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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第二章
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二人への援護

 俺はまず、リリーとクレア……特にクレアについては強化が必要だと思ったので、魔法を使って能力を底上げすることにする。ゲームで言うとバフ系の魔法だ。


「とりあえず、二人にはこれを」


 手をかざし魔法を発動。それにより見た目に変化はないが……リリーは慣れているので特に感想もない。しかしクレアは違った。


「……何これ?」


 自身の手を見ながら呟く――能力の底上げというのは、ゲームだと攻撃力が上がるとか、防御力が上がるとか、そういう具体的なものだが……現実で使用するとなれば少しやり方を変えなければいけない。

 というのも攻撃力を上げるというイメージだけを行って魔法を掛けても意味がない。それがどんな攻撃に対し効力を発揮するのかまで、指定しないときちんと効果が現われない。


 攻撃魔法であれば、火の玉を出すとか雷撃を撃つとかわかりやすいのだが、補助魔法とかだとこれが結構面倒なのだ。攻撃力を上げるといっても一概に色んなやり方がある。持っている剣の切れ味を増すとか、あるいは筋力を底上げするとか。より具体的なイメージがないと、効果がなかったりする。それで何度か失敗したことか。


 経験によって至った結論は、魔力の強化……本人が所持する魔力そのものを活性化させ、その効力を大幅に引き上げるのが最も有効だということ。これは結構練習が必要だったのだが、この世界に存在する魔力の理論に基づいた手法であり、魔装でもそうした補助能力を有するものがある。それを参考にして、俺は全能力を引き上げるバフを作成するに至った。


 ただ、欠点もある。まず時間制限が存在すること。魔法なので当然、効力を発揮する間は常に付与した魔力を消費し続ける。戦わなければ半日くらいはもつのだが、死闘を繰り広げれば戦い初めて十分程度で消費してしまうなんてこともある。


 俺もできるだけ維持できるように魔法を付与しているし、今回の相手については効力が最後までもつようにやっているつもりだけど……で、欠点はもう一つ。あまり強力な魔法を付与すると本来その人が所持している魔力そのものと反発するおそれがある。


 一応、阻害できないレベルで魔法を付与することができるし、今俺がやってみせたのはそのような手法だが……これだと当然効力が全力と比べて低かったりする。後はそう、装備している物に影響を受けやすいことかな。例えば最終決戦の際は俺の補助魔法よりも普通に各種族が持ち寄った武具で武装した方がよっぽど強かった。そこに補助魔法を、と普通は思うところだが、強力な武具については下手な魔法を弾いてしまうらしく、俺の魔法は効果を成さなかった。


 と、色々と欠点やら制約などがあるわけだが、今回については効果はある。まずリリーはそれほど重装備というわけではないし、魔力についても把握している相手だ。やりようはある。

 一方でクレアだが、こちらも装備という面では補助魔法を阻害するような物は身につけていない。よって俺の魔法が効いた。


「体内に眠る魔力を活性化させて、能力を底上げした。ただ、魔力を用いた動作をする度に付与した魔力は減っていく。それを感じ取ることはできるだろうから、あまり調子に乗りすぎないようにしてくれ」


 クレアの呟きに俺はそう返答したのだが……彼女が言いたいのはそこではなかった。


「いや、あの……あなた、動作もなく術式を付与したわよね?」

「ああ。魔法だ」


 特に隠すこともなく述べたその一言に、クレアは目を丸くした。


「戦う覚悟があるのなら、色々やらなきゃいけないからな……最初に言っておくが、別に隠していたつもりはなかったよ。ただ、そうだな……先日の決闘みたいに、あんな場所で見せびらかすような真似はしたくないから、目立つ場所ではやらないけどな」

「うんうん、良い調子」


 俺とクレアの会話をよそにリリーが体の感触を確かめている。俺の補助魔法を受けたのは数え切れないほどだったはずだが、今回もきちんと馴染んでいるようだ。


「……ふむ」


 と、クレアは俺と目を合わせ、


「つまり、こういうものを見せるくらいに、信用してもらえたと」

「そちらは噂を広めるような真似をしそうにないし、あの魔物相手だ。人に言われるのを恐れて魔法を使わず死なれたら寝覚めが悪いからな」

「なるほどね……なら、存分に使わせてもらうわ」

「魔法について、さらに詳しい説明は必要か?」

「魔力の感触でどんな効果があるのかはおおよそ見当がついたから、問題ないわよ。それで、あなたも戦闘には参加するのよね?」

「ああ、もちろん」


 ――自分にも補助魔法を行使。ただあまり強力にすると今度は使用する魔法の効力が落ちるとか、そういう危険性もあるのでほどほどに、である。


「俺が二人の援護をする……さっきも言ったがあの魔物は魔力を噴出して周囲を爆破する特性がある。接近戦よりは、ある程度距離を置いて戦った方が無難だと思う。で、肝心の問題だが……クレアは遠距離攻撃、できるのか?」

「魔装使いを相手にする以上、そのくらいは持っていないと勝てないからね」


 戦う手段は持っているようだ。なら、


「リリーとクレア、どちらが先陣を切るかは両者で決めてくれ。実力もわからないから、こちらでは判断がつかない」

「どうするのかしら?」


 クレアがリリーへ投げる。率先して私が、というよりは知識を持っていると思しき俺達の指示を待つつもりのようだ。


「……レイトは、どう考えている?」

「んー、そうだな。俺としてはクレアの能力についてはまだわかっていない部分もあるし……リリーが前に出るべきかな」


 クレアとしても指標があった方が戦いやすいだろうしな。


「まずは魔物と相対してみて、その具合でクレアがどう立ち回るかは……考えてもいいんじゃないか?」

「そうね、なら私はまず、リリーのサポートに回る。状況次第で独自に動くことにするわ」


 段取りは決まったな……俺は改めて魔物を見据える。悠然と歩く魔物の姿はこの森における主のようにも見える……あいつが『獣の王』などと言うつもりはないのだが、その風格は持っていると見て間違いない。

 ただそもそも『獣の王』は、自然発生した的な存在であり、目前にいる眷属は明らかに人為的に創出された存在だ。そういう意味では大きく違う。


「……よし、それじゃあ動くことにしようか。ただ、さすがに真正面に回るのは辛そうだな。横からか、あるいは背後から仕掛けようか」

「そうだね」


 リリーも同意。ならばと俺は先導する形で動き始める。

 それと同時に魔物の魔力について探りながら少しずつ接近する。もしこちらに反応したら即応できるように。


 さすがに川沿いを歩くのは危ないので、一度森に入って少しずつ魔物の所へ進む。魔物自身の歩みはかなり遅いので、俺達の足でも追いつくことはできそうだった。


「……戦いが始まったら、できるだけ短時間で片付けたい」


 道中、俺は所感を述べる。


「爆発する能力は際限がないから、一度守勢に回ったらこっちが圧倒的に不利だ。よって、攻撃し始めたら手を休めず猛攻を仕掛ける……というのが理想だけど、上手くいくかどうか」

「私達次第、というわけね」


 むしろ燃えるような様子を示したのがリリー。次いでクレアもまた似たような表情を見せる。

 ……この二人なら大丈夫か。少なくとも引き際はわきまえているだろうし、無茶はしないだろう。


 そうして会話をする間にも魔物へと近づく……決戦はもう間もなく始まりそうだった。


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