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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第二章
35/143

女剣士

 思わぬ形でクレアと再会したが……見た目は『闇の王』との決戦で見せていた格好とほとんど変わらず、茶褐色の色合いが中心の旅装姿。そして腰には鞘と右手に抜き身の剣を下げ、路地裏の決闘で勝ち続けている彼女は超然と佇んでいる。

 その姿は「この場の誰にも負けない」という強い気概をみなぎらせており、なんというか出で立ちだけで、決戦の時と格好を含めまったく変わっていないというのが明瞭にわかった。


「……どうする?」


 幸運にも彼女と出会えたわけだが、こんな状況下で記憶を戻そうというのはできるのか……と、ここでリリーは予想外の行動に出る。


「ねえレイト」

「どうした?」

「とりあえずクレアと話をしなければいけないわけだし、ここで関わって損はないよね?」


 猛烈に嫌な予感がした。あー、これはまさか。


「戦うつもりか?」

「うん、もちろん」

「何がもちろんなんだよ……」

「それに、勝ったら彼女を仲間にできるのは確定だし」


 そんなことをリリーが言う。その理由は、


「さあ! 誰が次に戦う!」


 審判をやっている男性が声を張り上げる。


「もし勝ったら今まで積み上げた金は総取り! そしてなんと! 彼女、クレア=ベラントはその人物についていくって話だ!」


 ――これは『前回』もそうだったのだが、彼女は決闘に負けたらその人物の言うことをなんでも聞くつもりだったらしい。らしい、というのは彼女は一度も決闘で負けたことがなかったため、ついぞそういう展開にはならなかったのだ。


 何でも言うことは従う気でいたらしく、誰かが冗談めかしく「じゃあ俺の宿に来いと言ったらついてきたのか?」という問い掛けにも「もちろん」と返したほどだ。文字通りどういう展開になっても負けた以上は従う、という極めてシンプルかつ、豪快なスタンスであった。


 で、剣を握り締めていて勇壮な姿を見せていてもどこか可憐さが漂うクレアの姿を見て、ならば俺が倒してやろうと決闘を受ける人がいるわけだが……結果はご覧の通りである。油断でもしていない限り――いや、仮に油断していても彼女は圧勝する。そのくらいの実力を彼女は持っている。


「さあ! 次は誰か!」


 さらなる呼び掛け。ここでリリーは前に出ようとするが、俺は肩をつかんで止めた。


「待て待て待て」

「何で止めるの?」

「いや、勝負の前に確認なんだけど……リリー、勝ったことあったっけ?」


 仮に『聖皇剣』があったなら確実にリリーが勝つ。しかし仲間同士の訓練でそんな物を持ち出す道理はなく、リリーとクレアは同じような魔装を装備し剣術勝負をやっていたはずだが……俺の記憶ではリリーは一度たりとも勝っていなかったはずだ。


 リリーだって相当な技量だし、皇帝に即位して以降も技量は上がっていた……政務に忙しいのにどうやって、という疑問はあったがそれはまあ置いておいて。ともかく『闇の王』との決戦までにリリーは成長し続けたが、それでも勝てなかった。


 つまり、リリーの全盛期でも剣術という分野ではクレアが上回っていたことを意味する……クレアだって成長していたはずだが、成長速度は間違いなくリリーが上だったのでいずれ追いつくことだって考えられた。しかしどうやら剣術においては最初の時点で絶対的な差があったようで、どれだけ成長しても勝てなかったのだ。さすがとしか言いようがない。


 現状は二年以上過去に戻っているので、クレアもまた技量的には落ちていると思うが……正直、落ち幅だけならリリーの方が断然上だろう。差が縮まるどころか広がっているのは確定的だと思うんだけど――


「何を言ってるのよ」


 と、リリーは不敵な笑みを浮かべ、


「今日、ここで勝つのよ」

「……つまり、一度も勝ったことないんだな? どこから来るんだよその自信は……」

「さあ! 次に戦う猛者は誰だ!?」


 その言葉の矢先、リリーが俺を振り切って前へ。と、ここで女性の登場に周囲がどよめいた……が、リリーのことを知っている人がいたらしく、


「リリーじゃねえか!? お前、何やってるんだ!?」

「面白そうだから来てみたのよ。で、相手をしてくれるの?」


 剣を抜くとヒュン、と切っ先をクレアへ向ける。それに対し、


「……えーっと、聞き覚えがあるわね……リリー=ネクロアさん?」

「うん、そうだけど」

「なるほど……これは面白い人が釣れたわね」


 満面の笑みを浮かべるクレア。あああ、これはもうどうしようもない。

 無理矢理止めようものならクレアが「邪魔するな!」とこっちに剣を向けてきてもおかしくない。よって、ここは事の推移を見守るしかないな。


 ただまあ、リリーの目論見も一理ある。どういう結果になろうともクレアとここで顔を合わせておけば話もしやすくなるからな……ただリリーは勝つ気満々みたいだからなあ。一度負けても何度だろうが挑みそうな勢いだ。彼女はその……誰が見てもわかるけど、死ぬほど負けず嫌いなので。


「合図があったら試合開始ね」


 クレアが言うと、リリーは剣を構える。腰を落とし臨戦態勢なのだが、反面クレアは自然体で誘っているかのようだ。

 その間に周囲では賭ける男達の姿があった。その声を聞く限り、どうやらリリーへ賭ける者が多いっぽい。まあ名も通っているからこれは至極当然か。


 リリーはギルドで仕事をしてギルド内における地位も向上しながら旅をしている形なので、必然的に名も知られる。彼女がそんな風に活動するのは強い魔物と戦うためにはギルドで功績を上げないといけないのと、路銀を稼ぐためである。厄介な魔物とかはある程度功績を得ている人じゃないと仕事が回ってこないからな。


 対するクレアについては、路銀については決闘で稼いでいるという感じで、一応ギルドに所属してはいるけど全然名は知られていない。まあ人間相手に決闘しているだけなので当然と言えば当然なのだが……実際、俺やリリーも『闇の王』との戦いで大活躍したことで彼女の力を知ったくらいなのだ。まさしく埋もれた才能というわけだが……当のクレア自身はどう考えていたのか。そこについてはついぞ話すことはなかったなあ。


 やがて賭け終えたらしく、観客の視線がリリー達へ注がれる。その間もリリーは不敵な笑みを浮かべ、一方でクレアはその視線を黙って受け続けている。

 別に両者とも「自分が最強」という点に執着しているわけではないと思うのだが……うん、リリーの場合は今まで勝てなかった意趣返しといったところだろうか。自分のパフォーマンスも落ちていて、クレアもまた技量は落ちていると思うんだけど、それで勝てたとして納得がいくのだろうか。


 ともかく向かい合ってしまった以上は見守るしかない……その時、試合開始の合図が成された。けれどリリーとクレアは動かない。双方、相手の出方を窺う形。

 観客達は最初、歓声を上げていたのだが……やがて、話し声が止まっていく。自然とそうなり始め、誰もが固唾を呑んで見守るようになる。


 それはきっと、今までとは異なる情景なのだろう。群衆の中にはなぜこれほど無口になるのかと周囲を見回している者もいるくらいなのだが……気圧されたか声を発することはない。人だかりができているにも関わらず、広場は沈黙し大通りの喧噪さえ聞こえてくるほどだ。

 きっとリリーとクレアが発する静かな気配が、そうさせているのだろう。気付けば俺も黙し、戦いの行く末を見定めようという構え。


 この均衡はいつ崩れてしまうのか――そう誰もが考えたその時、動いたのはリリー。共に戦っていた仲間との勝負。思わぬ形ではあったが、それが今まさに始まった。


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