいかなあ。


「どういうやり方であれ、逃げる可能性は捨てきれない」


 俺の懸念を察するようにリリーが話し始める。


「それがわかったのなら、レイトが先行してその人物を捕らえればいいよ」

「……ま、それが落としどころか」


 俺は小さく呟くと、リリー達へ指示を出すことに。


「わかった。ならまずは目先の魔物からだ。相手が眷属を倒した人間であると認識するかどうかは不明だが、少なくとも魔物を倒して回っている存在であることは認識するはず。であればこちらの姿を確認すれば近くの魔物をけしかけてくるかもしれない……その中で俺としてはあまり魔法使いという部分を表に出したくはないな」

「うん、そこは隠したほうが有利に事が進むね」


 イルバドの時と同様に、上手く立ち回らないといけないわけだが……それほど心配はないかな。リリー達の援護を行うくらいならそれほどキツくはない。


「……補助魔法を事前に使っておくけど、さすがに連戦となったら即座にかけ直しができるかどうかはわからない」


 そう俺は前置きをする。


「そこについては細心の注意を払ってくれ……魔力を消耗したら再度魔法を使うから、無理はしないように」

「わかった。よろしくレイト」

「ええ、私達は全力でやるだけね」


 二人がそう述べた後、俺はもう一度魔物を見据えた。

 眷属クラスと比べれば魔力量は多いが、脅威はそれほど感じない……とはいえ周囲を破壊する何かを持っている可能性は極めて高く、怪我をしないよう注意する必要はある。


「――眷属を」


 俺が魔法を掛けようかと思った時、リリーから声が飛んだ。


「作成者は、何のために作ったんだろう?」

「さあて……碌でもない理由だと思うけど」


 イルバドのように最強を目指すのだとしたら、作成者は自分自身が強くならずとも魔物が強ければいい、などという考え方だったのだろうか。


「あと気になるのは『前回』眷属が襲来したけど、その時作成者はどうしていたか、だな。自ら使役していたのか、あるいは『闇の王』に取り込まれたか」


 魔物を作成するために力を使ったのであれば、世界を飲み込むほどの力を有するとは思えないので、たぶんイルバドに情報提供した人物とは異なるとは思うのだが。


 そして首謀者は何のために情報を提供し、またこんな辺鄙な場所にいる存在をどのように知ったのか……この場所に居を構えたのが『闇の王』を得た後ならば、例えば魔物生成や実験のために帝都から引っ越ししてきたなんて流れかもしれない。ただ、なんとなく引っ掛かるのだ。


 『闇の王』にまつわる情報を誰彼構わず話していれば『森の王』などに気付かれてしまう可能性が高くなる。かといって、力を得たいと願う人間だけをピンポイントに選んで『闇の王』について話す、なんて芸当ができるはずがない。


 と、そこまで考えてみたはいいけどこればっかりは首謀者を捕まえてみないとわからないか……あとイルバドと今回の魔物作成者とは縁があったのか。身内とか友人とかに紹介しているのなら、ここで当該の人物を捕まえれば話が一気に進展する可能性もある。


 頭の中で情報をまとめた後、俺は魔法を使いリリーとクレアを強化。


「自分の身は自分で守る」


 二人へ俺はそう告げる。


「だから、思い切りやってくれ……あと、できる限り二人で戦ってくれよ」

「ええ、わかったわ」


 クレアが代表して答えた。一方のリリーはどこか不満げな表情を見せ、


「それはクレア次第かなあ」

「あら、指示に従わないのはさすがに仲間としてどうなのかしら?」

「お前ら……頼むから仲良くしてくれよ……」


 戦闘に入ったら大丈夫だとは思うけどさ。

 さて、準備ができたので俺達は魔物へ挑むタイミングを窺う。ここからは下手するとノンストップだ。相手に逃げられない内に、叩きつぶす必要性がある。


 気付けばリリーもクレアも沈黙し、神経を研ぎ澄ませている。魔物の動向から飛び出すタイミングを窺っているか。

 俺が口を挟む必要もないな……そう思っていた矢先、同時に彼女達は飛び出した。眷属との戦いが、いよいよ始まった。


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