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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第一章
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彼が求めたもの

 夜、人気の無い通りを俺達は静かに歩む。オディルから得た情報によると、町から二十分ほど北に移動すると屋敷に到達する。そこは元々町長所有の屋敷だったのだが、亡くなって代替わりした際に無人となってしまったらしい。現在は町の役人が管理しているそうだが、イルバドはその役人に金を渡して使っているとのこと。

 彼の名声を利用すれば、町側としては護衛として頼りにできる程度の認識なのだろう……実際は『闇の王』を呼ぶべく暗躍しているわけだが。


 町を出て月夜の下をひたすら進む。俺とリリーは双方無言。既に打ち合わせはしているし何かを話す必要はない。今はただ神経を研ぎ澄まし、戦いに集中するべく意識を塗り替えている最中だ。

 やがて――俺達の前方に屋敷が見えた。大きさはまあそれなりといったところで、敷地を示す石壁が四方に張り巡らされている。


 そして入口の鉄門は……開いていた。俺達を誘っているとかそういうわけではなく、来訪者が誰もいないので開けっ放しにしているのだろう。


「私が前に出る。いいよね?」


 再確認としてリリーは問う。俺は首肯し、彼女は俺の前に立った。

 その状態で門を抜ける。敷地内は雑草がそこそこ生えてはいるが伸び放題というわけではない。必要最低限の手入れくらいはされているようだ。まあイルバドがやっているわけではなく、管理している役人が定期的に訪れているだけだろうな。


 玄関に近づく。扉のノブを回してみるとここも開いていた。不用心にも程があるけど……、


「気付いているのかな?」

「町で俺達を見かけ、わざと誘い込むように……と思ったけどさすがに無理があるな。誰も来ないから面倒で鍵を掛けていないってところか?」


 推測しながら屋敷の中へ。暗くてよく見えないが、そこそこ広めなエントランスみたいだ。気配を探ってみるが……この屋敷全体に魔力が存在し、どうにも読みにくい。

 そうした中でリリーは二階へ上がるよう指で示す。俺が頷くと彼女は迷わず階段へ。俺達が発する足音だけが聞こえ、無人の屋敷であるような錯覚すら抱く。


 とはいえ、これだけの魔力がある以上はおかしい――階段を上がると、右側の廊下から明らかに強い魔力を感じ取った。罠かそれとも――どちらにせよ、俺達は進まなければならない。

 慎重に俺達は歩を進める。廊下は真っ直ぐ伸び、両側に部屋へと繋がる扉がある。その数は、片側に五枚ずつ。


 濃い魔力がどの部屋から発しているのかわからないが……リリーは構わず進む。当たりを付けているのか、それとも何かしら確信しているのか――


 その時だった。俺の左にある扉から爆発的な魔力を感じ取ったと思った矢先、扉そのものが爆発し、破片が四散した。

 轟音と共に現われたのは黒騎士――ただしケンタウロスのような出で立ちではなく、二足歩行の人間に近しい見た目。狙いはリリーであり、漆黒の剣が彼女へ向け振り下ろされた。


 だが彼女は即座に一歩後退し、避ける。一方黒騎士の剣が追随し、彼女の首下に刃が……届く前に、リリーは身を伏せて斬撃をかわした。

 次いで体勢を立て直し、黒騎士が攻撃する前に彼女の刃が魔物の横っ腹に届く――刹那、刃が発光した。そして振り抜かれた一閃は、黒騎士の体を見事両断する。


 鎧が床に倒れ盛大な音を撒き散らす。その後、鎧そのものが灰と化していく……同時、一番奥の扉が開き、男性が姿を現した。イルバドだ。


「すげえな、まさか一撃とは」


 称賛する言葉だった。さらに拍手まで俺達へ送ってくる。


「いやいや、想像以上だな……ま、そうでなければ張り合いがない」

「なぜ俺達がここに来たのか、理解しているのか?」


 尋ねるとイルバドは「当然だ」と応じ、


「エルフ……ひいては『森の王』がいる町近くに攻撃を仕掛け、平穏無事で済むとは思っていないさ。十中八九刺客が来る……『闇の王』と関わっているのだから当然だ」


 ――最初から、刺客が来るとわかっていた。だからこそ『前回』は備え、オディルに勝てたのか。


「あんたら二人がここに来たのは、先の戦いによる功績ってわけか? その様子だとどうやら、俺が何をしているのかも聞いているようだな」


 笑いながら話すイルバドにはまったく悲壮感などない……先ほどリリーが黒騎士を一蹴して見せたわけだが、それでも優位は揺るがないと考えているのか。


「で、あえて聞くが……『闇の王』についてどこまで知っている?」

「たぶん、お前と同じくらいだよ」


 そんな俺の返答に対し、イルバドは哄笑を上げた。


「なるほど、そうか……とはいえいくらなんでも二人で来たのは無謀じゃないか?」

「どうかな……と、その前に一つ訊いておきたいことがある」

「お、何だ? 折角だから答えてもいいぜ」

「なぜ……こんな力に手を出した?」


 ――これだけは、是非とも尋ねておきたかった。もっとも、真正直に答えるのかわからないが。


「何だ? この力に興味があるのか?」

「違う。こんな無茶な力を得てまでやるべきことがあったのか? という話だ」

「ああ、なるほど……傍から見れば酔狂に映るのかもしれんが、俺としては当然の帰結だった。力を得たかったからな」


 そう述べるとイルバドは仰々しく両手を左右に広げる。


「この力を知ってから、自分がいかに世界を知らなかったのか如実に理解した。それまで目指していたものがガラガラと崩れ落ちた……が、その先にあったのはより大きな希望だった。この力を、知ることができたのだから」

「力を、得たかったのか?」

「そうだ。俺は欲しかった……最強という称号が」


 そう語ったイルバドの瞳は、狂気に包まれていた。力を求めていたことは、事実なのだろう。だが最強が欲しかった――これが本来の目的だったのか、それとも『闇の王』に触れて目的が変質したのか……正直言ってわからない。


「愚かだと思うか? それとも、理解できないか?」

「その両方ね」


 と、イルバドの言及に対しリリーは切って捨てるような答えを投げる。


「強くなろうとするのはまあ理解できるわ。けれど、こんなものに頼って強くなるなんて……人間を捨ててまで、強くなりたかったの?」

「そうだ」


 イルバドは即答した。


「どれだけ強くなろうとも、人間の器では限界があった……エルフや竜には手も足も出ず、俺は自分自身を憎んだ……なぜこの体は、これほどまでに弱いのか」

「だからこそ、こういう力に頼った……か。哀れだね」

「哀れか。確かにそうだな。人間ではどれほどあがこうとも、こんな方法でしか強くなれないのだから」


 その言葉に対しリリーは、


「浅い……いえ、人間のことを知らないと言えばいいのかな」

「何?」

「あなたは何もわかっていない。どれほど人という存在が強いのかを。エルフや竜……果ては天使ですら倒せなかった敵を、人間が倒せることを私は知っている」


 俺やリリー……だけではない。確かに『闇の王』との戦いは、人間の強さを認識することがあった。それこそ彼女が言ったように、天使ですら勝てなかった存在を、たった一人の人間が倒したという出来事があったし、最終決戦も人間が切り札だった。


「あなたは単に人間が何より弱い存在だと決めつけて、こんな暴挙に及ぶ結果となった……もっと人を知ろうとしなかった。それがあなたの敗因ね」

「ふん、到底信じられない話だな。妄想は他でやってくれないか?」

「厳然とした事実よ。ま、信じてくれなければそれでいいわ」


 そう言いながらリリーは剣を構える……いよいよ決戦の時だった。



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