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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第二章
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奥義

「さて、今の魔法がどんな効果なのかはそちらも理解しているはず」


 俺は杖を構え直し、クレアへ宣告する。


「動くにはそう不便なレベルにはならないはずだが……そのわずかな変化がこの戦いでは致命的であると理解はできるだろ?」

「これで、勝負ありと言いたいのかしら?」


 クレアの問いに俺は小さく肩をすくめ、


「ゼルーファの槍術を踏襲している俺に、動きが鈍って勝てる見込みはあるか?」

「……厳しいけど、あきらめるという選択肢はないわね」


 なら、やるしかないか――そう結論づけた瞬間、俺は踏み込んだ。

 クレアを間合いに入れた瞬間に刺突が放たれる。彼女は即応し攻撃をかわしたが、途端に険しい表情をした。


 続けざまに俺が放った二撃目も彼女は剣で防ぐ。だがその動きがワンテンポ遅かったのを見逃さなかった。

 麻痺の効果については微々たるものであり、ほんのわずかに動きを遅らせる程度の効果しかない。しかし達人クラスの戦いとなれば、そのわずかが生死を分ける。俺はさらに槍を突き続け、クレアはそれを防ぐが……確実に動きが遅れ始めている。


 このまま押し込めば、いずれどこかで破綻する――クレアもそれは認識したらしく、やや強引に距離を置こうとした。俺はさらに突撃しながら魔法の準備も始める。この行動、クレアも悟ったらしく、窮地だと思ったはずだ。

 下手すると、次の攻防で決まるかもしれない――予感を抱いた時、クレアの行動に変化が。俺の間合いから脱し、なおかつ魔力を発し迎え撃つ構えを見せた。


 魔力で体を無理矢理強化し、虎口を脱したか……本来、魔装は適正な魔力により扱われる。魔力を注ぐにしても武具には限界もあるはずで、許容量を超えて注いでも満足な効果は得られない。今みたいな風に魔力でバーストさせて急速に動くことはできるが体にも負担が掛かる……実際、クレアの表情はさらに厳しくなった。


 追撃しても良かったのだが俺はしなかった。ある程度動きを鈍らせているとはいえ、後退は誘っている可能性もなくはない。徐々に窮地へ追いやっているとはいえ、一発でひっくり返されるだけの技量を持っている。麻痺はいずれ元に戻るとはいえ時間にすれば一時間くらいはもつ。ここは腰を据えて戦うことにする。

 一方でクレアとしては剣を構えたまま動かない。麻痺がそう簡単に治らないとわかっていることに加え、こちらは徐々に削りきればいいため、迂闊に攻めたらさらに不利となる……で、あれば次の一手は何か。


 沈黙が生じる。リリーの方も固唾を呑んで見守る様子で、不思議な静寂が訪れた。

 おそらくそれは一分ほどだろうか……やがてクレアが息をついた。


「姑息、とレイトじゃなければ言うところだけど」

「さすがにゼルーファの能力全てを再現できるわけじゃないし、このくらいは魔法の範疇だろ。俺だって馬鹿じゃないし、ゼルーファの技量に頼り切るなんて愚は犯さないさ」


 決然とした主張にクレアは再度息を吐く。


「うん、理解できたわ……こうなってしまうといつか槍が当たって終了ね」

「負けを認めるのか?」

「いやいや、まだ手は残されているから」


 一転、不敵な笑み。それを見た瞬間、俺はなんだか嫌な予感がした。

 なぜかというとその表情は子どもが悪戯を成功させたような、ずいぶんと無邪気かつ悪巧みをしていそうな雰囲気だったからだ。


「そうね、本来は体がきちんと動く状況でやりたかったのだけれど」

「……何をする気だ?」

「簡単な話よ」


 クレアは静かに魔力を高める。ただしそれは明らかに今までとは異なる変化。


「私の最終奥義を使うわ」

「――ちょっと待て」


 俺は思わずツッコミを入れた。


「最終奥義!? それってこういう決闘の場で使うものだったか!?」

「窮地に立たされているのよ。なら使う他ないでしょう?」

「いやいや、待てって……それ、まともに食らったらどうなる?」

「んー、そうねえ」


 クレアは魔力収束を続けながら俺へ述べる。


「体がバラバラになるかな?」

「殺す気か!?」

「レイトなら即死は防ぐでしょう?」

「即死……つまり、死ななきゃ別に良いと?」

「そうね」


 いや、さすがにまずいのでは……俺はクレアの持つ魔力の動きを見据える。今までも彼女の体表面には防御するための魔力が備わっていた。それは魔物などと戦う際に使用される防御結界の一種で、体に薄い膜のようなものを張り付けているような形。これが分厚いと結界維持に相当な魔力を消費するが、逆に薄すぎると今度は防御効果を果たさなくなる。対策としては魔力が薄くてもきちんと防御できるくらいに結界の練度を高めるか、あるいは外部から魔力を供給するか。結界構築のみに特化した魔装とかも存在しているので、それで補うか。


 クレアの場合は練度を高め、薄くてもきちんと防御効果があるようにしている様子。まあ強力な防御効果を持つ魔装は他の魔装と喧嘩するので、理想としては練度を高めた方が余計な魔装を使わずに済むので理想的ではある。クレアの場合は元々の魔力が少ないこともあって、防御は練度を高めた最小限で魔装は攻撃のみというスタイル。その魔力が、腕を中心にして回転を始めている。


 たぶん魔力をそのものを回転というか螺旋のように動かして強力にするって感じかな……膜のように張り付くだけでは攻撃能力はないけど、クレアのようにすれば攻撃に魔力を使うことができる。ただ、防御能力はなくなるけど。


「攻撃に特化したってわけか」


 俺の言及にクレアは「そうね」と答え、


「それでは、勝負といきましょうか」


 ……これ、下手すると死人が出るってことは本来なら止めるべき案件ではないだろうか。

 俺は一縷の望みを賭けてリリーへ視線を送った。この状況下で止めに入ってくれるかも……あ、クレアをガン見している。


 どういう技法なのかをしっかり観察してあわよくば模倣しようとか考えているな……となれば、止めに入るはずもない。


「……はあ、わかったよ」


 俺はあきらめた声を出しながら、クレアに呼応するように魔力を高めた。双方の魔力が大気を通して混ざり合い、濃密な気配を生んだ。

 クレアは最終奥義と呼んでいたが、それは例えばゲームに存在する特殊な技とか、そういう類いではないだろう。おそらく今見えている螺旋に回転する魔力収束……リスクはあるにしろ爆発的な攻撃力を得られる。それこそが本質と解釈していいはずだ。


 あれを杖で受ければどうなるのか……念のため杖の先端に存在する結界に魔力を注ぐ。防御力を高めた上、左手に魔法の準備をしておいて――こっちの準備は完了だ。

 麻痺の効果などがどれだけ影響してくるのかも鍵だな……もう一度くらい同じ魔法を行使してもいいかと迷ったが、クレアだって地面は警戒するだろうし、さすがに二度も同じ手を食らうとは思えない。ここは正攻法がベストかな。


「用意は、いいかしら?」

「……いつでも」


 こちらがそんな応答をした時、クレアは駆けた。麻痺の影響をほとんど受けていないように見える――これは最終奥義によって、麻痺の効果を無理矢理抑えつけたことによるものか。

 ならば、最大限のパフォーマンスで挑んでくる……そう確信した直後、俺は彼女と杖をぶつけ、金属音が鳴り響いた。


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