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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第二章
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冒険者

 俺達は辿り着いた町でまずは宿を確保して、それからギルドで情報収集を行う。さすがにクレアの居所なんてものがわかるはずもなく、リリーはぼやく。


「クレアについてはさすがに望み薄、かなあ」

「そもそも出会える可能性はよほど運が良くないと無理だよな」

「……そこはほら、レイトの運で」

「俺って、運良かったっけ?」


 この異世界にやって来て、具体的に幸運に恵まれたことってあったか? リリーと出会えたのは幸運かもしれないけど。


「まあまあ、アゼルと再会してからでも遅くはないし、慌てなくていいじゃない」

「それはそうだけどな……問題は、アゼルに記憶を戻す手法が通用するのかだけど」


 そこが一番の問題なんだよな。果たしてリリーと同じような処置ができるのか。


「『森の王』に対しても成功したわけだし、大丈夫でしょ」

「いや、対象が人間でもエルフでも可能ってだけで、誰にでも使えるかどうかはわからないからな」


 俺としてはここがどうしても引っ掛かっているのだ……もし記憶を戻せない状況が起きたら面倒なことになるかもしれない。その場合、どうするべきか――

 その時、俺は大通りから一本逸れる路地に、冒険者風の男性が二人入って行くのが見えた。その様子になんとなく眉をひそめた俺は、そこへ少し近づいてみる。


「どうしたの?」


 リリーが問い掛けてくるがひとまず無視。と、男性二人が並んで歩く光景と、その奥に他の戦士風の人物が路地の奥へ向かう光景が。


「……あー、決闘でもやってるんじゃない?」


 そんな言葉がリリーの口からついて出た。


「言わば賭け試合ってやつだね」

「どっちが勝つか決闘しているってことか……こんな町で?」

「冒険者家業をやっている人間の中には、人と戦うことが目的の人もいるからね。私も魔物相手に修行していなければ、そういうことをやっていたかもしれないし」


 ――この世界にはギルドに所属する冒険者が多数存在する。まあ冒険者というのは聞こえの良い言い方であり、実際は傭兵とか、ひどい時にはならず者扱いされる。


 ギルドに登録してある程度貢献すればそれなりにギルドそのものが後ろ盾になって身分を保障してくれたりもするのだが、そういう風になる人間はかなり真面目に仕事に取り組んできた人間で、遠からず内に仕官されたりするか、ギルドお抱えの人間になる。実際冒険者の中にはそうなることを目的にして仕事をする人だっている。


 他にはお宝目当ての人……そんな物があるのか、という疑問についてだが、この大陸は過去様々な種族が覇権を争って戦ってきた歴史がある。現在はイファルダ帝国――つまり人間――が治めているわけだが、過去にはエルフやドワーフや天使、魔族などが大陸、というか世界を手に入れようと色々画策していたらしい。で、その名残でこの大陸には世界でも有数の力を持った種族が多数暮らしている。


 そうした戦争の歴史があるため、各地には戦争時代に残された武具とか道具とかが残っている。しかもそれらは人間が作り上げた物ではなく、強力な種族達の物品であるため、発掘した場合下手をすれば一財産になる。そういう夢を見て冒険者家業をやっている人だっているのだ。


 あと、危険な仕事をする冒険者家業は案外報酬も良かったりする。それなりにギルドで仕事をこなして信頼を得て実力を理解してもらえば相応の危険度でかなりの報酬が見込める。まさしくハイリスクハイリターンなわけだが、ここで金を貯めて何かしら事業をやるとか、そういう人もいるにはいる。


 後はまあ、リリーのように強くなるためにとか……これは少数派だけど。ともあれそういう人達が一定数いるのがこの大陸の現状だ。つまり、帝国内にそれだけの数がいるってことは、その中からクレアを見つけるのも非常に厳しいというわけだ。


「……興味が出たなら、行ってみる?」


 ふいにリリーがそう尋ねてくる。確かに言い出したのは俺だけど、


「変なヤツに絡まれたら面倒だぞ」

「確かにそうだけど、ひょっとしたらクレアの手がかりがあるかもしれないし」

「手がかり?」

「私はほとんどやらないけど、クレアはこういう場所に赴いて決闘していたって言っていたからね」


 共に戦った時に聞いたのか……彼女ならやりそうではあるな。

 リリーが言いたいのはそういう輩がいる場所なら、彼女と戦ったことのある人がいるかもしれないって話だ。もしそれがつい最近の出来事であれば、この周辺にまだいるかもしれない。


「それにほら、私達が暴れたらもしかしたら話を聞きつけて現われるかもしれないし」

「現われるって……噂を聞きつけて?」

「そうそう」


 本当かなあ……などと思いつつも興味を抱いたのは事実。俺はリリーと以前旅をしていたわけだけど、決闘するなんて場には関わらなかったからなあ。


「……野次馬くらいなら、大丈夫かな?」

「そうだね。では行ってみよう」


 リリーが先導を開始。冒険者家業が長い彼女はこういう場にも慣れている様子。

 路地を進むと喧噪が聞こえてくる。なおかつ金属音めいた音も聞こえ始め……どうやら戦っている最中らしい。

「おっしゃー! やっちまえー!」

「まだだ! もうちょい耐えろ!」


 そんな歓声が聞こえてくるのだが……それは応援しているというよりははやし立てているような感じだ。たぶん賭けている相手が負けそうなのかな?

 で、肝心の決闘だが人だかりができていた路地からは見えない。ここを抜けたら広場に出るみたいなので、そこで確認できそうだな。


 程なくして俺達は路地を抜け、人の多い広場に到着する。俺が見かけた冒険者達は、何やら座り込んでいる人と話している。どうやら試合の概況とかを聞いているようだ。


「……うーん、ここからだと見えないな」


 広場の中央で決闘をしているようで、キンキンと剣を合わせる音が聞こえている。だが、がたいの良い人が多く並の背丈である俺とリリーでは見えない。

 リリーについては女性だし目立つのではないかと思っていたのだが、みんな決闘に熱中しているのか見向きもしなかった。まあ冒険者としての身なりだし、彼女にちょっかいを掛けてどうこう、みたいなトラブルはなさそうかな。


 よって俺達は決闘の状況を見るべく移動する。その時、一際大きい歓声が広場をこだました。どうやら決着がついたらしい。

 賭けた相手が負けたためかがっくりと肩を落とす人までいる。そんな様子を横目に見ながら俺やようやく対戦者を見ることができた――


「さあさあ! 次の挑戦者はいるか!」


 と、審判をやっている男が声を張り上げた。


「腕に自慢のある者は誰だっていい! 飛び込みは歓迎するし、もし勝ったら今まで溜まった金は総取りだ! 現在の金額は――」


 そうやって告げた額は、こんな路地裏の決闘とは思えないほど高額だった。よほど勝ち続けている剛の者がいる……というわけだが、俺とリリーはそれどころではなかった。


「ここまで彼女の無敗が続いている! そろそろコイツの鼻っ柱を折りたいってヤツはいるだろう!?」


 喚声が聞こえる。誰がやるのかやらないのか。そういう話し声が俺の耳にも入ってくる。

 で、肝心の連勝している人物なのだが……うん、その、まあ。


「……これ、レイトの運かな?」


 リリーから声がもたらされる、のだが。


「いや……俺じゃなくてリリーじゃないか? そっちの方がリアルラックは持ってるだろ」


 ――その人物こそ、俺達が探していたクレア、その人だった。


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