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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第一章
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魔法使いの激突

 最初の激突は引き分けに終わる。重要なのは次の動きであり、俺は再び杖を振り、今度は雷光を発動させた。

 先ほど放った牽制的なものではない。しかも稲妻をその姿を明確にして――胴長の竜に変化する。


 オディルはすぐさま構える。避けるか受けるか……思案する間に俺は杖を振り、雷竜を差し向ける!


 轟音と共にエルフの王へと飛来する稲妻。だがその寸前、彼は横に逃れようとした。

 無論、回避を選択したならば策はある。というより俺は雷竜に一つ能力を当てた。それは接近した相手に対し四方八方に雷撃を放ち、動きを縫い止めるというものだ。


 ゲーム的に言えば麻痺させる効果を付与したと言うべきか。これが『森の王』に通用するかは微妙だったが――拡散した雷撃がオディルの体に当たる。魔力結界によってそれは弾かれてしまったが、わずかながら動きが鈍った。それは雷竜を当てるのに、十分過ぎる隙だ。

 刹那、オディルの体を雷竜が飲み込んだ。衝撃が周囲を駆け抜け、稲光と共につんざく破裂音が訓練場を満たす。雷によってざわりと全身の毛が逆立って、なおも激しく雷光がオディルの体を包む。


 そこで、俺は一つ気付いた。雷竜は『森の王』の体を駆け抜け後方にある訓練場の壁面に当たって弾け飛んでいるのだが、その壁に、ヒビが入り始めた。


「俺の魔法に耐えきれないか……」


 少しだけ威力を弱める。その間に閃光が訓練場を包み……やがて魔法が途切れ始めた。

 やがて雷竜が消えた時、息をつくオディルの姿が見えた。


 外傷はないみたいだけど、なんだか複雑な表情。どうしたのかと思いながらも追撃の準備を始める。それと同時、オディルもまた魔力を高めた。

 しかもそれは、今までとは違う大きさ……どうやら本気を出したらしい。


 さっきの植物ゴーレムも相当だったが、今度はもっと強力な……そこで閃いた。俺の能力をはっきり理解してもらうために、やれることは一つ。

 杖をかざし魔力を先端に収束させる。右手に力を込め、今まで以上に魔力を注ぐ。それによって生じるのは光。今度は単純な光弾みたいな魔法を放つつもりだった。


 対するオディルの魔力がさらに高まっていく。気付けば彼の周囲の空間が歪んでいると錯覚させるほど。その直後、背後に光が生まれるとやがて形をなし、青い光の槍へと変貌した。


「……あー、そう来たか」


 ふいにリリーが発言。それに俺は、


「何か知っているのか?」

「王はエルフ最強の武器をイメージして、魔法を構築したのよ。元々エルフは狩猟を得意とするため弓矢をメイン武装とするんだけど、その中で武芸に秀でた古代の王は、槍……かざすだけで森を浄化する、青き槍を持っていたという伝承があるの」


 つまりオディルの槍はその再現というわけか。なるほど、先ほどの雷竜を見て最強魔法を使うに足る存在だと認識したようだ。

 ならば、こちらも本気を出そう……そう考えながら俺は左手を動かす。手の先には……紫色の光が。


 それを見たオディルは、これまでにない表情――目を丸くし、驚いた。


「それは、何故……」


 杖に収束した光とは明らかに異なる、二つ目の魔法。本来なら一度に一つしか使えない魔法だけど、俺はこちらの世界に召喚された影響なのか、それともそういう特性を持っていたか……二つ以上の魔法を平行して使うことができる。


 とはいえ三つ以上同時に行使すると威力が分散されてしまうので、ほとんど意味はない。威力が上がるのは二つを同時に使う時のみ。ただし威力を高めるには少々溜めが必要なので、本来なら一つに集中した方が隙も少ないし良いのだが……今回はオディル側も溜めの動作がいるみたいなので、利用できたわけだ。


 俺はかざしている杖に左手を添える。途端、白と紫が混ざり合ったかと思うと、ドクンと鼓動のように魔力を鳴動させ、訓練場を満たす。

 オディルはまだ槍を射出しない。そして俺は杖の先端を相手へ向ける。


「これで決まるね」


 リリーが確信を伴った声。俺は内心同意し――光弾を、放った。

 オディルは避けなかった。いや、伝説の槍を創りだしたことで避けるほどの余裕がないのかもしれない。あるいはこちらの全力に応じるつもりだったのか。


 光弾と槍が、激突する。光が拡散しせめぎ合うことでキィィィィン、という金属音めいたものも聞こえてくる。槍が光弾を突き破るか、光弾が槍を打ち砕くか。激突し双方が動きを止めたが、勝敗は――

 その時、俺は視覚に捉えることができた……光弾が青い槍を破壊し、オディルへ迫る光景を。


 それを確認した矢先、光弾が王の足下に突き刺さる。それにより生まれたのは白い光の柱。着弾した瞬間に上空へと昇る仕様にしていたのだが……白い光の中に所々紫の光が混ざっており、二つの魔法が組み合わさったものであるのが克明にわかるものだった。

 オディルは光に飲み込まれたが、果たして……沈黙し前方を注視していると、やがてオディルが姿を現した。光弾の威力は相当なものだったはずだが、彼は無傷。槍によって光弾もかなり魔力を削られたということだろう。


「……見事、です」


 やがて、オディルは俺へ向け口を開いた。


「二つの魔法を掛け合わせることのできる能力に加え、私の全力に対しても応じるどころか勝ってしまうほどの威力……なおかつ、あなたには余力がある」


 彼は後方を見やる。視線の先には雷竜の魔法によってヒビ割れた訓練場の壁面が。


「先ほどの魔法も、まだ魔力を注げる余地があったのでしょう?」

「まあ、多少は」


 オディルは笑みを浮かべる。戦う前と同じような表情ではあったが、どこか清々しさが存在していた。


「その力、しかと見届けました……しかし、この力を持ってしても『闇の王』には勝てなかった、ですか」

「全力で応じる決戦前にリリーに元の世界へと戻されたんですけどね」

「レイト、そのツッコミはいらないんじゃない?」


 そんな彼女の言葉に俺は肩をすくめる。


「ともかく、俺達がイルバドに挑むということで……いいんですか?」

「はい。というより私が頼まなければならない立場でしょうね」


 オディルは俺達と視線を重ね、述べる。


「皇女リリーテアル。そして魔法使いレイト……お二方にイルバドの討伐を依頼します。彼は私が『前回』戦った時点で闇の世界の影響を受けており、人間を捨てていた……現時点ではわかりませんが、あなた達が挑む段階ではそうなっている可能性が極めて高い。注意してください」

「もちろんです。必ず、倒してみせます」


 こちらの言葉にオディルは「お願いします」と再度告げた後、


「無論、相応の支援はしましょう。お二方には私達が作成した武具などを提供します。魔法使いであるレイトにどこまで有用性があるのかはわかりませんが、必要な物についてはいくらでも持って行って構いませんよ」


 何という大盤振る舞い。エルフの王からの提供なのだ。とても心強い支援と言えるな。


「それでは、移動しましょうか」


 そうして俺達は訓練場を後にする。最後尾で階段を上ろうとしたとき、俺はふと砕けた壁面に視線を移した。

 オディルですら成し得なかった力を持つ俺だが……仮に最終決戦に挑んだら、勝てたのだろうか?


「答えはさすがに出ないか。まさかもう一度世界を無茶苦茶にする『闇の王』を顕現させるわけにもいかないからな」


 呟きの後、俺は歩き始める。これからいよいよ、悲劇を食い止めるための戦いが始まることになる――


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