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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第二章
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螺旋の剣

 螺旋を描くクレアの魔力に対し、俺は真正面から杖で受けると……その効果がおおよそ理解できた。どうやらこれは、魔力を削って破砕する効果があるらしい。

 例えるなら、チェーンソーだろうか。杖先に存在する魔力が、螺旋の魔力に削り取られていく。


 なるほど、魔力を削り取ってこちらの攻撃力を喪失させるということか……削る、というのはなんだか地味な攻撃にも思えるが、結構有効な手法である。


 魔力というのは一瞬の衝撃には強いのだが、継続的な刺激をというのは案外苦手だったりする……というのも硬度を維持するには常に魔力を維持し続けなければならないわけだが、一瞬の衝撃に備えるには結界も一瞬の魔力で済む。しかし継続的な攻撃は、結界を張っている側も継続して魔力を注ぎ続けなくてはいけない。

 ただこれは攻撃側も魔力を消費し続けることを意味するので、魔力量が少ないクレアはどのくらいの時間技を維持できるのか……という疑問はあったが、すぐに察した。彼女は螺旋に回転するその魔力をどうやら循環させている。


 ということは、彼女の技法は体に眠る魔力を放出させているのではなく体に留めているため、魔力消費はほとんどない……言ってみれば体表面に存在する魔力を刃に変え、全てを攻撃に転化させるという技法のようだ。


「さあ、どうするの?」


 俺がどういう仕組みなのか看破したのは相手も理解した様子。では、どのように対応するのか。

 

 魔力を杖先に注ぐが、クレアの剣が魔力を壊す速度はかなりのもの。鍔迫り合いを続けることで力負けする可能性は低いけど、ここにクレアの奥義が乗っかると一気に決着がつく可能性だってある。俺がさっき使用した麻痺の効果は残っていると思うが、迂闊に攻撃してカウンターでも決められたら一発で終わりだ。けれどこちらも仕留めるのならリスクはとらないといけないか。


 頭の中で一応算段は立てたが……いけるのか? そう問うた瞬間、発動させているゼルーファの技法がいけ、と命じているような気がした。

 自分を信じろと、ゼルーファが語りかけてくるような感覚。もしかするとクレアと相対して何かしら高揚感みたいなものがあるのかもしれない。あくまで騎士ゼルーファの技法を真似ただけで、その人格まで取り込んだわけではないのだが……まるで背後にゼルーファがいて後押ししているような錯覚に陥った。


 けど、それで踏ん切りはついた。なら――いくとするか!


 俺はさらに杖へ魔力を込めると、一度強引に押し返す。クレアはそれによりほんの少しだけ後退し、剣と杖がわずかに離れた。

 即座に杖を引き戻すと刺突を決めた。胸元を狙った一撃にクレアは身をひねってかわす。紙一重であり、麻痺の効果は間違いなく効いている。むしろ攻撃に特化した分だけ防御や回避といった動きにムラが出ている。ここにしびれが合わさって彼女を戦いにくくしている。


 それを確認した後、すかさず追撃の刺突。今度もクレアは避けたが、反撃する余裕はない。

 ならば、一歩足を前に出す。クレアも剣を構え直し――それと同時に今度は左足を狙った。杖を突き出した瞬間に回転を加え、もし当たったら肉を食い破るどころか貫通するような一撃。


 もし受けたら致命的になるのがわかっているためか、クレアは足を動かしてギリギリかわす。そこで彼女は反撃しようと――というより、俺はほんの少しだけ隙を作った。針に糸を通すようなとても小さい隙ではあったが、防戦一方のクレアには他に方法がない……誘いだと気付いたかわからなないが、彼女は応じた。剣が、隙のある部分へと吸い込まれるようにして迫ってくる。


 俺は即座に杖を引き戻し、近づく刃を受け、いなす。体は横へと移動し、左手をかざす。そこから放たれたのは雷撃。といってもこれで勝負が決まるものではない。防御をしている彼女からすれば、静電気をパチッと受けた程度のもの。それが彼女の腹部へ入り、小さく呻くのを耳にする。

 秒にも満たないコンマ単位の隙。そこへ俺は杖を突き込む。クレアは反応したが一瞬遅かった。杖の先端が、彼女の右肩へと入る。


「っ!」


 小さな声。攻撃を受けたことにより彼女の体がグラリと傾く。全身に力を入れて倒れないように態勢を整えようと……それどころか無理矢理上体を起こそうという勢いを見せるが、俺はそんな彼女へ容赦なく魔法を当てた。

 今度は光弾。それが再び腹部へ突き刺さると――体がとうとう吹き飛んだ。


「わっ!」


 驚いたような声。ダメージはほとんどないだろう。しかしグラついた姿勢を正すのは絶望的となり、彼女はとうとう倒れた。もっとも即座に後転するように体を一回転させ、剣を構え直そうとする。

 だが、俺は間合いを詰め立ち上がろうとしたクレアの額に、杖を突きつけた。


「俺の勝ちだな」


 沈黙。その直後にリリーが「レイトの勝ち!」と高々に宣言したため、決闘は終了した。






「くう~、なんたることか……」


 そしてクレアは地面に座り込んで悔しそうな声を上げる……決闘においては全勝していたくらいだし、少なくともこの世界においては初黒星、かな?


「魔法の連発によって負けたとかじゃなくて、まさか騎士の技量に負けるなんて……」

「厳密に言うと、借り物だけどな。それに、ゼルーファの槍術だけじゃなくて魔法を使っているし」


 技量だけで言ったら本物には及ばないが、その代わり俺には魔法による妨害がある。これにより隙をなくし、いやらしさだけなら本物を上回っていると俺は自負する。


「ともかく、ゼルーファとは技術は同じでも戦法は違いすぎる……なおかつ俺はそれなりにクレアの手の内を知っているわけだし、その辺りは理解してくれると助かる」

「ああ、それはそうだけれど……ともかく、敗北したのは確かよね」

「そうだねー」


 どこか煽るような言葉がリリーからもたらされた。俺が勝ったことで溜飲が下がった様子。


「で、レイト。勝ったわけだけど……何か要求する?」

「いや、仲間なわけだし、別にその辺りは――」

「そうね。私としてもきちんと履行すべきよね。その辺りは」


 クレアは素直な口調で俺へと述べる。


「仲間であれ結果は結果よ」

「……クレア?」


 彼女は突然地面に正座した。そして、


「さあ! 文字通り何でも言うことを聞くわ!」


 いや、そんな姿勢でそんなこと言われても……。

 俺としては何一つ要求するものはない……例えばの話「話がこじれるから、今後こういう決闘みたいなことはやらないように」とか要求したら、それはそれで通るのかもしれないが、旅路に制約がついてしまうとストレスが溜まるだろうし個人的にはやめておいた方が無難だろう。


 正直そのくらいしかお願いすることもないので、実質俺から何か言及することはない……のだが、

 沈黙しているとクレアは俺に対し眉をひそめ、


「……何もないのかしら?」

「いやまあ、そうだな……」

「どんな要求でもいいわよ?」

「……俺としては普通に仕事してくれればいいから。本当にそれだけでいいから」


 と、言及してはみたもののなんだか納得がいかない様子。なぜそっちが納得しないのだろうか……。


「逆に何もないのは戸惑うのよね」

「それもどうなんだろう……まあいいや。明日以降はきちんと働いてくれよ」

「ええ、わかったわ」

「あ、ちょっと待って」


 ん、突然リリーが剣を抜き放った。あ、これはもしや、


「……戦う気か?」

「ええ、もちろん」


 何がもちろんなのか……。


「クレアとしては連戦でも構わないのよね?」

「ええ、いいわよ」


 あっさり乗っかるし。この二人の戦闘狂っぷりは頭を抱える次第であった。


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