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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第二章
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眷属への疑問

 クレアの斬撃はまさしく必殺の剣。彼女としても渾身の技を決めたはずで、また同時に手応えを感じたか、


「よしっ!」


 そんな声をはっきりと耳にする。そして眷属は……体に加え頭部にはっきりとした裂傷が刻まれている。


 ダメージは深いのか体の軸が定まっておらずふらふらしている。これなら足を狙えば倒せる可能性もあったが……俺は事の推移を見守る。そもそも爆発攻撃はいかなる体勢でも使用可能だ。横倒しにしたからといって油断はできないし、むしろ地面に設置している分だけ地面などの炸裂範囲が広がる。下手すると面倒なことになるかもしれない。


 リリーはそこで魔力を高めた。体勢を立て直す間に魔力を高め、次の一撃で決着をつけるつもりなのか。

 ここは彼女に任せるべきか。眷属の魔力もずいぶんと弱まっているし、次の攻撃で……そう思った矢先、クレアが動いた。どうやら完全に動きが止まっている眷属に対し、さらなる追撃を仕掛けようという魂胆らしい。


 それもまた選択肢であり、同時に俺は有効打かもしれない――と思ったのだが、そこでかすかに……眷属の魔力が、揺らいだのを感じ取った。それは攻撃を受け続けて右往左往しているというよりは、攻め込むクレアを迎え撃とうという魂胆が見え隠れするもの。

 直後、俺は罠かと断じ右手で結界魔法を使うのを維持しながら、左手でさらなる魔力を収束。加え、すぐに使えるよう杖を構えた。


 刹那、俺の予感が的中する。再度見えない刃による斬撃を放とうと振りかぶった彼女に対し――眷属はよろめいていた体勢から突如、手を伸ばした。


「――え」


 反撃してくるにしても予備動作はあるだろうというクレアの推測を、真っ向から否定する動きだった。タイミング的にさすがのクレアも回避が間に合わない。

 そこで俺が反応――左手に収束させた魔法を、発動させた。


 それは、突風を巻き起こすもの。といっても攻撃能力があるわけではない。風は俺の真正面から眷属へ向け放たれる。それが腕に直撃し――動きを、押し留めることに成功した。

 なおかつ風によりクレアの体が煽られ、足が地面から離れた。突然の出来事に彼女は困惑した様子だったが……半ば無理矢理後退させることができた。


 そして地面に足が着くとたたらを踏んだので、背後で腰くらいに手をやって支えてやる。


「大丈夫か?」

「……これまた、ずいぶんと強引な助け方ね」

「一番理に適っていると思うけどな。実際魔物の動きを止めることもできたし」


 眷属は再度俺やクレアを巻き込んで爆発しようとするが、それを三度結界を張ることで未然に防ぐ。うん、これについても問題ないな。


「思わぬ攻撃を食らいそうになったけど……ダメージはしっかりと残っているはずだ。後もう一押し、といったところかな?」

「そうね。それでリリー、どうするの?」

「あー、リリー。俺としては――」


 視線を転じて意見を聞こうとした矢先、一つ気付いた。

 リリーが嫌なことでもあったように、むくれている。


「……どうした?」


 問い掛けた直後に俺は察した。あの、その、俺がクレアを支えながら助けたことに、なんだかご不満でいらっしゃる?


「……何でもない」


 確実に何かありそうな返答だったが、彼女はひとまず表情を戻し、


「さっきの奇襲を踏まえ、とにかく深追いはしないこと。爆発はレイトの魔法で防げるから、とにかく回避する余裕を保てば勝てる」

「堅実的な策で倒そうってことか」

「そうだね。持久戦になるけど」

「ま、それがよさそうね」


 クレアも同意しながら、剣を軽く素振りした。


「無理に突っ込んだらさっきの私みたいになる……ごめんなさいね、レイトに助けてもらって」


 あ、クレアは察しているな、これ。ただそれ以上の言及は避けるのか彼女は表情を戻し、


「よし、仕留めるべく動きましょう。ついてこれる?」

「その言葉、そっくり返すよ」


 そんなやり取りを交わしながら……リリー達は、再び眷属と交戦を開始した。






 爆発攻撃を的確に封じることができれば、リリーとクレアの連係攻撃により確実にダメージを与えることができる……二人は幾度も眷属の体に傷を付ける間に、俺は一つ気付いたことがあった。

 それは目の前の敵が、十中八九『前回』と比べ弱いこと……いや、弱いというのは語弊がある。よりしっくりくる言い方をすればまだ完成に至っていない。


 『闇の王』が眷属としてこの魔物を生み出した……というよりは、『闇の王』に付随する存在――『闇の王』の力を手に入れようとした存在が作り上げた存在だと仮定するのが一番納得がいく。イルバドが仮面野郎と手記で述べていた存在が『闇の王』に関する情報を教えているのだとしたら、他の人間にも同様に教えていると考えていい。


 その中の一人がルーガ山脈周辺を根城にしていて、目の前の眷属を作り上げて『前回』蹂躙を行った……『前回』制作者はどういう結末を迎えたのだろうか。それについてはわからないが、少なくとも世界を飲み込もうとする『闇の王』は眷属達を利用したのは間違いない。

 これは闇の力を利用した魔物を『闇の王』は無条件で操ることができるのか……で、今はその実験段階ではないか。そんな風に俺は考えた。


「これで――終わり!」


 そうしたリリーの掛け声が森の中で響いた。彼女は『虹の宝剣』から射出した風の刃を、眷属の頭部へと叩き込んだ。

 結果、ようやく魔物が膝から崩れ落ち、消滅へ向かう……戦闘時間はおよそ十五分ほど。クレアについてはヒヤッとなった以降は安定して戦い続け、結局怪我はなく戦い終えた。


 リリーもそれは同じで、二人はやりきったという達成感がその身を包んでいる様子……ふむ、俺も魔法という手の内を見せたわけだし、クレアも結構な技を示した。多少なりとも信頼性は得られたかな?


「二人とも、お疲れ」


 俺は告げながら二人を確認。戦闘が始まる前に掛けた魔法はまだ維持されているが、効果が途切れるまであと五分ほどだろうか。そういう意味では結構ギリギリだったか。


「幸い、怪我もなく倒すことができたな……」

「そうね。それは良かった」


 クレアは俺の言葉に応じながら剣を鞘に収めた。


「で、だけど……あの魔物は一体?」

「あー、説明は……後にしようか。さすがにあのデカい魔物を倒して調査を続行というのも辛いし、町へ戻らないか?」

「そうね。けど、倒した証明は何もないわね」


 塵となっていく魔物を見据えながらクレアは言及。うん、これだとギルドからは報酬を受け取ることができないのだが、


「もしあれだったら、俺達が頑張った分を支払うよ。条件通りに」

「大盤振る舞いねえ……ま、もしよければ手を貸すわよ。もちろん、相応の追加報酬はもらうけど」

「無一文にならないよう気をつけないといけないな」


 冗談っぽく述べる俺にクレアは笑った。


 ……とりあえず、クレアとの信頼関係を築くというミッションも成功といって良さそうだ。ただ、新たな問題が発生した。

 『闇の王』の眷属……眷属と呼ばれる存在は『前回』、先ほどの魔物以外にもいた。そいつらもまた、同じように誰かの手で作られたのだろうか?


 だとすれば放置はできない、このルーガ山脈を調べる必要がある。もっとも、かなり広大故に俺やリリーだけでどこまで立ち回れるかわからないけれど……。

 しかしやるしかない。リリーへ視線を投げると……こちらの内心を察したかのように、小さく頷いて見せたのだった。


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