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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第一章
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顕現

「……俺でさえ壊せない強固な結界を展開できるということは、そちらも単なる魔術師ではない」


 イルバドは俺にそう口を開いた。


「お前は……何者だ?」

「喋る気はないな」


 答えながら杖を構え直す。逃げ道はない。イルバドはもう、俺達に勝利する以外に生き残る術はない。

 状況を把握し決心したか、イルバドは俺達へ剣の切っ先を向ける。しかしリリーの斬撃を受け満身創痍。となれば次の一手は――


「きちんと制御できるまで、やりたくはなかったんだがなあ」


 ぼやくように発した言葉と共に、イルバドが持つ剣に闇がまとわりつく。なおかつ彼の体すら覆うようになり……所持する『闇の王』の力を全開放したか。


「リリー、これで決まるぞ」

「うん」


 頷くと同時、イルバドが咆哮を上げ突撃する。リリーはそれに応じるべく走る。握り締める刀身からは、光――そして激突。刹那光と闇が弾け、部屋に衝撃波となって拡散。部屋がズタズタに切り裂かれていく。

 激突により大半を相殺したため、この被害はずいぶんとマシなはずだ。もし一方の力だけが拡散していたら、部屋は木っ端微塵に砕かれ結界も突き破り、綺麗な星空が見えていたかもしれない。


 次に生じたのはまたも鍔迫り合い。だがイルバドの顔が苦悶に満ちたものになる。力を制御し、なおかつ傷の痛みに耐え……その状況下で全力を出してなお、リリーを倒せない。

 むしろ、徐々にリリーが押し始める。イルバドの顔がさらに歪む。このまま押し切られれば間違いなく斬られる。よってイルバドは回避することを選択しようとした……が、リリーはそれを許さなかった。


 イルバドが行動に移した矢先、彼女の剣が相手の剣を弾き飛ばす。かわそうと力を入れた彼に避ける術はなく――刃が、しかとその身に入った。






「まったく……どうしようもなかったな」


 自嘲的な笑みを浮かべ、イルバドは大の字になって倒れ伏す。天井は衝撃波によってズタズタではあるが吹っ飛んでいるようなこともなく、彼は白い天井を見上げ呟く。

 出血はしていない。彼の体は『闇の王』による影響で既に人間という器から離れてしまっている。末路は魔物などと同じく消滅。程なくして、その体は塵のように消え去るはずだった。


「なあ、一つ教えてくれ……俺の敗因は、何だったんだ?」

「戦いの中で言ったはず。目指すものが違うと。もう一つ付け加えて言うならば、立っている場所が違いすぎた」


 リリーは油断を見せることなく、イルバドへと応じた。


「あなたは最強を目指した……王の中で最強を手に入れようと闇を手中に収めた。けれど、私達が立っている場所はそれよりもっと先だったという話よ」

「先、だと?」

「詳しく話すつもりはないけれど、私達は王を――『森の王』や『山の王』を軽く叩きつぶせる敵を相手にしなければならなかった。それに対抗するためにがむしゃらに強くなった。王を目指すだけでは……最強の王などという称号が何の意味も成さない力を得なければならなかった」


 イルバドは何も発さない。どうやって強くなったか……あるいはなぜそうまでして力を得ようとしたのか疑問だろうが、尋ねてはこなかった。


「立っている場所が違いすぎたのが一点と、何より……あなたが思う最強は、所詮あなたの想像の上でしかなかった、ということ」

「想像の上だと……?」

「『闇の王』から力を取り出すプロセスを完全に理解しているわけじゃないけれど、言わば力に触れた者の願いに応じるものなのよね? だとしたら、闇に触れた人物の想像力の範囲内でしか強くなれない……私達の最強とあなたが思う最強には、隔絶とした差が存在していた。そういうことよ」

「……はは、なるほどなあ」


 イルバドは笑う。ずいぶんと乾いた声だった。


「俺の目指していた世界をお前達は端っから眼中になかった……いや、遙か後方へ置き去りにしていたって話か」

「そうね」

「それじゃあ俺には到底勝ち目が無いな。お前達がどのくらい強いのか俺にはわからない……闇なんてものに力を託しても、結局俺は自分に負けたのか」


 ピシリ、とイルバドの体に亀裂が入った。残された時間はもうない。


「最後に、一つ質問させてくれ」


 そこで俺は声を上げた。


「どうしても訊きたいことがある」

「予想はつくな。まあ別にいいぜ。答えられるなら答えてやるよ」

「お前自身が『闇の王』について調べ、その力を手にしたのか?」

「いいや、俺はとある人物から資料を譲り受けた……資材についてはかなり必要だったが、貯め込んでいた俺ならどうにか工面できたからな。力さえ手に入れば、富だって得られる……そういう気持ちで大枚はたいて資材を買いそろえた」

「資料を提供したのはどういった人物だ? いや、そもそも人間なのか?」

「ローブで全身を覆い、真っ白の仮面を被っていたから人相はわからない。声も魔法で作っていたようで男か女かはわからない。魔力は人間っぽかったが、擬態しているようにも見えたからな。人間かエルフか竜か……断言はできないな」

「なら、そいつはなぜあんたに資料を?」

「目的は話さなかった。力を求めるなら、こういう手段もあるとして資料を無償で提供した……今思えば、俺を利用して実験でもしたかったのかもしれない。『闇の王』を取り込むことによって、どのような効果があるのかを探る……定期的にここを訪れていたからな」

「……エルフの森へ襲撃をしたのも、そいつの助言があったのか?」

「ああそうだ」


 裏で手を引く存在がいる……イルバドが『闇の王』を取り込んだ力の大きさを考慮すれば、『前回』世界に滅びをもたらした存在ではないだろうな。

 イルバドに情報を提供した者こそが、首謀者というわけか? 疑問はあったがおそらくこれ以上の情報は得られないと判断し言葉を止める。


 次に俺達がやることは決まったか……そう胸中で呟く間にいよいよイルバドの体が崩壊し始め――


「……っ」


 突如、イルバドの気配が変わる。俺とリリーは彼を注視した矢先、体に入っていた亀裂から突如、闇が漏れ出した。


「が、あっ……!?」


 苦悶の声。刹那、イルバドの体から闇が噴出したかと思うと、彼の周囲どころかズタズタになった部屋を覆うほどの規模に膨らみ始めた。


「レイト!」


 リリーが叫び、俺は杖をかざす。闇に対抗すべく杖の先端から光が生まれ、それが部屋の中を駆け巡る。

 だが、手応えはない。それどころか――


「闇が光を飲み込んでいるな……!」

「ちょっと、それって」

「ああ、そうだ」


 床を杖で一度叩く。それにより部屋を取り巻く結界がさらに強固に。加え、魔力を発して屋敷を囲うように結界を構築した。だが、


「俺達が戦っていた――『闇の王』の特性だ」


 直後、闇が爆発的に膨らみ、轟音を上げて部屋を粉々に打ち砕いた――


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