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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第一章

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闇に対抗する光

 ――俺は『闇の王』と戦うため、様々な魔法を考案した。考案、と言ってもそれほど大層な話ではなく、単に子どもの頃から見ていたゲームやマンガなどを参考にして、色々と想像しただけだ。


 もっとも、何から何まで作るということはできなかった。この世界において俺はきっと無類の強さを持っているとは思うけれど、あくまで人間であり限界というのも存在する。言ってみればゲーム上でパラメーターがマックスになったが、仕様上それ以上はどう頑張っても上がらない、といった感じだろうか。


 だから例えば『闇の王』みたいに全てを蹂躙するような無茶な魔法はできなかった。見た目を再現することはできたが、それは単なる闇の魔法で威力も広範囲になったら人間にかすり傷をつける程度にしかならなかった。威力を高めるには無差別に放出するのではなく、効果範囲を限定した方が良い結果に繋がることも多かった。


 そうした中で俺は『闇の王』との戦いにおいて、いくつか切り札と呼べるものを作り上げた。それが今放って見せた魔法。闇の塊であり敵を吹き飛ばすのでは他者に被害が出るかもしれない。よって頭上から降り注ぐことによって、対象範囲内にいる闇を完全に滅する……そういう意図を持ったもの。


 巨人は再度動き始め、魔法発動の前に鎖から脱しようとする。ギシリと鎖を揺らす音が聞こえ、いずれ封印は解かれるだろう。

 しかし、圧倒的に間に合わない……俺は杖を、振った。


 魔法が発動する。光の球体は弾けると頭上に魔法陣が創り出される。それが一気に光り輝くと、光が巨人へ向け迸った。

 それは、神が操る雷にも見えるし、あるいは巨大な光の柱のようにも思えた……俺の魔法は巨人の体を余すところなく飲み込み、魔力の奔流と白い光、そしてつんざくような轟音が全てを包み、巨人の存在を喪失させる。


 だが、敵もまた抵抗をする……光の中から手が伸びた。鎖による拘束は魔法で飲み込んだ瞬間に消え失せているため腕を動かすことはできる。それはきっと俺へ攻撃を仕掛けようと……あるいはこちらをつかみ魔法発動を止めさせようとしたのか。けれどそれを食らうはずもなく、手は虚空をつかみ……やがて、灰のように消え失せる。


 魔法の中で巨人の体が確実に崩壊していく。魔力を頭部や胸部に集めどうにか生命を維持するつもりのようだが、圧倒的な魔力はそんな抵抗も全てはね除ける。俺は追加でさらに魔力を光へ宿し、巨人の体はとうとう力をなくした。

 崩壊が始まる。腕に続き足が壊れ始め、光の中でその巨体が倒れようとする。その間に下半身から体が徐々に崩れ――頭部と胸部が残る。


 けれどそれも地面へ落ちる前に……光の中にあった存在が完全に消え失せたと判断した直後、俺は魔法を解除した。光が消え闇の帳が落ちる。月明かりの下で、巨人の立っていた場所には……何も残っていなかった。


「これで、倒したな」

「うん、そうだね」


 拍手が聞こえる。振り向くと満面の笑みを浮かべるリリーがいた。


「相変わらずで安心した」

「安心した?」

「魔法の腕は変わらず、王を目の前にしても怯むことなく……さすが私のレイト」


 私の、という単語はつける必要あるのだろうか……ま、それはいいとして。


「イルバドの打倒は成功……とはいえ、不可解なことも多いな。正直、これで『前回』のような悲劇を回避で来るかどうかは……」

「彼が世界を滅ぼし得るだけの力を得たかどうかは、微妙だね」


 リリーの言葉に俺は頷く。

 彼は最強を求めた。その最強とはあらゆる王の中で最強――しかし俺やリリーからすれば、彼の語る最強により世界滅亡を引き起こすだけの力を得たとは、考えにくい。


「『闇の王』から力を取り込めるのは一度だけ……と考えれば、今回の戦いでイルバドの能力の底は見たと思う。巨人の変化という結果はあったにしろ、あの力が暴走して世界を覆い尽くすほどになったとは思えないな」

「そうだね……加え、彼の発言自体も気になった。どうやら情報提供者がいるみたいだし」

「当然ながら、そっちが本命かな」

「うん」


 単独犯というシンプルな話というわけではないようだ……もしかすると世界滅亡を引き起こすまでには、数え切れない謀略が潜んでいたのか。

 有力な情報源としては、イルバドに『闇の王』について伝えた人物か……それが果たして誰なのか。


「……この屋敷に情報が眠っている可能性は十分ある。無茶苦茶になってしまったけど、調べよう」

「そうだね……けど、広さからして時間が掛かりそうだけど」

「調べ終わるまでは帰れないからな。そのつもりで」

「りょーかい」


 間延びした声を聞きながら、俺は再び屋敷へと足を踏み入れた――






 結果から言えば、有力な情報をつかむことはできなかった。イルバドの手記を発見したが実験の過程をメモするくらいで、彼に情報を提供した人物の名は出なかった。


「結局、イルバドの口から出た情報が全てってことだな……」

「みたいだね。手がかりは現時点でなし、か」

「この屋敷を定期的に訪れていたのなら、また来る可能性はあるけど……」

「これだけ屋敷が壊れているし、すぐに周辺の町に被害は伝わる。イルバドだっていなくなるわけだし……ここにもう一度来るって可能性はまずないんじゃない?」

「だよな……」


 手記を眺める。イルバドは一応、情報提供者を『仮面野郎』と名付けていた。口ぶりから男か女かわからなかったみたいだし、野郎という呼称はともかくとして、情報をもらった割にはあんまり敬意を払っているようには感じられないな。

 手記を読んだ印象としては情報提供者とイルバド、双方が何かしら思惑があって、互いに利用していた雰囲気だ。イルバドは最強という称号を手に入れるために力を求め、情報提供者は彼が『闇の王』を手に入れようとする過程で、何かを得ようとした……そんなところだろうか。


「うん、隠された地下室なんてものもないようだし、得られる情報はこれだけだな」

「そうだね……となると、次にやることは――」

「オディルさんの所に戻って報告だな。以降のことは相談して決めよう」


 というわけで、俺達は色々と屋敷内で騒動の後処理をしてから屋敷を出る。大きな戦いは終わったが、どうやら『闇の王』を巡る戦いはまだまだ続きそうだった。






 その後、数日は町に滞在しイルバドに関する顛末を調べることにする。俺達が交戦した翌日、屋敷がぐちゃぐちゃになっているところを商人が発見し、町にいる騎士団が調査。ギルドで情報収集をした結果、イルバドが何かしら魔装の実験をしていたことによるものということになり、事故として処理された。


 肝心のイルバドの所在は不明とされたが、本人が場にいないこともあるし姿が現われなければいずれ死亡扱いになるかもしれない。イルバドへ情報提供した人物が再度屋敷を訪れる可能性は低くなったが、事故扱いなので俺達が彼を倒したと相手も思うことはないだろう。少なくともあの場に監視の目などがないことは確認済みだし、敵に警戒される可能性は低いはずだ。


 その他、事の顛末をしっかり見届けた後、俺とリリーはオディルの所へ赴き、報告を行った。


「ふむ、色々と謎が残ってしまいましたね……私としてもイルバドを倒せばそれで終わりとは思っていませんでしたが……人間らしき情報提供者、ですか」

「王としては、人間が情報を持っていることについても疑問ですか?」


 こちらの問いにオディルは難しい顔をする。


「情報そのものはどこかに残っていてもおかしくはないでしょう。例えば過去に魔族の拠点として存在していた砦……古代の遺跡などに資料が眠っている可能性がゼロとは言えません。ただ私として最大の疑問は、この技法により『闇の王』から完全に力を取り込んでいることです」


 そう語るとオディルは俺とリリーを一瞥。


「以前、技法そのものの難易度はそう高くなく、資材さえあれば実現可能と言いました。ただ……例えば資料に欠損などがあれば、それだけで『闇の王』から力を吸い出すのは困難になります。情報の出所を含め、解明が必要ですね」


 口元に手を当て考え込むオディル。ここで俺達は選択に迫られることになる。『闇の王』とどう戦っていくのかを――


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