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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第一章
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思わぬ出会い

 途切れた意識が浮上し、ゆっくりと目を開ける。その先に見えたのは、生い茂る木々。

 周囲を見回す。森の中であり、木々の隙間から日差しが差し込んでくる。ちょっとわかりにくいけど、どうやら時刻は昼みたいだ。


「……着いた、よな」


 もし別世界であったなら……と一瞬考えたけれど、周囲に漂う魔力がリリーのいた世界であると認識させられる。


「ひとまず、ここがどこなのかを確認するところかな」


 当面の目標を定める――とはいえ俺はテキトーな場所に転移したわけではない。リリーの魔力……記憶に残っているリリーの魔力の近くに転移するよう、魔法を行使した。

 ただ、周囲の彼女の姿はない。


「異世界への移動だからな。誤差があるのは仕方がない」


 この状況は想定していたので俺はまず森を出ようと歩き始める……が、すぐに立ち止まった。


「魔法で格好を変えておこう」


 部屋着のままではまずいので……魔法で一から衣服を作る事も可能だが、強度などを維持するには魔力を供給し続ける必要があるし、何より服を脱がないといけない。さすがに俺の魔法をたたき壊す存在が『闇の王』以外にいるとは思えないが、魔力を破壊されて裸になるのは嫌なので、服の上から幻術を掛けてこの異世界で違和感のないように処置しておく。


「それじゃあ、行くか」


 改めて歩き始める……小鳥のさえずりなどを耳にしながら、俺は周囲を見回しながら呟く。


「二年経過した……けど、大陸に被害はないのか?」


 もし『闇の王』に蹂躙されたのなら、大陸は木すら生えない荒野となっていてもおかしくない。


「ここがどこかわからないけど、少なくともリリーの故国であるのは間違いないだろうし……だとすると、蹂躙されずに戦いが終わったのか?」


 ということは戦いには勝った……リリーの魔力を辿って転移が成功しているし、彼女も生きていると断言できるし。

 色々と考える間に森を抜けた。見えるのは整備された街道と、草原。


「ここは……イファルダ帝国の北西部か」


 景色に憶えがある……というか、この周辺は俺が異世界で最初に辿り着いた場所だった。


「皮肉にも、前と似たような地点からスタートってことか……」


 そういえば初めてリリーと出会った場所でもある。俺を召喚した魔術師の手から逃れ、彼女と偶然出会ったのだ。

 もっともその出会いはかなり壮絶なものだった。俺はとにかく人がいる所を目指すしかないと考えたため、街道に出た後は道沿いにひたすら歩いていたのだが……その街道に突如、魔物が現われた。


 魔物とは、魔力が凝り固まって生まれた異形の存在。姿形は様々で、昆虫くらい小さいものもいれば、家屋を踏み潰してしまうほど大きい存在もいる。発生原因は様々だが、俺が召喚された当時魔物が多く出現するようになっていた。これは『闇の王』が出現する兆候であったと語る学者もいたが、真実かはわからない。


「あの時は本当に必死だったんだよな……」


 その時の光景を思い出す。魔物が現われ体が硬直し、絶体絶命となった。その時点では魔力を多大に抱えていても魔法の扱い方なんてわからなかった。だから俺は無抵抗に殺されるのを待つしかなかった。

 それを助けてくれたのが、リリー。颯爽と登場したかと思うと魔物を吹き飛ばし、あっさりと打ち倒した。まるで姫を守る勇者のような登場に、俺はただポカンとなるしかなかった。


「最初、魔物は口から火球を吐きだして俺を丸焼きにしようとしたんだよな……あの時は本当に死ぬかと思った」


 幸いギリギリで体が動いて避けられたけどそれが唯一の抵抗だった……腹を打つような音は今でもはっきり憶えている――


 ここで突如、どこからかドォン、というくぐもった重い音が聞こえた。


「そうそう、こんな感じの音……って」


 思わず周囲を見回した。そうだ、確か地面に着弾して盛大な音を発したのだ。

 そして現在、同じような音が聞こえた。偶然――だろうけど、それにしては出来過ぎだと思った。


 俺はどうにか音の聞こえた方角を割り出し、動く。そうするとすぐに見つけることができた。大きい魔物……狼のような出で立ちをした魔物だが、その大きさは人間の身長を越える位置に頭部があり、さらに山羊が持つような湾曲する角を生やしていた。

 それを見て俺は思わずドキリとなる。間違いない、あれは俺がこの世界で遭遇してしまった魔物とまったく同じ姿だった。


 どういうことなのか、と疑問を感じる前に俺の体は魔物へと向けられていた。半ば反射的に体が動いた格好。その理由は、魔物の近くに人がいたからだ。

 どうやら商人の一団らしく、合計五人と馬車が一台。馬を含め全員が魔物に対し驚き硬直し、中には腰を抜かしへたり込んでいる人までいる。


 あれでは数秒後に魔物に食われるに違いない――その予想通り、魔物が口を開き、手近にいた人物を喰らおうとした。

 俺は足に力を込める。まだ距離はあるけれど、強化魔法を行使すれば十分間に合う距離。思考が鋭敏となり、さらに時間の進みが遅くなるような錯覚に陥る……その直後、俺は商人達へ近づく人影を見つけた。


 それは紛れもなく、魔物へ挑もうという気配を持っていた。剣を握り魔物へ一片の迷いもなく突き進んでいく――

 その存在を認めた瞬間、俺は目を丸くした……が、速度は緩めず魔物へ近づく。


 そして俺よりも早く別の人物が商人の前に立ちふさがり、握り締める剣を振りかぶり、魔物の頭部へ一閃する!



 ――オオオオオオオ!



 まともに剣を受けた魔物は空気を切り裂くような咆哮を上げる。それと同時に大きく後退し、商人達と大きく距離を取った。

 ここで俺も到着。商人達は唐突に出現した俺ともう片方に視線を送り、問おうとした矢先、


「全員、無事ね!」


 朗々とした女性の声が、街道に響いた。


「どうやら私以外に救援に駆けつけた人がいたようだけれど、もう大丈夫! この私――リリー=ネクロアが来たからには、誰一人傷つくことがないことを約束しましょう!」


 ――自信満々の口調。冒険者にしては衣服のみでやや軽装ではあるが、その布地にはたっぷり魔法的な処置が成されていることを俺は知っている。また手に握る剣……その容姿からどこか不釣り合いに見えてくる。

 加え何よりその特徴的な茜色の髪。肩に掛かるほどの長さのその髪は――それこそ、最終決戦で生き別れた時と何ら変わっていなかった。


 そう、彼女こそ俺が再会しようとしていた人物、リリー……俺は彼女の魔力を頼りにここに辿り着いた以上、こうして出会うことはできたわけだが――


「そして私と共に救援に来た人」


 リリーは俺へ向け語り出す――その所作は、俺と初対面だと察せられるに十分な反応だった。また先ほど名乗った名も、俺が最初に出会った時と同じものだ。


「あの魔物は私に任せてくれればいいわ。あなたは商人達の保護を」


 ……彼女の姿は間違いなく、俺がこの世界で窮地に立たされた時と同じもの。なおかつ顔立ちだって別れた時よりも若く――いや、幼くなっている。

 間違いなかった。俺はこの世界を再度訪れたけれど、以前召喚された時刻と場所へ転移――つまり『闇の王』が現われる前の時代に辿り着いたに違いなかった。


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