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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第一章
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試し切り

 俺達はエルフの棲まう森を離れ、街道に出た。そこから宿場町を到着し、食料などを購入した後、進路をイルバドのアジトへ向けながら歩を進める。

 そして、夜……俺達は野営をしたのだが、その場所は町からずいぶんと離れた森の中だった。


「よし、こんなところか」


 森と平原の境目で俺は準備をする。目的はリリーが得た『虹の宝剣』の試し切り。といっても俺が直接相手するのではない。『森の王』オディルが植物ゴーレムを生み出したように、擬似的に魔法で生物を構築して、リリーと対戦させるのだ。


 俺は『闇の王』との戦いに際し、こうした魔法も色々と検証したことがある。どんな魔物を生み出すのかについては、元の世界におけるゲームとかマンガとかを参考にした。ネタには事欠かなかったし、やってみると楽しかったので瞬時に生み出せるくらいには技量も持っている。

 ただ、実戦で使われることはほぼ皆無だった。理由としては使い魔的な存在を作るより自分で魔法を撃った方が早いというのが結論だったので。


 森でリスを放ったように視点を増やすくらいの効果なら複数体作ることも可能だけど、強い能力を持った使い魔を生成しようものなら制御維持に結構リソースを持って行かれてしまうのだ。二つ以上の魔法を同時に扱える俺からすれば一つを使い魔に、もう一つで魔法を、という戦法もできなくはなかったのだが、注げる魔力が分散する以上はどうしても出力が弱くなる。だったら魔法に魔力を凝縮した方が早いという結論だった。


 ちなみにオディルが使っていたのは、たぶん『森の王』としての立場的な要因もあるのだろう。王としての立場がある彼は迂闊に前線に出ることができないため、遠隔操作できる使い魔を用いるケースがあった、と。


「よし、準備できた」


 仕込みは完了。魔法を発動させると、体育館くらいの規模を持つ魔力結界が俺達を囲うように形勢。俺とリリーが本気になったらあっさり砕けてしまうのだが、今回は試運転だし問題ないだろ。

 少しするとリリーが森から出てくる。既に抜き身の剣を握り締めており、準備は万端といったところ。


「それじゃあ始めるけど……魔物のリクエストはあるか?」

「レイトのお好みで」


 このやり取りも久しぶりである。『前回』の戦いで『聖皇剣』を握って以降、その力を試したくて俺がよく駆り出された。どんな形の魔物がいいかを訊くと、いつも先ほどの言葉が返ってきた。

 リリーは俺の事情を良く知っているので、下手にリクエストするより俺が独自に魔物を作った方が面白いと考えているようだ……ま、自由にやれるからいいけど。


 杖を突き立て、魔物を生み出す。イメージとしては召喚魔法に近い。地面に突如魔法陣が浮かび上がり、そこから一体の魔物が出現する。

 見た目はこの世界のどこからか召喚された風に見えるけど、実際は俺の魔法で作っており単なる演出である……出てきたのは全身を漆黒の鎧で覆った騎士。リビングアーマーとかデュラハンとか、そういうものをイメージした魔物だ。


 右手には大剣が握られ、一歩足を前に出すとズン、と重い音が聞こえた。


「相手にとって不足無しね」


 リリーは不敵な笑みを浮かべ告げる……獲物を見て舌なめずりさえしそうな気配。そんな好戦的な様子を見ながら俺は、魔物へ指示。同時、漆黒の騎士は猛然とリリーへと向かう――!!


 文字通り最短距離を突っ走り、リリーへと差し込まれる大剣。並の戦士では反応するどころか身じろぎすらできたかわからない瞬足の一太刀。

 だがリリーは魔物が動いた瞬間に一歩横へと移動していた。大剣は空を切り、返す刀で彼女を追撃しようとする。


 だがそこでリリーが攻勢に出る。直後、刃から生じたのは――炎。


「まずは一つ目!」


 掛け声と共に振り抜かれた剣戟は、魔物の横っ腹に直撃する。刹那、剣から魔物へ火が移ったかと思いきや、一瞬にして全身を包む業火と化す。その威力は明らかに以前の剣よりも上だ。

 燃え上がる炎の弾ける音と、顔を手でかばいたくなるほどの熱。魔物は身動きとれなくなったのだが……それでもリリーの追撃が放たれるより前に、大剣を振りかざし彼女へ向け放った。


 魔物については一定の思考ルーチンを組んでおり、基本全力で応じ、攻撃を受け問題が無ければそのまま押し込めという命令を与えている。つまり魔物は業火に包まれてはいるものの、まだまだ余裕があるというわけだ。

 だがリリーも余裕があると判断すると、今度は一転炎とは異なる力を刃に収束させる。次は……風だ。


「そおらっ!」


 風をまとわせた彼女の剣と、魔物の大剣が双方の中間地点で激突する。肩幅も上背もリリーと比べ大きい魔物だが、両者の膂力はまったくの互角らしい。

 もっとも魔物は単純な斬撃だがリリーは違う。剣が触れ合った矢先、風が突如暴風と化し、魔物へと直撃する。


 それはなおもまとわせていた業火を一瞬にして消し去る勢い。魔物の足は地面を離れ、巨体が飛ばされる。とはいえ魔力結界によって壁を形成しているため、体は結界の壁面に激突して、止まった。

 金属が歪むような軋んだ音が聞こえる。そこでリリーは一度軽く素振りをして、剣の感触を確かめる。


「うんうん、上々ね」

「確認するけど、まだやるか?」

「当然よ。倒さない限り、終わらせるつもりはないから」


 魔物が体勢を立直す。よくよく見れば鎧のあちこちに裂傷のような筋が入っている。風で吹き飛ばすと共に、かまいたちのような風の刃で鎧を切り裂いたのだろう。

 剣が激突した瞬間、魔力同士がぶつかったので風の威力も多少は損なっていると思うけど……それを踏まえてもあの威力。俺だって魔物は力を入れて作成し、特に硬度には気を遣った。だがそれを平然と傷つける以上、前の剣と比べ大幅に火力が上がったと考えていいな。


 で、リリーはどうやら物足りない様子……ならば、


「じゃあ少し支援するか」


 俺は防御魔法を発動。単純に魔物が持つ魔力結界の効果を上昇させるシンプルなもので、リリーは、


「む、後出しとは卑怯ね」

「戦術と言ってくれないかな……ちなみに硬度は、森で戦ったあの黒騎士を上回るかもしれない」


 そう述べた瞬間、リリーの目つきが変わる。『前回』幾度となく見せていた、恐れを知らない好戦的なものだ。

 それは、獲物を狙おうとする獣のような雰囲気もまとわせている……こういうところが皇女としては人を遠ざける要因にもなっていたはずだが、俺は何も言わなかった。


 というかこういう一面のある彼女に対し、大なり小なり好感を持っていたこともある。


「来なさい」


 魔物へ手招きするリリー……彼女自身に自覚があるかどうかはわからないけど、俺は一つ確信している。彼女は戦いを楽しんでいる。もっともそれは相手を滅したり殺めたりすることが好きだから、とは違う。

 この戦いを通して自分が強くなれるという確信があるから。つまり成長に対する喜びを持っている……たぶん『闇の王』との最終決戦でも、そうだったに違いない。


 もっとも国を背負っていた彼女は指摘しても全力で否定していただろうけど……ともあれ、今の彼女は『闇の王』と戦う前――俺と共に旅をしていた時の姿に変わっていた。


「――なら、行くぞ」


 俺は声を上げると共に杖を振る。直後、魔物が跳ぶようにリリーへと駆け、迫る。

 それに対し彼女は剣を地面に突き立てた。それにより生じたのは冷気。同時、彼女の足下から鋭利な氷の刃が現われ、それが地面をガガガガ、と壊しながら魔物へ向け迫る。


 魔物はそれを避けようとせず、まともに食らう。氷の刃が全身を覆い、体を拘束すべく蛇のように食らいつく。しかし魔物はそれでも歩みを止めず――勢いをそのままに、氷を突破する。

 けれどわずかながら時間稼ぎになった。そしてリリーは……これまでとは比べものにならない魔力を、刀身に注ぐことに成功していた。


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