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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第一章
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彼女の記憶

 胸中で膨れあがる疑問を抑えつつ、俺はリリーと共に飲食店へ。時間は昼食にしては遅く、夕食にしては早いという中途半端な時間。よって店内には誰もおらず、客席には俺達だけぽつんと存在する形に。

 店員に注文を済ませた後、俺はどう切り出すかと悩む。それに対しまずリリーから話し掛けてきた。


「まず自己紹介からね。私の名は――」

「リリー=ネクロアだろ? 登場した時バッチリ宣言していたじゃないか」

「そういえばそうだった」


 あはは、とリリーは笑い、目でこちらに自己紹介を要求してきたので、


「レイト=ツカマチだ」

「……ツカマチ?」


 首を傾げる彼女。一応、レイトという名前は語感的にも存在し得るのだが、さすがに姓名の方はいない。聞き慣れない響きだろうし、以前自己紹介した時も同じような反応だった。


「ああ、そちらには奇妙に思える名だけど……俺の故郷ではそんなに珍しくはない」

「この国の人間じゃないってこと? ふむ、さすがにそれは想定していなかった」

「そうだろうな。で、このイファルダ帝国を訪れるに際し基礎的な情報は頭の中に叩き込んできたんだが、時勢には詳しくない。だから帝国の現状について教えてもらえると助かる」

「わかった」


 リリーはあっさりと同意。それから俺達は、食事をしながら情報交換することとなった。






 彼女から聞いた情報を頭の中で考慮した結果、間違いなく最終決戦の時から過去に戻っていることを確信させられた。

 しかもその年代は俺が召喚された直後とほぼ同じ。つまり三年前……なおかつリリーは俺が以前召喚されたのとほぼ同じ場所にいた。それらの事実が過去であるという事実をより強固なものにする。


 とはいえ、全てが同じわけじゃない。魔物が襲撃した際、前回は商人などいなかったわけで、この辺りは記憶に留めておこう。

 そして、予想外の形で舞い戻ってきてしまったわけだけど……、


「それじゃあ私から質問ね」


 思考している間にリリーが口を開く。一通り情報を受け取ったので、次は彼女の番だ。


「その魔装について興味を持ったから、どういう効力があるかを教えて」


 ……さて、どう説明したものか。さすがに前回とは状況も異なるから真っ正直に「魔法です」と語っても信用してくれない可能性が高い。ここまで俺に対し関心を抱いていることに加え、魔物を葬ったこともあってそれなりに信頼を持って接しているみたいだが……真実を伝えてどうなるかわからない。

 ここは適当に説明を加えてひとまずお茶を濁すか。なおかつ問題はこれからどうするか、だよな。


 今が過去なら俺がやることは当然『闇の王』による世界蹂躙を防ぎたいのだが、それには現時点で情報が少なすぎる。あれがどういう存在なのかもほとんどわかっていないのだ。その情報などを得る候補はあるのだが、リリーについてはどうすべきか。皇女としての地位などは『闇の王』と戦うなら必要になってくる。よって、俺としては心情的にも手を借りたい。

 ただ皇女としても身分を隠しているので、こちらが指摘すれば当然怪しまれる……ひとまず出会いは違うけど前回と同じような流れで一緒に旅をして信頼を得ればいいだろうか?


 現時点で魔物を倒したこともあって、興味と共にそれなりに信頼を得ているようだから……ただ「仲間にしてくれ」と唐突に要求しても厳しいかな。前の時は俺のことを放っておけないため同行を許可したけど、基本彼女は一匹狼だから。

 ならやることは俺に興味を抱かせて、旅をするように仕向けることか……できるかどうかわからないけど。


「そうだな、まず……」


 俺は説明を始めることにして、リリーと目を合わせる。その瞳は好機に満ちており、オモチャを心待ちにしている子どものような純真さがあった。

 戦いのことに関しては、本当に食いつきが良かったからな……どこまでも目を話さない彼女に対し内心で苦笑しつつ、口を開こうとした――その時だった。


 俺はふと、彼女の瞳の奥に「何か」を見つけた。それは本来目を合わせる程度のことで感じるはずのない、違和感。

 小さなものではあったが、目を合わせた瞬間明確にわかった――その瞳の奥に、何か魔力を感じたのだ。


「……どうしたの?」


 さすがに瞳を覗き込む俺にリリーは訝しげな声を発した。けれど俺は……構わず、その違和感の正体を探ろうとした。

 体を動かしたわけではない。けれど感覚的には何か光り輝いているものを触るように、魔力を発してリリーの瞳に奥にある魔力に――触れた。



 パチリ。



 火花が散るような音を、俺は耳にした。頭の中で発せられたと思しきそれを聞きながらなおもリリーを見据えていると、彼女の表情が変わり始めた。


「……あ」


 彼女は声を出す。ただそれは先ほどまでのように陽気なものではなく、喉奥から必死に絞り出すようなもの。

 急に――俺のこと見て驚くような顔つき。それと同時には俺は察した。これはもしや。


「……どうした?」


 問い掛けにリリーは何も答えない。けれど視線は外さないままであり、沈黙が生じる。

 俺達以外客のいない店内で、静寂が訪れる。時間にしてたぶん一分にも満たない時間だったはずだが、俺としては長く感じた。きっとリリーも同じことを思っただろう。


 そして、


「レ、レイト……?」

「……思い出したのか?」


 尋ねてから、この言い回しはさすがに違うのではと思った。とはいえこれ以外の形容が見つからない。

 最終決戦から過去に遡っている以上、その時の記憶が『戻った』という表現は時系列的にあり得ない。けれど俺が先ほど干渉したために記憶を取り戻したみたいだし、これは一体どういう仕組みなのか――


 考える間にリリーはコクコクと頷いた。次いで、


「……どうして、戻ってきたの?」

「お前、思い出して最初の発言がそれかよ」


 途端、リリーの表情が変わった。具体的に言うと「あ、まずい」という感じのばつの悪そうな顔である。


「あ、あー、えっと、それは……」

「……まあいい。俺としてもわからないことだらけだから、ひとまず最後の最後で俺を送還した理由を尋ねるのは後回しだ」


 それを聞いてリリーはちょっとだけ安堵したようだったが、俺は追い打ちを掛けることにする。


「ともあれ、本題に入るとメシが不味くなりそうだから話は止めて、まずは腹ごしらえだ。その後、たっぷり聞かせてもらうからな」

「う……」


 困った顔をするリリー。ただお腹は減っているのか食事は進む。


 ――正直、わからないことだらけである。俺との記憶があることなど、困惑させることばかり。

 しかし決して悪い方向ではない。むしろ話がとても早くなった。『闇の王』に対抗するべくどうするのか……それを彼女と相談することができる。思うところはたくさんあるけれど、それはひとまず押し殺す。


 よって黙々と食事を進めることにする。ただ双方ともすぐにでも状況確認をしたいためか、いつもよりも食事のペースが早く、味わう暇もないままあっという間に平らげ、店を出ることとなった。


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