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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第二章
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技法の体得

 リリーの合図と共に動いたのはクレア――まさしく電光石火の踏み込みで、俺が動き出すより先に仕留めようと刃が飛んでくる。

 しかし俺は彼女の動きに合わせて杖先に魔法を起動させた。それはイルバドが巨人と化した際に使用した、防御結界だ。


 彼女の刃が届くより先に杖がかざされ結界と刃が激突する。それと共にキィン、と乾いた音が聞こえた。金属同士がぶつかったような音にも思えるが、少しばかり違うと俺は確信していた。


「……いきなり全力か?」

「当然よ」


 クレアは不敵の笑みを浮かべながら答えると、一歩後退。


 ――彼女の剣戟には、『闇の王』眷属に対し使った「剣を振ったら相手の体に斬撃が刻み込まれる」技が用いられていた。結界を貫通することはできないみたいなので、杖をかざしたことで防ぐことはできたみたいだけど、


「相手が相手だからね……どれだけ戦歴があっても魔法使いと戦うなんて初めてだし、まして」


 彼女は一度言葉を切る。


「――魔法の王と戦うのだから、手を抜くなんて失礼でしょう?」

「別にそう大層なものじゃないと思うけど……」

「ずいぶんと謙遜するのね」


 謙遜って……。


「決して、大層に言っているわけではないのよ。レイトという存在は『前回』の戦いでリリーと共に民衆の希望となっていた。その実力もまさしく噂通り……いえ、それどころか噂を軽く上回るだけの力を持っていたし、誰もが称えていた」

「希望……ねえ」

「それだけのことをあなたは『前回』成したということよ」


 剣を構え直す。正攻法が通じないとわかっているはずだが、それではどうやって戦うつもりなのか。

 再びクレアは疾駆する。先ほどと同じような動きに見えるが……俺は後退しながら杖をかざし防御に移った……同時、刃が結界を駆け抜けた。防ぎきったが……いや、待て。


「少しばかり、破壊したか?」

「今のは結構自信があったんだけど」


 クレアは応じる。見た目は同じだが、どうやら先ほどとは仕組みが違うらしい。

 見た目が同じでも技法には種類があるってことか。俺は再度結界を強固にした後、一歩後退。


「逃げてばかりじゃ勝てないわよ?」


 俺はそう言われたが動かない。クレアとしてはどう感じるのか。

 彼女は目を細め、こちらの様子を窺う――正直、攻勢に出てもさばかれるだけだろう。むしろ手痛い反撃を食らってお仕舞い、なんてことになりかねない。


 攻撃しないのは、隙がないというのも関係しているのだが……この辺りはリリーと決定的な違いだな。彼女と対峙するのは慣れているのも関係していると思うが、リリーは狙い目などが見つかる。クレアについては物腰自体に隙が無い。もしこちらが攻撃魔法を撃つ動作を行ったら、そこに狙いを定めて突っ込んでくるだろう。

 カウンター狙いの方がいいかなあ、と思うのだが……さすがにそれは読まれているか。とすれば、他に方法は――


「……うん、そうだな。これにするか」

「お、戦法が決まったのかしら?」


 クレアが問い掛けた矢先、俺は静かに魔力を高める。とはいえクレアは仕掛けてこない。こちらもまた隙が出ないように気を遣っているからな。

 では……魔法発動。といっても攻撃魔法の類いではない。これまで使うことのなかった、『闇の王』相手に出番がなかった特殊な魔法だ。


 クレアもその魔力がずいぶん変だと感じたか眉をひそめた――直後、俺は足を前に出した。

 攻撃が来る、とクレアは警戒。ただ攻撃魔法ではなく接近戦だとわかったためか、構えただけでこちらに斬撃が飛んでこなかった。たぶんだが接近戦となれば反応速度などを考慮して自分に分がある。よって後手に回っても受けることができるという判断なのかもしれない。


 そんな風に考えるというのは、ずいぶん技量に自信がある証拠……では、この攻撃だとどうなのか。


 杖がまるで剣を薙ぐように放たれる。俺は杖全体に魔法強化を施しており、特に先端が強固……槍を模した鋭いものとなっている。よって、まともに食らえば切り傷が体に生まれるのだが――

 クレアはまず俺の杖を防いだ。金属音が弾け杖先から衝撃が腕を伝ってくる。


 まともに考えれば、今のリリーを余裕で倒したクレアを俺が接近戦で倒すなど狂気の沙汰である。まして俺は魔法は使えるけど武術など習ったことがない。文字通りのど素人。そんな俺が直接打ち合えば、当然無駄な隙を晒すことになりあっけなくさばかれる。そう思うところだ。

 しかし、そうはならなかった。クレアは俺の剣を弾くとあろうことか後退する。俺の動きはあまり隙がないようで、彼女は警戒した様子だった。


「……それは」


 小さな呟き。俺の行動により、何かを察した様子。

 ならば、とクレアは逆に踏み込んだ。こっちの魔法が何なのかを探るような動き。流麗の足さばきにより一瞬で間合いを詰めた彼女は、強烈な振り降ろしを俺へ叩き込もうとした。


 こちらは斬撃をまずは杖を掲げて防ぐ。直後、剣と杖がぶつかり合い、せめぎ合いに――ならなかった。

 杖でクレアの剣をまずはいなす。次いで針に糸を通すような小さな隙を狙い、突きを見舞った。攻撃は……成功したかに見えたが、クレアはどうにか剣を引き戻すと杖を弾き再度後退した。


 俺は黙って杖を構える――ここまでの戦い、俺は異常だと言って良かった。そもそも普通ならばクレアの剣をいなすことなど不可能であり、またリリーですら探し出すことができなかった隙を武術素人の俺に見つけられるはずもない。行動の全てに疑問符がつく。俺は一体何をしているのか――


「……はは」


 そうした中で、どうやらクレアは確信を得たらしい。


「はははは! まさか……そんな隠し球があるとはね!」


 笑い始める。その気持ちは理解できるのだが、


「悠長に笑っていていいのか?」


 言葉と同時、俺は踏み込む。杖を槍のように放つと、クレアはすんでの所でかわした。


「おっと……さすがに『彼』が相手だと油断はまったくできないわね」

「……レイト、どういう理屈?」


 リリーが横から割り込んできた。そこで俺は、


「実験、ということで色々とやらされた結果だよ。半ば趣味みたいなものだったから、報告する機会がなかっただけさ」

「趣味……それはレイトの? それとも――」


 リリーは杖を見据えながら問い掛ける。


「技法の本家本元である、ゼルーファの趣味?」


 ゼルーファ、とは俺やリリーと共に戦っていた騎士の名前だ。帝国随一の槍使いであり、その技量は大陸全体を見回してもごくわずか――などと誰かが噂していた。真偽の程はさだかではないが、そう語ってもおかしくないほどの技量を所持していたのは間違いない。

 俺はよくゼルーファの訓練に付き合っていた。理由としては彼が『闇の王』との戦いに備え予行演習をしたいと言い出したため。だから俺の使い魔を利用して槍の鍛錬をしていたのだ。


 イファルダ帝国に外敵となる国家は存在していないので、騎士達の役目は主に魔物を狩ること。特にゼルーファはそうした討伐経験を豊富に持っている人物であったのだが、そんな彼でも『闇の王』については脅威だと感じ、対策を欲していた。そこで目をつけたのが俺だったのだ。


 つまり、俺の使い魔を生み出す能力……自由自在に作れる能力を利用して、様々な魔物に対し戦うという訓練を行っていた。あるいは眷属の姿形などを模して、演習をしていた。そうした中で、俺は彼の技法を得るに至ったのだ――


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