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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第二章
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事情説明

 眷属を倒した後、元来た道を戻り俺達はルーガ山脈を後にする。滞在時間はそれほど長くはなかったにしろ、全力戦闘を行ったためにクレアやリリーは少しばかり疲労していたようだった。


 町に戻り、その夜俺達は改めて作戦会議……というかクレアに事情説明を行うということで夕食がてら酒場へ集まった。ただし今回は俺がクレアのいる店へ赴いたのではなく、俺達が使う酒場の席。


「さあて、ゆっくり聞かせてもらおうかしら」


 にこやかにクレアは語る……うん、この様子だと信頼は得ていると考えてよさそうだし、記憶を戻すことには成功するかな?

 とりあえず注文を済ませた後、俺は改めて口を開くことにする。


「……さて、クレアが気になっている魔物についてだけど、それを説明する前に、どうして俺達があの魔物を追っているかなど、経緯から話さないといけない」

「込み入った話ってこと?」

「そうだな。背景をきちんと話さないと理解してもらえないんだよ。色々と複雑でね」

「そういうことに首を突っ込んでいるというのは、物好きなのかしら?」

「正直、関わったのは偶然だからな……ま、そういうことになってしまった以上、仕方がないと割り切ったけど……あ、別に事情を説明したから手伝ってくれとは言わないから。ただし、他言無用で頼むぞ」

「ええ、わかったわ」


 クレアは笑顔のまま。こっちが事情を話す……つまり包み隠さず語るということは、自分自身に対し信頼を抱いている……彼女はそう解釈しているのかもしれない。

 そんなことを思いながら俺はクレアを目を合わせた。三度目ともなれば瞳の奥にある魔力に触れるのもずいぶんと慣れた。さて、どうなるか――



 パチリ。



 その時、確かに俺は聞こえた。これは間違いなく、成功だ。


「……え?」


 クレアは一つ呟く。次いで自分の状況を確かめるように酒場を見回した。


「……えー、っと」

「思い出したか?」


 こちらの問い掛けにクレアは俺を見返す。さらにリリーへと視線を注ぎ、


「……ほうほう、なるほど、なるほど」

「なんだか納得しているように呟いているけど……本当にわかっているのか?」

「さすがになんでこんなことになっているのかはわからないけど、私に対し何をしようとしたのかは理解できたから……まさか記憶が戻ってくるとは」

「そうだな……と、挨拶が遅れてしまったが」


 俺は、クレアへ告げる。


「久しぶりだな、クレア……こうやって言うのもなんだか変な気もするけど」

「私としてはその認識で合っているから問題ないわ。久しぶりね、レイト……というか、戻ってきたのね」

「リリーの手によって強制送還され、それを問い質すために戻ってきた。結果として『闇の王』が現われる前の時代に戻ってきたけど」

「ははーん、それで『闇の王』を倒すために旅をしていると……ああ、昼間戦ったのは眷属かあ。だったらあそこで倒すのは納得がいくわね」


 状況を飲み込み始めるクレア。そこまで理解してくれたのなら、説明も早いな


「俺がこの世界へ舞い戻ってきてそれほど日が経っているわけでもない。けれど、事態は大きく進展している。それを今から説明し、今後どうするかを協議しよう」

「わかったわ」

「……確認だけど、一緒に旅をしてもらえるか?」

「他ならぬレイトとリリーの頼みなら、仕方がないわね」


 にこやかに述べる彼女。ただ、


「でも、可能なら旅費はそっちでもってくれると助かるなあ」

「……オディルさんからも援助を受けられるだろうし、旅費については必要経費としてとうとでもなるだろ。リリー、どうだろう?」

「いけると思うよ」

「おお、『森の王』も味方に付けたのか。それは心強いわね」


 楽しそうに語るクレア。その様子は紛れもなく、俺達と共に戦った彼女の姿だった。






 そこから俺とリリーはこれまでの経緯を説明する。といっても、正直話せる内容としては三十分くらいで終わるもので、


「はあー、なるほどねえ」


 クレアはしきりに頷きながら聞いていた。


「うん、これまでの経緯については理解できたわ……私としては『闇の王』との戦いだし、リベンジするという意味もあるし、是非とも協力させて」

「ありがとう……ちなみにだが、クレア。最終決戦のことについてだが――」

「リリーが核を傷つけた、という点よね? 残念だけれどその後どうなったのかわからない……リリーが激闘を繰り広げている間に私は闇に飲み込まれたし」

「飲み込まれた後、どうなったとかは……」

「うーん、記憶がないわねえ」


 謎が深まるばかりである……とはいえ、わからないのならば議論しても始まらない。


「わかった。なら『前回』の顛末についてはこれで終わりにしよう。で、これからについてだけど」

「レイトはあの魔物が人為的なものだと考えているのよね?」


 クレアからの問い。俺は深々と頷き、


「ああ、そこは間違いないと思う。『闇の王』がまとう魔力を所持していたことからも、あの魔物がイルバドのように闇の魔力を注いで形作った存在だとわかる」

「その犯人……ひいては『闇の王』に付き従う存在がどこかにいると」

「そうだ。でも、付き従っているからどうかは微妙だな」


 イルバドについては情報提供者といった雰囲気で、主従関係のようなものは存在していなかった様子。今回眷属を作った者も似たようなケースである可能性はありそう。


「俺とリリーはアゼルの所へ行こうとしていたけど、予定を変更してルーガ山脈の調査に入る。アゼルと合流してから調べてもいいが、眷属を一体撃破してしまったわけだし、何が起こるのかわからない。最悪ルーガ山脈を根城にする眷属作成者がどこかへ逃げるか、何らかの理由で暴れ出す可能性もある。足取りをつかむには、明日にでも調査に入って探したい」

「時間との勝負ってことか。私も賛成だし、それでいいわ」

「私も」


 クレアに引き続きリリーも同調。ならば、


「なら明日も同じ時間にこの町を出発しよう。とにかく、『闇の王』に関連する人物……ひいては情報提供者についても手がかりが得られるかもしれない。かなり重要な調査だから、気合いを入れてくれ」


 こちらの号令にリリーもクレアも「もちろん」と答えた。


「私は今いる宿を引き払ってこっちに来るわ。その方が都合がいいでしょ?」

「ん、いいのか?」

「ええ、記憶も戻ったからね……あ、それはそうとリリー。再戦だけど、どうする?」

「今はまだ、いい」


 ――記憶まで戻ってしまったら余計に勝ち目がなくなるからな。するとクレアは「そう」と言いながら笑い、


「私はいつでも待ってるわ。これから一緒に行動するわけだし」

「うぐぐぐ」


 なんだか悔しそうなリリー。そんな表情しなくても……。

 一方のクレアは宿を変えるために席を立ち、酒場を後にした。そんな彼女を見送り、俺は一言。


「成功だけど……リリー、仲良くしてくれよ」

「それはクレア次第だね」

「おいおい……」


 大丈夫なのかと心配になりつつも、こればかりは俺の魔法でも対策しようがないため、祈るしかない。

 リリーとクレア、どっちかに言い含めても意味はないか。二人は両方突っ走るタイプなので必然的にストッパー役は俺になる。不安だ……。


 アゼルがいたらもう少し変わるんだろうけど……よし、この仕事が終わったらすぐにアゼルの所に向かおう。そう固く誓い、俺もまた宿へ戻ることにした。


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