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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第一章
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放浪の皇女

「……そこのあなた、どうしたの?」


 リリーに呼び掛けられ俺は我に返る。状況に戸惑って思考が一瞬停止してしまったが、すぐに再起動する。


「あ、ああ、その、わかった」

「なら商人達はよろしく。さて――」


 彼女が気合いを入れた声を上げると同時、魔物が咆哮を上げた。その巨体の威圧感は相当なものであり、一見するとリリーが挑んでも吹き飛ばされるだけと思われるくらい。

 けれどその小さい体には、とんでもない力が宿っている。目の前の魔物に圧倒されてしまうが、俺が最初に出会った時点でリリーは完成された強さだった。前の時は俺を助けた勢いで追撃を仕掛け、魔物を押し込み粉砕した。今回は立ち止まってしまったが、そう問題にはならないだろう。


 魔物が吠える。それと共に突撃を開始。猛然と一撃を食らわせたリリーへ向け、怒りを携え迫る……!!


「無駄ね!」


 そんな魔物に対しリリーは超然と言い放ち、迎え撃つ。剣を綺麗な弧を描いて再び魔物の頭部へと直撃する。無論魔物だってそれに備えていたようだが、



 ――オオオオオオオ!



 再び咆哮。リリーの斬撃により、魔物は完全に押し留められた。

 商人達は小柄な彼女が巨体を抑えていることで、ポカンとなっている。見た目からでは回避優先の装備に見えなくもないからな……さて、この調子なら俺の出番はなさそうだが――


 そう思った矢先、魔物の動きが少しばかり変わった。真正面から打ち砕くのではなく、少し変化を付けてリリーへ攻撃しようという所作。

 押し込もうとしていた彼女の動きに対し、それは少し有効に働いた。さらに突撃するだろうと読んでいたリリーの剣戟は魔物を、外した。


 そして魔物は横から彼女を狙おうとする――俊敏な動きではあったが、彼女ならば即座に対応できるくらいのもの。

 けれど、万が一攻撃されればリリーが窮地に陥る……そう認識した瞬間、体が勝手に動いた。


 手にある杖をかざすと同時、口を開け食らいつこうとした魔物の頭部に狙いを定めると、杖の先端が黄金色に輝いた。

 魔物もそれに気付いたようだったが、反応する前に全てが終わった。杖の先から放たれたのは光。レーザー光線という表現が近いものだが、俺の魔法は質量があり、その頭部に直撃した瞬間、魔物が吹き飛んだ。


 ガアアアア……!


 呻き声のようなものを上げながら盛大に転がる魔物。さすがに横からの攻撃には踏ん張ることもできずのたうち回るしかなかったようだ。

 そしてリリーは俺を見た……のだが、続けざまにこっちは新たな攻撃を仕掛けようとした。ほとんど条件反射に近い行動だったが、ここまでやったのだ。一気に終わらせよう。


 杖を振り上げると、それを勢いよく地面に振り下ろす――実はこの動作そのものに大した意味はない。俺の魔法はそれこそ動作もなく発動させることができる。けれどこの世界には俺のように魔法を使える者は少ない……よってこれが魔法だと露見しないよう、色々動作を入れ込むのだ。


 他にも理由はあるのだが、目をつけられない処世術的な意味合いもある。目の前にいるリリーは俺と出会った時の姿である以上、所作からしても俺とは初対面。そんな人間が突如魔法を使えば訝しげな目で見られる。前回は俺の姿が異質であることもあってあっさりと理解してくれたが、今回は幻術で装備も変えているのでそうもいかない。だから、こうして魔法ではなく杖の効力だと強調しているのだ。


 魔物が吹き飛び態勢を立て直す間に、勝負は決まる。杖の魔力が地面を介し魔物へ届いた瞬間、魔物が立つ真下の地面が発光を始めた。

 敵は十中八九異変を感じ退避しようとしただろう。けれど遅すぎた。刹那俺の魔法が発動し、光の柱が魔物を飲み込み、天へと上る。


 ――ガアアアア……!


 断末魔の悲鳴。同時に魔物が跡形もなく消え去った。


「ふう」


 小さく息をついてから、商人達へ向き直る。


「怪我をしている人は?」

「幸い、無傷だ。奇跡に近い」


 一人の商人がそう言うと、俺達に礼を示した。


「感謝する、お二方」

「いえ、当然のことをしたまでだから」

「……あなたの名は聞き及んでいる。今回の件で報酬も支払うし、また何か要望があれば聞こう」


 確かこの時点においてもリリーの名はそれなりに売れていた。つまりここで彼女と繋がりをもっておけば、後々懇意にしてくれるのでは……と思っているのだろう。ちゃっかりしている。

 リリーはそれに気付いていると思うけど、彼女は「どうも」と応じ、


「魔物の出現報告が多くなっているから、次は護衛を付けるべきよ」

「ああ、そうするとしよう……ただ現状では戦力がいない。もし、でよければなのだが……次の町まで護衛をお願いしたい」

「いいけど、報酬は要相談だよ……そっちはどうする?」


 リリーが話を向けてくる。そこで俺は、


「赤の他人なのに交渉事を引き受けてくれるのか?」

「フォローしてくれたお礼」

「なるほど……参加してもいいし、交渉は任せるよ――」






 俺達は商人達と共に最寄りの宿場町へと向かう。前回召喚された際に近い構図……商人達は礼を述べ去って行く。


「……さて」


 リリーは俺へと向き直り、尋ねる。


「冒険者っぽいけど、この辺りのギルドに所属している人じゃないよね?」

「……まあ、そうだな」

「なおかつ先ほど魔物を一蹴した実力。よほど強力な武装を得ている様子」


 ひとまず魔法を使っているとは認識していないみたいだな。

 この世界には『魔石』と呼ばれる魔力の込められた石が存在する。で、それを加工して武器を作る。騎士などはその武具の力を自らの魔力を注ぐことによって活性化させて、力を発揮する――これが『魔装』だ。


 一方、俺が使った魔法は武具を利用せず己の魔力のみで敵へと攻撃する――この世界にはエルフなどを始めとした多種多様な種族が存在し、人間以外では魔法を使う種族も存在する。けれど、俺のように自由自在かつ強力な魔法を使える人間は、それこそ一握りしかいない。だからこそ、俺はこの世界に連れて来られた――


「その武器について教えて欲しいと思って……駄目?」


 ――確かこの時期のリリーは、力を求め冒険者家業をやっていたはず。なぜそういうことをしていたのかは、単純に強くなりたかったからで特に理由はなかったはず。

 今の彼女の問い掛けは純然たる興味なのだろう……さて、こうして再会したわけだけど、想定していたのとずいぶん状況が違う。記憶がないので俺の疑問には答えてくれないわけだし、どうしたものか。


 それに加え、この世界はどういうことなのか? 単純に過去に来たという解釈でいいのか? けど、過去だとしたら以前召喚された俺の姿がないのも疑問だ。俺とリリーとの出会いは近いものだけど、前とは少し異なっているし、商人達なんて前はいなかった。一体――


「おーい?」


 リリーに呼び掛けられてはっとなる。気付けば思考に頭が持って行かれていた。


「ああ、ごめん……えっと、話をするのは構わないよ。ただその、食事をしながらでもいいか? こちらとしても訊きたいことはあるし」


 いきなり初対面の人間と食事を、というのは――そういう考えも生まれたが、俺の力に興味を示しているリリーにとってこちらの提案に抵抗はなかったようで、


「うん、いいよ。どこか適当な店に入ろう」


 そういうことで決定。ひとまず現状確認から始めなければならない……そういう考えに至りながら、俺達は町中を歩き始めた。


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