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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第二章
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似たもの同士

 クレアは俺と戦って少しくらいダメージを負ったというのに、リリーと連戦しようという気概を見せた結果、今度は俺が審判をやることに。というか、


「リリー、多少なりとも負傷し疲労している相手に勝って、それでいいのか?」


 そんな指摘に対し、リリーではなくクレアから、


「麻痺は今から治すし、私はいいわよ」

「ほら、クレアもああ言ってるし」


 何がほらなのか……。


「えっと、本当にやるつもりなのか?」


 確認のためにクレアへ尋ねると彼女は「もちろん」と答えた。あっさりしすぎている。


「……はあ、二人がそれで納得しているのなら、いいか」


 雑に審判をやればいいだろう……などと考えていると、両者とも殺気立つ。おいおい。


「クレア、俺と戦うよりも殺気を出しているんじゃないか?」

「リリーには負けられないわ」

「何、その変なこだわり……」

「正直、私だって『前回』と比べて弱くなっている。そこは疑いようのない事実」


 クレアは唐突に語り始めた。


「それについてはもう一度強くなれるから良しとしましょう。で、その中で私としては絶対に負けたくない人がいる。その一人が、リリーね」

「理由、聞いてもいいか?」


 俺が質問してみるとクレアは綺麗な笑顔で、


「そうね……いくつか理由はあるけれど、大きな理由の一つは同族嫌悪かしら」


 同族嫌悪って……。


「似たもの同士だと考えているのか?」

「役割が結構被っているし」

「いや、被ってないよ」


 リリーがなぜか反論。


「クレアは剣術一辺倒でしょ? 私は他に色々と立ち回れるし」

「できるできないの問題じゃないのよ。リリーは敵を見つけたらレイトがいない場合猪突猛進で先陣を切るじゃない。私もそうだから似てると思ったのよ」

「自覚はあるんだな……」


 ちょっとばかり脱力しながら俺が言及すると、クレアは笑顔を絶やさぬまま、


「自己分析はできていると思うわよ。でなければ、正しく強くなれないからね」

「ああ、うん。そうだな……でも、俺の希望としては自覚があるんだったらもうちょっと自重を」

「敵を見たら我を忘れるから」


 狂戦士か何かなのか?


「とりあえず、俺はストッパー役になるから頑張るよ」

「その意気ね……で、リリーの方も私と同様、負けられないって雰囲気ね」

「ライバルとしてね」

「……ライバル?」


 聞き返すクレアは、ちょっとばかり挑発的に、


「私に一度も勝ったことがないのに、ライバル?」

「そこはいいじゃない、ライバルで」

「ああ、リリーとしてはそういう見解でもいいけど、私の方はそう思ってないから、見事勝ってライバルになってね」

「ぐぬぬ……」


 本当にこれから大丈夫だろうか……と、ここでクレアは声を上げて笑い始めた。


「私はリリーが皇帝になって以降の姿しかほとんど見ていなかったから、こういう姿を見ることができて新鮮ね」

「ああ、クレアが戦線に加わったのは結構遅かったからなあ」


 なんだか昔話に興じている気分になってきた……そんな俺達のやり取りにより、先ほどの殺気立った空気が霧散されていく。


「……あー、そうね」


 ここで、頭が冷えたのかクレアは剣を収めた。


「うん、和やかな雰囲気になったし今日は止めておきましょうか」

「む、ここまで準備して?」

「一緒に旅をするのだから、再戦はいつでもできるわよ。今日は私のわがままに付き合ってくれてありがとう、レイト」

「ん、ああ……でも、あれで良かったのか?」

「ええ、満足よ。そもそも全力で……それこそ魔法使いとして全力で応じたのなら、私が負けるのは自明の理だし、むしろ自分に健闘したと褒めてあげたいくらいよ。付き合ってくれて悪かったわね。でも、女と約束するとこういう面倒事になるから、気をつけなさい」


 助言の後、クレアはリリーへ視線を注いだ。


「どうせあれでしょう? あなた、私に勝ったら……とかいう約束をレイトとしていて、それを叶えるために戦おうとしているんでしょう?」

「な……」


 あっさりバレた。


「そういう形で意中の男性にお近づきになるのはいいけど、そんな浮ついた心情で私に勝とうなんて甘いわよ。まして手負いの私と戦うとは……騎士道の風上にも置けないわね」


 やれやれという様子で語るクレアにリリーはむむむ、と不満顔。


「ま、動機はなんであれ挑戦は受けるわよ……今のリリーでは絶対に勝てないと思うけどね」


 そんな風に言ってから、彼女は俺達に対し背を向けた。


「先に宿へ戻っているわ。明日はちゃんと起きるから心配しないでね」


 そう言ってこの場を後にした。その姿は颯爽としていて、なんだかかっこよく見えてしまう。

 で、リリーについてはどこまでも不満顔のまま。指摘された言葉は一定の説得力があるので、何も言い返せなかった、という感じかな。


「……仲良くしてくれよ」


 その言葉にリリーは少し息を荒くして、


「それはクレア次第だねっ」

「本当に頼むぞ……」


 頭が痛くなってくるなあ。やっぱり仲裁役としてもう一人、アゼルが欲しくなる……。

 彼がいたらもう少し円滑に進むだろうな……深刻な雰囲気ではないので、明日になればきちんと働いてくれるだろうけど。


「……今回の戦い、眷属が相手だ」


 俺はリリーへさらに続ける。


「場合によっては二人が連携する必要性だって出てくるかもしれない……だから、チームワークを発揮できるようには頼む」

「……わかった」


 俺からの要求なので渋々受け入れるリリー。それと同時、俺は先ほどのクレアの言動について考察する。

 といってもそんなに複雑な話ではない。彼女としては「仲間として共に戦うけれど、好きにやらせてもらう」という意思表示だ。これはこれで面倒な立ち位置を選んだと思うところだが、元来一匹狼の彼女からすればそういうやり方の方が性に合っているしやりやすいということなのだろう。


 いざとなれば……『闇の王』の眷属相手なら、リリーもクレアもきっちり戦ってくれるだろうし心配はないと思う。あと、


「そういえば……リリーとクレアって、組んで戦ったことがなかったか?」

「……三回くらいあるかな」


 記憶を探るために悩みつつ、彼女は言及する。


「といっても連携って感じではなかったよ。なんというか互いに好き勝手やって、危なかったらフォローしよう、くらいのもの」

「今はそれで十分かな……そういうことが眷属との戦いで必要になってくるかもしれない。それは念頭に置いていてくれ」


 リリーは控えめに言っているが、二人の活躍によって厳しい戦いを乗り越えたケースもあった。それは俺が不在という局面において、だ。伝え聞いた話によると、二人の武勇はその場にいた誰もが目を見張り、眷属を追い込んでいたらしい。

 今回については俺もいるけれど、場合によっては二人の剣が必要になる局面にだってなるかもしれない。それを踏まえれば、きちんと仲良くなってもらった方が助かる。


 リリーと直接斬り結んだことにより、クレアはリリーのことをある程度は把握しただろう。なおかつ今日の決闘でリリーはクレアの剣をしかと見ていたわけだし、その技法などについて理解を深めたはずだ。よって、双方が手を組み戦う下地は既にできている。

 後はきちんと連携が機能するかだけど……今だ不満げな顔のリリーを見て大丈夫かと思ったが、ここはなるようにしかならないかな。


「ほら、いつまでもふくれっ面はやめとけ。俺達も戻ろう」

「うん」


 素直に返事をして、リリーは歩き始める。とりあえず、色々と課題だってあるかもしれないけど、眷属と戦う形にはなったかな。

 後は俺が二人に対しどう上手く立ち回るかだろうか……ちょっとばかり不安もあるけど、頑張ろう。そう心の中で思いつつ、俺達は宿へ戻ることとなった。


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