武器強化
エルフの全面支援を受けることになった俺とリリーは、『闇の王』の力を持っているであろうイルバドに対し色々準備を行うことに。
特に強化すべきことは何よりリリーの武装について。現在持っている剣は城から持ちだした業物だし、先日の戦いでも十二分に活躍した。とはいえあんな魔物が十数体なんていうオディルの情報から、さらに強力な武器が必要なのは明白だ。
というわけで、俺達は武装強化のために武器庫を訪れる。そこには、魔力を蓄えた武具がずらりと並んでおり、壮観だった。
「皇女の武具を優先したいとのことですが、どのような物がご所望ですか?」
オディルが問い掛けると、リリーは真面目な顔で、
「とにかく強い剣」
「シンプルですね……人には得手不得手な属性などがあるはずですが、あなたは無いのですか?」
「少なくとも『聖皇剣』を使っていた時は、ありませんでしたね」
俺が補足する。というのも『聖皇剣』は擬似的に魔法が使えると言われるほどに汎用性の高いものだった。この世界には四大元素――地水火風という四属性を中心とした魔法体系が形作られているが、それらに加え多種多様な属性のほぼ全てをカバーしている剣だ。唯一闇系統については扱えなかったが、名前からして使えないのは当然なので誰も気にしていなかった。
そしてオディルが語っていたのは人間は個人個人で得意な属性と不得意なものがあるということだ。例えば炎を扱うことに長けているなら、多くの場合相反する水属性系統の攻撃は威力が落ちるといった問題が生じる。これは訓練などによってカバーできるのだが、魔力の質的な問題であるため、完全に払拭するのは難しい。
で、リリーはどうかというと……苦手な属性などなく、その場に応じて戦っていた。その原因を以前尋ねてみると「得意なものがない代わりに、どれでも上手く扱える」という返答だった。つまり属性によって得手不得手がないというタイプだったようだ。
「ちなみに、現在所有している剣は?」
オディルがさらにリリーへ質問。彼女は腰に差した剣を見据え、
「炎が主ね。けど、これは城の蔵にあったよさげな物を拝借しただけで、別に炎に対しこだわりがあるわけではないけど」
「ふむ、先日の魔物を打倒できるだけの力が備わっている以上、強い剣であることは間違いないようですし、それ以上の剣ですか……ならば、こちらはいかがですか?」
オディルは奥の方にある剣を一本手に取り、リリーへ渡す。彼女が剣を抜くと綺麗な白銀の刀身。特徴的なのは柄の部分。ピンポン球くらいの大きさを持った宝玉が埋め込まれているのだが、それは角度を変える度に色が変わる……極彩色の特性を持っているものだった。
「銘は特にありませんが……私は『虹の宝剣』と呼んでいます」
「虹?」
「埋め込まれた宝玉の特性により名付けたものですが、様々な属性の力を引き出せる、汎用性の高い魔装となっています。切れ味も私が保証しますよ」
つまり『聖皇剣』に近い能力を持っているわけか。リリーは剣を軽く素振りし、手に力を込める……すると、小さく笑みを浮かべた。
「ああ、これはいいわね。手に馴染むし」
「イファルダ帝国が持つ『聖皇剣』を扱った経験があるのなら、この剣はそれに近い特性なので、すぐにでも自在に扱えるはずです」
「うん、気に入ったけど……もらっていいの?」
「最強の敵に挑むわけですから、私としてはこの報酬でも足りないくらいだと思っていますよ。遠慮無く受け取ってください」
よってリリーの剣は決定した。対する俺だが、いくらか杖を握ったけど、あんまりよろしくない。
現在持っている杖はあくまで見せかけなので、杖自体に攻撃力は皆無。なので強力な効果を持つ杖を持てば、俺の魔法プラス杖の攻撃力で相乗効果を狙えるのでは……と考えてしまうところだが、そういう単純な話ではない。
「レイト、あなたには不要かもしれませんね」
と、オディルが口添えした。
「私達魔法使いにとって、武器などに存在する魔力は邪魔なものになることが多いですから」
「……『前回』における『闇の王』の戦いでも結局見せかけの杖だったし、現状では十分ってことですか?」
「ええ。むしろ余計な物があると逆に阻害するかもしれません」
ならあきらめるしかないか……では、
「それなら、魔力結界を補強できる道具とか衣服があれば。それなら魔法の邪魔にはなりませんよね?」
「結界と魔法は特性がだいぶ違いますから、問題はないですね。ではいくつか見繕いますので、選んでください」
――結果的に、現在来ているような物と似たり寄ったりな青いローブに落ち着いた。色合いについては完全に俺の好みである。
リリーの方も防御効果を持つ腕輪とかを手にとってそれを身につけた。うん、ひとまず装備について問題ないかな。
「もし他に入り用があれば、ここを訪れてください。あらゆる物を、とまではいきませんが、必要な物はできる限り調達しますので」
そうオディルは語る。うん、至れり尽くせりだ。
「また私の方は情報収集に専念します。『闇の王』を顕現させるために必要な資材については特徴がありますから、そうした物品の流れを把握すれば、もしかすると他に力を得ようとする輩を見つけられるかもしれません」
イルバドが『闇の王』の力を得ようとしているのは確実だが、他にいるかもしれないからな。『森の王』がそれを懸念するのは至極当然であり、俺は小さく頷いた。
「わかりました……その、私達は『闇の王』を全て打倒するつもりでいますので、もし他に顕現する兆候が見られたのなら、遠慮無く言ってください」
「それは……」
「いいのよ。私達がそうしたいだけだから」
リリーの言葉にオディルは一度驚くような所作を見せる。そして、
「……わかりました」
そう告げると彼は、リリーに右手を差し出した。
「ならば私達は『闇の王』を打倒する同志……いえ、同盟者として手を組みましょう。書面による契約もない私的なものですが、私がこの地位にいる限り、皇女と魔法使いレイトの旅路を支援致します」
「ありがとう。期待に応えられるよう、全力を尽くすわ」
『森の王』と皇女は握手を交わす。一連の依頼から、まさしく完璧な結果だった。
「でも、支援してもらうには何かしら連絡手段が必要ね」
「それには提案があります。皇女の協力が多少必要ですが――」
そこから二人がいくつか話し合いを行い……それを終えた後に俺達はオディルと別れ、エルフの町を後にする。イルバドがいると思しき場所は情報を受け取ったし、いよいよ決戦というわけだ。
「少し距離はあるけど、俺達の足ならそう掛からず辿り着く……『闇の王』に関する情報を得たし、さらに『森の王』の協力を得た。後顧の憂いはなくなったな」
「そうね。あと決戦だけど、その前に一つやることがあるわね」
彼女に言われずともわかっていた。俺はリリーが腰に差す新たな剣を見据え、
「その剣を扱う訓練だな……でも、持っていた剣は王に預けて良かったのか?」
「別に良いよ。武器に愛着持っているわけでもないし、二本差すのは意味がないしね……で、レイト。どうするかはわかってるよね?」
彼女が新たな武器とか新たな技を試す場合、決まって俺が相手になっていた。何か仕事を受けて魔物で試し切りでもいいのだが、それだと全力を出すのは難しいからな。
「ああ、わかってるさ。ただ準備が必要だから、町から距離を置いてからだな」
頭の中でどうするか思い浮かべながら語る……新たな武器を得てどれだけ戦力が上がったのか――それを道すがら検証することにしよう。