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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第二章
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魔物の山

 岩山を進み始めておよそ十五分後くらいだろうか……山の山頂から中腹までの様子を見上げることができた。どうやら俺達が進む道の先には森が広がっているようだ。

 とはいえ標高がある所では当然高い木は存在していないので、中腹よりも下くらい。なおかつここから起伏の激しい森を歩むことになるので、結構大変だな。


「面倒そうね」


 そんな呟きがクレアからもたらされる。


「人の手がまったく入っていないから、森の中だって進むのは大変そうだし」

「俺達がいるのは一応山に入るための道だけど、これも薬草などを採りに行くためのものだろうし、きっちり舗装されているような道は皆無だな……嫌になったか?」

「別に。逆にこういう場所の方がまだ見ぬ強敵に巡り会えるかもしれないわよね?」


 ウキウキしている……調査目的じゃなくて、完全に討伐する気でいるな。


「敵と遭遇したらどうするかは、相手次第だな……とにかく進もう」


 さて、俺は今一度頭の中でクレアの信頼をどう得るのかを考察する。といっても難しいことはそれほど必要がないとは思っている。

 クレアとしては、こうして仕事に加わってくれた時点でそれなりに警戒は緩んでいるだろう。ただしそこからもう一歩踏み込むには……つまり、記憶を取り戻せるまでに信頼を得るためには、ある手法が確実だ。


 それは何かというと、俺やリリーの本気を見せることだ……というのも、クレアとしてはこちらの能力の多寡などを見せていないため、その実力などを含めて未知の部分が多い。だから彼女としても警戒心などを緩めない、というわけだ。

 たぶん、力を含め俺達のことを明確にわかった時、信頼を得るというのが流れだと思う……理屈っぽく言っているが互いに背中を預けるようなことをすれば信頼してくれるという話で、魔物と戦い交流を深めれば条件達成は難しくないだろう。


 ここで大きな問題は、果たして強敵が現われるのかどうか……簡単に倒せる魔物であれば、信頼を得る以前の問題である。こっちの実力などをある程度認識した上じゃないとたぶん成功しない。よって、問題はこのルーガ山脈にそれほどの敵……『獣の王』と呼ばれるような存在がいるのかどうか。

 なんだか期待しているようにも思えるが、そういう敵と遭遇せずに信頼を得られればそれに越したことはないのだが――


「待って」


 リリーがふいに俺を止める。何を、と聞き返そうとした矢先、俺も気付く。

 思考していて反応に遅れてしまった……次からは気をつけようと心に思いながら、俺は真正面を見据える。


 小さな唸り声が聞こえる。それは岩山を抜けた森の入口周辺。とはいえこちらを威嚇するような声ではなく、弱々しいもの。

「魔物、みたいだけどずいぶんと弱っているわね」


 クレアも俺と同じ見解を抱いた様子。ただ、


「そういう演技をしている魔物、という可能性もある」

「あら、そんなことをする魔物が?」

「知性を持った存在であればやりかねない。魔物の中にはずる賢いやつもいるからな」


 実際、死んだふりする魔物に遭遇した経験もある……少し慎重に森へと近づく。ただ、魔力を探ればずいぶんと微弱なものであるとわかる。

 どうやら本当に弱っているらしい……さらに接近すると、森の入口の茂みに狼の姿を持った魔物がいた。赤い目に黒い体毛……どう考えても動物ではない。ただ、


「ずいぶんと、やられているわね」


 クレアは言うが、やられたというより死にかけだ。何せ下半身がない。動くこともできず倒れている。

 いずれ塵と消えるような存在ではあるのだが……たぶん、結構な力を持っていたが故にまだしぶとく生きているのだろう。


「……魔物にも弱肉強食の世界はあるってことだな」

「これ、魔物同士が共食いしているってことかしら?」

「そういう解釈でいいと思う」


 疑問を呈したクレアに、リリーが魔物を見据えながら答えた。


「魔物という存在について、私達はひとくくりにしているけど、基本的に千差万別の姿形がある。それこそ自分自身の魔力によって生み出された個体以外は全て敵なのよ」

「ああ、なるほど。この魔物は他のやつに喰われたというわけか……」


 喋っている間に魔物の形がいよいよ崩れ始めた。ついに上半身を維持する魔力が尽き……俺達の目の前で、魔物は消え失せた。


「……もし結構な魔力を保有していたのなら、こいつはこの場所で長い時間消滅に耐えていたことになる」


 俺は周囲の魔力を探りながら、述べる。


「仮にそうなら周辺に魔物はいないだろうけど、今し方喰われたなら近くにまだ魔物がいるはずだ」

「場合によっては私達を餌にしようと接近してくる」


 リリーの言葉に俺は「その通り」と返す。


「森に入るわけだから、一層警戒してくれ……それじゃあ、入るぞ」


 茂みの奥へ。魔物が生息する場所の場合、その密度が高ければ魔物が放つ魔力で森が覆われている時もある。これを人は『瘴気』と呼ぶのだが……この森はあまりそういうのを感じない。

 もし瘴気があるなら気配探知も阻害されたりするのだが、今回はなさそうだ……よって索敵範囲を少し広げる。とはいえこれは少量の魔力を流して敵がいないかを判別するもの。もし魔物が魔力を感知できたなら、襲い掛かってくる可能性がある。


 よって、少しばかり慎重に……しかし、この周辺にはいなさそうだった。


「レイト、どう?」

「辺りにはいないな……ただ瘴気の濃い場所は見つけた」


 この森をさらに進んだ先……俺は使い魔でリスを作り、先行させる。真っ直ぐ突き進むと、やがて森を抜け川に到着した。

 山を流れるので渓流と呼べばいいだろうか……その場所は明らかに瘴気濃度が高い。とはいえ、それらしい魔物の姿は――


「……っ」


 小さく呻く。リリーは即座に気付き、


「どうしたの?」

「使い魔を放って俺達が進む道を確認したんだけど……消滅した」

「消滅?」

「瘴気濃度が高い。少なくとも使い魔の魔力が瘴気によって消えるくらいには」


 魔物の中には瘴気を発するだけで動物や人間を昏倒させることもできる。『闇の王』の眷属も同様の能力を持っている個体がいた。

 使い魔はその瘴気に飲まれ、抵抗することもできず消滅した。この感じだと、並の人間は瘴気に触れた瞬間体調が悪くなるくらいにはなるかもしれない。


「結構ヤバい相手もかもしれないな……調査目的だし、姿を確認しておきたいところだけど」

「戦うのかしら?」


 早速好戦的なクレアの発言。それに俺は苦笑し、


「慌てないでくれ……ひとまず姿を確認してからだ」


 なだめて俺達はさらに森を進む。ただ、その間に明瞭になり始めた……明らかに瘴気が発生している。


「今私達が進んでいる場所に瘴気があるってことは、通り道だったのかな?」

「俺達が進む場所を真っ直ぐかどうかは知らないが、近くを通ったのかもしれない。今感じる瘴気は残り香のようなものだな」


 そんなものが滞留しているというのは、よほど濃い瘴気を発しているということなのか……いよいよもって難敵が出現したか。

 山に入ってあまり時間は経っていないけど、いきなりクライマックスと言えるだろうか……これならこれで展開が早くて助かるかな?


 そんなことさえ思いながら川へと到着。周辺を見回し……左側、上流へと続く方面の川岸に、大きな魔物が歩いているのを目に留めた。



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