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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第二章
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勝負の結末

 リリーとクレアの剣が再び交錯する――その力具合は今までよりも強く、両者とも決めに掛かるつもりで戦っているのだと認識できた。

 とはいえ、状況としては……ややクレアに分があるか。リリーも負けじと剣を振り続けるが……現在は最初の時のように一撃で攻防が入れ替わる剣の弾きあい。観客からすれば互角に見えるかもしれないが……俺は徐々にリリーが振り遅れているのを認識する。


 肩を狙ったクレアの剣をリリーは跳ね上げる。即座に剣を振りリリーの狙いは右手首。けれどその軌道を完全に読んでいたかクレアは機先を制する形で振り抜く途中に剣を弾く。

 クレアの防御が確実にリリーの剣を縫い止めるようになった。これではその内防戦一方になるのだが――いや、その瞬間はあっという間に訪れた。リリーが反撃しようとした時、それより先にクレアの剣が彼女へと殺到する――


 一気に攻勢に打って出た、と周囲の人々は思ったことだろう。リリーがこの結果をいち早く認識し、対策を講じなければならなかったが、決定的に遅かった。

 リリーは後退を選択。とはいえそれは反撃に転じるためのものではなく、完全に逃げるためのものだ。そうなったら当然クレアは好機と見る。即座に追従し、連撃を浴びせた。


 それでも――まだリリーは耐える。防御に専念して機を窺えば、という可能性もなくはないのだが、均衡が崩れるのもそう掛からないだろう。そんな風に予想した時だった。

 キィン、と甲高い金属音。リリーの手からとうとう剣が弾かれ、石畳の地面へと突き刺さった。


 勝負あり――その瞬間、この場が沸騰する。おそらく名勝負だったのだろう。その興奮具合でリリーの健闘がはっきり理解できた。

 とはいえ他ならぬリリー自身が理解しているはずだ。善戦しただけで、クレアにはまだまだ底があると。もちろんリリーも剣の力を最大限に引き出したわけではないが、剣術という観点で差がある。そう認識させるには十分な戦いだった。


 歓声と共に賭けの配当が始まる。その中でリリーとクレアは互いに視線を交わす。リリーの方はもう一度挑もうとするような敵意の視線だが、反面クレアは笑顔だった。

 いつでも挑戦は受け付ける、といったところだろうか。リリーとしてはすぐさま再戦を希望する気概かもしれないが、もう一度やっても結果は同じだろう。


 というわけで、剣術勝負はクレアの勝利に終わった。この一事を見ても、彼女を仲間にすることは、『闇の王』の戦いにおいても相当大きな進展だと考えてよさそうだった――






 その後、俺達は宿へ戻り併設された建物で夕食をとる。


「ぐやじい~」


 と、彼女は机に突っ伏して悔しさを露わにする。そんな彼女に俺は苦笑し、


「いやほら、リリーだって全力じゃなかっただろ?」

「そうだけど……くう~、あの時にもっと勢いを持たせて攻めておけば……」

「正直、小手先だけで通用するような雰囲気ではなかったけどなあ」


 と、感想を漏らすとリリーは俺の方へ顔を向け、


「何? クレアの味方をするの?」

「いや、そういうわけじゃなくて……」


 頭をかく。これは重症だな。

 ともあれこんなことで話がこじれるのもまずいので、フォローはしておこう。


「今回の決闘でリリーの方にも課題が見えただろ? 糧にして先に進めばいいし、追いつくし追い越すさ」

「そうだけど……」

「ま、今くらいは思い詰めてもいいけど、仕事になったらきちんとしてくれよ」

「わかった……」


 彼女はため息をつきながら水の入ったコップを手に取り一口。


「……ねえ、レイト」

「どうした?」

「私、クレアに勝てるかなあ」

「勝てるさ」


 即答。根拠がなく言っているというより、リリーの成長速度から考えれば、十分あり得ると思う。


「というか、『闇の王』を打倒するために力をつけようとしているんだ。それなら、クレアだって超えなければならない壁じゃないか?」

「……うん、そうだね」


 リリーはここで俺の目を見て、


「ならレイト、約束して」

「……何を?」

「出会った以上、クレアの記憶を戻して仲間にするんだよね?」

「ああ、そのつもりだけど」


 そのために俺はこれから行動しようと思っている。


「なら、その道中でクレアに勝てたら、何かご褒美が欲しい」


 ……ご褒美ときたか。


「報酬効果とか、そういうやつか?」

「そうそう。ただ旅をするだけじゃツマラナイでしょ?」


 うーん、メリハリがついて気分転換になるならいいか。『闇の王』とばかり向き合うだけではストレスも溜まるしな。


「ああ、わかった。で、要求は?」

「デートして」


 一言。それで俺は目が点になる。


「……デート?」

「そう、デート。もし私が勝ったら」


 ……一緒に旅をしているのにデートもへったくれもないような気はするけど。まあ、雰囲気かな。デートと称した方がリリーとしてもテンションが上がるのだろう。

 というかクレアに勝たなくとも誘われれば受けるけど……俺の気持ちがどうとか詳しく語ってないので、そこまで突っ込んだ誘いはできないのか?


 俺から誘うのも、事情的に微妙だし……あー、そうだな。


「ああ、わかった。それでいいよ」

「ホント!? 約束したからね!?」

「ものすごいやる気だな……ああ、俺はそれでいいよ」


 強くなる一翼になるのならそれでいいか……俺としてもデート云々については、記憶に留めておこう。


「で、レイト。クレアの記憶だけど」

「ああ、彼女の宿についてはわかってるから、これから行くよ。ただし、リリーはついてくるなよ」


 一応、記憶を取り戻すまでに不信感をもたれたらまずいので、口実というか話のタネは用意してある。よって、


「それじゃあ話をしてくるけど……こちらに任せてもらっていいのか?」

「私がいたら話がこじれるかもしれないからね」


 よほど鬱憤が溜まっているように見受けられる。そんな様子に「おとなしくしているように」と一言添え、俺は外へ出た。

 場所については決闘の後、使い魔を用いて確認しておいた。現在は酒場にいるのだが……会えたのは偶然とかではなく、居所を確かめてきたと説明すれば問題はないだろう。


 さて、どうなるかなあ……目的地に到着に店に入ると、騒ぐような人もいないおとなしい酒場だった。その一角で食事をしているクレアがいる。近づいていくと、足音に反応して彼女は首を向けた。


「あれ? あなたは確か……リリーさんの相棒じゃないかしら?」

「……よく憶えているな」


 決闘の際は単なる観客の一人になっていたはずだけど。


「あなた達が二人であの場にやってきたことはわかっているし、決闘の後二人してあの場を離れたのを見ていたし」


 なるほど……俺達が来た時点で察したということは、あの観客に囲まれる中できちんと周囲の状況を確認していたということだ。

 リリーについてはさすがに周囲に注意を向ける余裕はなかったと思うので、そういう意味でもクレアはまだまだ余裕があったということか。


「それで、再戦をするために約束を取り付けに来た?」

「そうじゃないよ……こうして出会ったのも何かの縁ということで、話をしに来たんだ……その腕を見込んで頼みたいことがあってさ」


 俺の言葉にクレアは「なるほど」と小さく呟く。


「仕事の依頼、というか協力か……その様子だと人間相手じゃなくて魔物相手でしょ?」

「気が乗らない、って雰囲気だけど……話だけでも聞いてみる気はないか? よければおごるけど」

「お、ならお言葉に甘えて……ささ、どうぞ」


 対面の席を指差す。俺は「どうも」と答え……席に着いた。


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