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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第二章
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仕事の依頼

 さて、話をする形にはなったのだが、目を覗き込むわけだから少しばかり注意しなければならない。

 目を合わせて会話をする程度なら問題はないけど、少しばかり集中力を必要とする作業なので、できることなら会話の中で違和感ないように――問題がないような感じにしたい。


「それで、依頼内容は?」


 まずクレアから水を向ける。俺は一呼吸置いて、


「……具体的な目的については明かせないけど、俺達はギルドの仕事なんかを通じて魔物に関する調査をやっている」

「調査?」

「国絡みの話だよ。窓口はリリーなんだけど……まあ、国に関連するってことであんまり情報は出せないんだけど」

「冒険者としては政治的なしがらみを嫌っている人もいるのに、あなたの相棒はずいぶんと積極的ね」

「いや、どうだろうな。俺はリリーが仕事内容に頬を膨らませているのを何度か見たぞ」


 その言葉に苦笑するクレア。


「面倒な案件も抱えていると……けれど、どうした彼女に?」

「それなりに名が売れれば国側が話を持ちかけてくるケースもあるってことさ。有名税ってやつだな。その分割の良い仕事が回ってくることもあるから、一概に悪いとは言えないんだけど」

「一長一短ってことか。ふむふむ、なるほど」


 納得したようにクレアは声を上げる。


「それで、調査に同行して欲しいってこと?」

「そうだ。ここから場所はここから北にある……ルーガ山脈で」


 ――イファルダ帝国の領地にはいくつも山脈が存在しているのだが、北部にそうした地形が集中している。現在俺達は北西部にいるわけだが、その中で一番標高が高くまた多数の山が連なっているのがルーガ山脈だ。

 この山は人の手があまり入っていないため、魔物などが巣を作っていることも多いらしい。一応人里はあるけどそうした場所は様々な対応策が実行され安全を確保されていると聞く。他の山脈と比べ危険エリアが多い、といった感じだろうか。


 また、この山脈には人間以外の種族は暮らしていない。ちなみに他の場所だと竜族の本拠や、あるいは妖精が棲まう土地などが存在するらしいけど、俺は行ったことはない。

 で、今回ルーガ山脈に関連する仕事がギルドにあった。それは――


「山脈内に巣くっている魔物の掃討と、調査が依頼内容だ。護衛……というわけじゃなく、俺達も戦うけど二人よりは三人……しかも相当に腕の立つ人間がいるなら、是非戦力として欲しいと思ってさ」

「内容は理解したわ。でも、リリーさんほどの腕前なら、楽勝じゃない? 魔物と言えど、それほど強いとは思えないけど……」

「山中における戦闘は平地とは違うし、山脈に入るなら不測の事態は多い……話を持ちかけているのはそういった理由もあるんだけど、一番の根拠はこの調査依頼について、ギルドの掲示板に黒札が添えられていたことだ」


 そこまで語った途端、クレアの目の色が変わった。


 ――ギルドの仕事内容については単純な護衛任務以外にも魔物の駆除など、比較的達成が容易なものも多い。俺が召喚されたこの時期は魔物の出現が多くなったらしいので護衛依頼が増えているとリリーが語っていた。今もそうだろう。

 難易度が高かったり報酬が良かったりする仕事については、ギルドとしても重要な案件であるため失敗して欲しくない。よって、ある程度実績があってなおかつ腕の立つ人間がとる場合が多い。ギルド側としてもその方が安パイだし、失敗するリスクを防げる。


 ただし、そうした仕事内容の中にはかなり危険であると判断して特別な処置が施されるパターンがある。それは依頼に関する書類に札が貼られている場合。色は二つで一つは赤。それよりも危険度の高い仕事には黒い札が貼られている。


「現在、ルーガ山脈へ入ること自体が危険だって話だ。しかも俺達は調査のため山脈の中でもあえて危険な場所へ踏み込むことになる……リスクを回避するべく、色々処置を行うのは当然だと思わないか?」

「そこで私の登場、ということね?」

「正解。この町かその周辺で人を探そうと思っていたんだ。そして俺達は、最適な人を見つけ出すことができた」


 俺はじっとクレアと視線を交わす。その直後、俺はリリーや『森の王』オディルの瞳の中に存在した、魔力を捉えた。

 いける――そう心の中で呟いた直後、それに触れにいこうとした。実際はただ彼女と目線を合わせているだけだが、手を伸ばすような感覚で魔力に近づく。


 そして――寸前で、手が止まった。


「……うんうん、内容は理解できたわ」


 次いでクレアは納得した声を上げる……失敗した?

 いや、リリー達の中にもあった魔力に触れようとしたはず。けれどその寸前で、止まってしまった。それはどこか、クレア自身に拒否されたようにも感じられた。


 これは、どうやら……リリー達とは異なり、記憶を戻せる条件を満たしていないと考えていいのか?


「話そのものはわかったわ。黒札が貼られている仕事に突撃するのだから、リリーさんに勝った私に話を向けるのは理解できる」

「……で、良い返事はくれるのか?」

「んー、そうねえ。黒札であるくらいだから、強い魔物も現われそうね。剣を磨くには有効かしら」


 この期に及んで剣術のことを気にしている……もしかすると彼女は黒札に関連する仕事をこなしたことがあって、過去の経験から判断しているのかもしれない。

 彼女の行動条件としては、自分の力を振るうに足る内容なのか……ならば、もう一押ししておくか。


「……そっちの興味がどういうものなのかわかったから、もし叶わなかったら別に手間賃くらいは渡すよ」

「あら、気前が良いのね」

「ここで貴重な戦力を逃すより、コストを支払った方がいいよ。俺達の命に関わるからな」

「なるほどねえ……」

「ただ、もし出会った場合は、相当な強敵だと思うぞ」


 さらなる言及にクレアは視線を重ねてきた。


「ルーガ山脈は、人間があまり住むことなく、なおかつエルフや竜といった多種族もいない……例えば竜族の頂点は『山の王』と呼ばれ、彼らが住む山々を守っている……言わば統治者なわけだが、ルーガ山脈にはいない。けれど」

「けれど?」

「あの場所には人間などとは異なる統治者がいるなんて話がある……魔物の王である『獣の王』が」


 ――あながち、的外れというわけでもない。実際にそういう存在がいてもおかしくない環境だと、帝国の人から聞かされていた。


「それは、確実なの?」

「いや、あくまで噂程度だよ。ただこの噂は帝都で聞かれたもの……リリーが耳にしたことがあるらしい。そんな話が出回るくらい、あの場所は危険ということなんだろう」


 さて、どうするか……沈黙しているとクレアはふんふんと小さく呟きながら考えている。

 彼女のお眼鏡に適う内容なのかどうか。危険な場所で、クレアの求めるような敵に出会える可能性は高い……そんな認識でいてくれれば、乗っかってくる可能性は高い。


 ただ、記憶を戻すことに成功していないので、この仕事で上手くやらないと彼女は去ってしまうだろう。俺としてはそちらの方が気掛かりなのだが……できることなら彼女についてはここで仲間にしておきたい。それをするにはどうすればいいのか――

 こちらもまた考えていた時、クレアは俺へ向き直る。そして俺へ向け口を開き、回答を提示した。


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