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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第一章
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決戦前

「と、いうわけなんだけど」


 一連の説明を終えたリリーは話をそう締めると、俺の言葉を待つつもりなのか沈黙した。

 うーん、最後に核を砕いた……これをそのまま受け取ると『闇の王』を倒したという解釈だってできそうだが。


「リリーは負けたと思ってるのか?」

「だってほら、意識を失ってこうなっているわけだし、勝ったとは言えないでしょ?」


 両手を広げながら主張するリリー。確かに最終的に意識が飛んでそれきりだし、死んだと解釈してもおかしくはない。


「……他の人に確認しないといけないな」


 例えばルナとか……でもリリーが猛攻を仕掛ける間に闇に飲まれている可能性も否定できないが。


「しかし、最終的に核を砕いた……で、いいんだよな?」

「私の感覚では手応えはあった。でも、それで倒しきれなかったってことじゃない?」


 そう解釈するのが妥当か……ふむ、俺がいなくともそこまでは到達できた。ということは、


「たらればの話になるけど、俺がいたら勝ってたんじゃないか?」

「仮にそうだとしても、もう一度やり直せるのだからこっちの方がいいよ」

「何故だ?」

「あの戦い、レイトがいたとしても最後まで残っていたのはきっと、私とレイトだけだったように思えるから」


 ……最終的に犠牲者多数である以上、こっちの敗北ってことか。そういうことなら、今回犠牲者もなく対処できる可能性があるわけだし、リリーとしては良いと解釈してもおかしくない。

 ただ、今の世界と『前回』とはどういう関係があるのか……単に過去に戻ったとは思えないけど……。


「ま、真相究明は先の話か。ともかく今はこの時間軸において『闇の王』の力を得ようとしているイルバドを倒すことだけに集中しよう」

「うんうん。それでレイト、試したい技があるんだけど」

「……ほどほどにしてくれよ。決戦も近いんだから、怪我でもされたら面倒なことになる」


 そんな会話を行いながら、俺達はひたすら歩み続けた。






 リリーから『闇の王』について色々聞いた後、俺なりに少しばかり考え、イルバドとの決戦に向けて準備する。といってももし『前回』のように巨大化したらとか、そういう場合に備えての処置だ。

 本当ならこういう対策を行う前に決着がついて欲しいのだが……そんな風に考えながら俺達はイルバドが潜伏する場所に程近い町へと到着した。


「問題は、イルバドが俺達の存在にいつ気付くかだな」


 そう述べながら俺は軽く伸びをする。


「奇襲を仕掛けるのは『森の王』ですら気付かれたし、意味はない。正面から攻撃するしかなさそうだが……問題は、逃げられたら面倒なことになるってことだ」

「今回は居場所がわかっているから来れたけど、潜伏先を変えられたら見つけられないかもしれないし、ね」


 リリーの言及に俺は「まさしく」と応じ、


「森の戦いで俺の使い魔に気付いたくらいだから、尾行するのも厳しいだろうからなあ。よって戦闘に入ったら一気に決着をつけたい。俺の魔法で結界を形成し閉じ込めるにしても、イルバドのアジト全域を覆うほどの結界……それは強度に不安もあるし、やるにしても手負いにして容易に突破できない形にしたいな」


 強固な魔力結界を構築しても、絶対に出さないようにするためには結界へ常に魔力を注ぎ続けなければならない。アジトの規模によってはさすがに辛いことに加え、これだと俺が戦闘に参加できても戦力ダウンするので却下。


「……ま、ここは『森の王』による依頼だとして、上手く牽制するしかないな」


 例えば「そちらのことはオディルが常に把握している」とか主張すれば、逃げるよりも撃退した方がいいって考えになるだろう。


「リリー、場所はわかっているし今からでも行けるけど……どうする?」

「人がいる可能性もあるし、昼間は避けるべきでしょ。ひとまず夜……深夜手前くらいまで待つことにしない?」

「んー、そうだな」


 というわけで宿を求める。トラブルもなく最寄りの宿に入り込み、夜を待つことに。


「ふー……」


 息をつきながら杖をベッドの横に置く。いよいよ決戦というわけだが、そう悲観的なわけでもない。

 リリーの戦力も上がったし、俺も調子はいい。問題はイルバドがどれほどの力を手にしているか……オディルによれば交戦した時点で彼は既に『闇の王』の力を手にした……ただし、それを使いこなすのには時間が必要なはず。付け入る隙があるとしたらそこか。


 仮に『前回』の『闇の王』がイルバドであったとしたら、ああなるまでに時間は掛かったはずだ。暴走したのか他に要因があるのかは不明だが……。


「あの暴走状態になったとしたら……相応の覚悟は必要か」


 犠牲ゼロで勝利したいところだけど……と、ふいにノックの音。返事をしたらリリーが入ってきた。


「最終確認をしたくて」

「いいけど……具体的には?」

「私が前衛で後衛がレイト……ってことで、いいんだよね?」


 ――現時点でイルバドに対しては俺の能力をほとんど見せていない。リリーの能力については相手も察しているところであるため、これを利用して俺が色々支援するのも良さそうだ。


「ああ、それで構わない。俺は魔法ってわからないよう上手く援護するさ」


 俺が魔法使いであることを知られていないのは大きなアドバンテージになるし、上手く立ち回ればもしもの場合でも対応がしやすくなる。


「それじゃあ夜、行動を開始する。それまでは休もう」

「そうだね。レイト、旅の疲れは大丈夫?」

「問題ない。そっちも訓練疲れはないだろうな?」

「もちろん」

「なら――今日動くぞ」


 俺の言葉にリリーは頷き、作戦会議は終了した。

 よって、彼女は部屋に戻る……と思ったが、立ったままである。


「どうした?」

「一つ質問が。この戦いを勝利した後、どうしようか?」

「……イルバドが世界を滅ぼすほどの存在に至ったのかどうかわからないし、まだまだ調べることは多いぞ」

「ということは旅を続行?」

「そうなるな。不満か?」


 こちらの疑問に彼女は苦笑。


「正直今の状態で城に戻ってもロクなことがないなー、と」


 確か『前回』はかなりの武功を挙げて帰ったため、破天荒な彼女でも認められる形だった。けど、今回は違う。このまま帰ってもただ城に押し込められるだけだろう。


「せめて少しは功績を上げないと、お城から出られなくなるかも……」


 さらにリリーは言及。まあ『闇の王』を始めとした帝国に対する脅威が認知されない以上は、そうなってしまうのは必然的。かといって脅威そのものを帝国が認識するような事態は犠牲だって出るだろうし避けたいよなあ。オディルと協力していると説明するのもアリだけど、「皇女の出る幕ではない」とか言われ押し込められる可能性は十分ある。


「それに」


 と、リリーは少しばかり俯き、


「間違いなく、レイトと一緒にいられなくなる……」


 ……それが一番の理由だったりする?


「――俺としては、自分で納得できるまでは『闇の王』について調べたい」


 彼女の言及に、俺は語る。


「だからまあ、国としては不本意かもしれないけど……しばらくは、リリーと共に旅をしたいな」


 パアッ、とリリーの顔が明るくなった。俺の口から一緒に旅を、ということで嬉しかったらしい。


「うん、そういうことなら仕方がないね! レイトだけだと不安だからね!」

「まったく……そういうことだから、まだまだ働いてもらうぞ」

「はーい」


 不安がなくなったとばかりに返事をして彼女は部屋を出る。そこで俺は苦笑し、


「もしかして、必要なくなったら離れるとか思っていたのか?」


 まあ俺がどうとか伝えているわけじゃないし……ともあれこればっかりは全部解決してからなので、申し訳ないがリリーには辛抱してもらおう。

 そう思いながら俺は休むことにする――やがて頭の中は、イルバドとの戦いにシフトしていった――


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