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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第二章
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決闘

 リリーがクレアへ間合いを詰めるのに使った時間はほんの一瞬。足に魔力を溜めて加速した。リリーの場合は剣に限らず衣服や靴に至るまで全部そういう加工がされているので、その効果も人一倍高い。

 応じるクレアにしてみれば、まさしく電光石火の攻撃だったはず。実際、リリーの奇襲に対し彼女は決定的に反応が遅れた。リリーが刃を差し向けた段階で、まだクレアは動いていなかったくらいだ。


 けれど、彼女はそこから無理矢理動いてリリーの剣を弾いた。甲高い金属音が響くと同時、周囲の人達が一斉に声を張り上げ、賭けた方へ応援を開始する。

 それは今までの静寂が嘘のような熱狂。その中で俺はじっとリリーとクレアの戦いぶりを眺める。


 おそらく、神経を研ぎ澄ましていないとついてこれない戦いだろう……リリーが続けざまにすくい上げるような斬撃を放つ。狙いは右肩か。とはいえそれを食らうはずもなく、再度クレアは剣戟を弾く。

 そこで双方が距離を置いた。仕切り直しという案配なのだが、そこで一転クレアが前に出た。真っ直ぐ刺突が繰り出され、リリーは身をひねって避けると剣を合わせ、弾いて防いだ。


 次いで横薙ぎを差し向けるリリー。だがクレアは剣を即座に引き戻して防御。ここまで単純な攻防に見えるのだが……二人は大技を出すタイミングを窺っている。リリーはまずクレアがどのくらいの力を持っているかを推し量るべく牽制し、クレアはそれをいなしているような形か。


 傍から見れば攻防が入れ替わる剣の応酬といった感じだろうか。リリーが剣を放てばクレアが即座に防ぐと一閃。けれどリリーもまた防御し再び押し込もうとする……これまでの挑戦者達の戦いぶりについては見ていないが、クレアが見たところ汗一つかいていないし、衣服がほとんど汚れていないところを見ると剣を斬り結んだとはいえ善戦とは程遠い結果だろうというのは予想がついた。では、リリーの場合はどうか……少なくとも観客はかなりやれている。もしかしたらいけるんじゃないか、という考えがよぎっているようだ。


 そうして幾度となく攻守を入れ替え立ち回り……時間にして一分ほどか。両者は一度間合いを外し、動きを止める。


「……そういえば」


 と、ふいにクレアが口を開く。


「男の人に負けたらどういうことになるのか予想はついているんだけど……女の人の場合はまったく考慮していなかったわ」

「別に何かするつもりはないよ。ま、何をするかは負けた後のお楽しみってことで」

「あら、そう。それは楽しみと言いたいところだけど」


 剣を構える。目つきも先ほどと比べ鋭くなった。

 間違いない――スイッチを切り替えた。今までの決闘はたぶん、この段階まで誰も到達していなかっただろう。


「残念だけど、どういうお願いをされるのかは不明なままよ。なぜなら、私が勝つのだから」


 一瞬だった。最初の攻撃とは異なり今度はクレアが――間合いを詰めた。

 対するリリーは同じように対応に遅れた。彼女は間違いなく最大限の警戒をしていたはずだ。相手は一度も勝てたことのない相手だ。であればどんな手を使ってきても応じられるような備えをしていたはず。


 しかし、それでも虚を衝かれた……いや、これはたぶんクレアは奇襲できるタイミングを見極めたのだ。彼女は以前、相手の動作や呼吸のタイミング、果ては瞬きの動きまで察知して、戦うと語っていた。人は呼吸を繰り返したりすることで構えていても力の入り具合は一瞬ごとに変わる。その中でクレアは、どう頑張っても対応が一歩遅れるタイミングを見極め、仕掛けることができる――


 確か、そんな主旨だったと思う。頭の中でその説明を思い起こしても無茶苦茶だと思う。

 しかし、クレアは実際にそれでリリーの対応を遅らせた……のだが、彼女は彼女で踏みとどまった。


 すんでの所で剣を弾いた。紙一重という案配で、クレアの刃は肌に触れることなく逸れる。


「へえ!?」


 これは避けられると思っていなかったのか、驚愕の声がクレアの口から漏れる。けれどそんな言葉を発する間にリリーは次の行動に移っている。

 狙いは左腕。本当なら右腕を狙いたいところだろうけど、回避と同時に反撃する場合、狙いがそこしか定まらなかったのだろう。けれど傷が一つでも入れば痛みでほんの少しだけでも動きが鈍るかもしれない。それを狙っての一撃だった。


 しかしクレアは剣の軌道を見極めて避ける。リリーの挙動を読んでいたのか、動作はひどくスムーズだった。


「すごいわね。まさか今のをかわすなんて」


 相手を馬鹿にしているような雰囲気はない。本当にただびっくりしている様子。


 もっとも、今のリリーにとっては「よくできました」と子どもが褒められたみたいな感じで面白くないと思う……俺の予想通りリリーの顔はちょっとばかり曇った。いや、曇ったというより「馬鹿にするな」という怒りに近い感情か。


 けど、ここで激高してもまったく得にならないと悟ったか、彼女はすぐに表情を戻した。というか感情が揺れた時点でおそらく負けるからな……ちょっとでも気を抜けば先ほどのような踏み込みを見せてくる。リリー自身、油断はないと思うけどちょっとでも気を逸らせば終わると考えているようだ。

 そんな彼女に対しクレアはどこか上機嫌。笑みを絶やさず、まるでリリーを値踏みするように視線を投げる。


「うんうん、名前を聞いたことがあるし、よほど腕が立つ人なのかと想像していたのだけれど……予想以上ね」

「そんな悠長にしていていいの?」


 ここで、リリーは挑発的な言動を発した。


「そっちの攻撃は通用しない……さっきの剣だってずいぶんと無理をした一撃じゃない?」

「んー、確かにちょっと踏み込んだ剣だったのは間違いないわ。けど、あれで無理をしているわけではないわ。それじゃあ――」


 と、クレアは少しばかり魔力を発する。といっても威嚇するような量ではない。おそらく体内の魔力の流れを変えたことによるものだ。


 たぶん、さらにギアを上げたな……一度だけ俺も彼女と戦ったことがあるのだけれど、その時はハチャメチャな戦いぶりだった。ルールは決闘だけど魔法は何でもありだったので俺はひたすら魔法攻撃で近寄らせないように立ち回っていたのだが……彼女はそれに負けじとひたすら押しの一手で、俺もずいぶんと詰め寄られた。


 こちらにもそれなりに余裕があったのでさすがに負けることはなかったし、そもそも近距離専門のクレアでは俺と戦うのは非常に不利なので仕方がなかったわけだが……そのハンデをものともせず苛烈に攻め立てた。その光景はなるほど、彼女に迫られたらかなりまずいなと深く認識させるに十分過ぎる戦いだった。


 で、現在リリーと向かい合っているけれど、間違いなくクレアは余裕を残している。一方でリリーはどうか。彼女もまた全力というわけではなさそうだが、余裕についてはクレアよりも少ないくらいか。


 現状、リリーが多少不利といったところか……そもそもクレアは過去底をあまり見せなかったし、『闇の王』との戦いではあまり日の目を見なかった対人戦の技法を隠し持っているかもしれない。リリーは過去の訓練で見た剣戟を参考にして立ち回っている面もあるだろうけど、それがない状態であったら……果たしてどこまで耐えられるのか。


 そんなことを内心考える間に、今度はクレアが走った。勝負が決まるか――そんな予想と共に、俺は戦いの行く末をこの目に焼き付けようと意識を集中させた。


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